第24話  旅の始まり

 フォルクスは流石にただ単に手を当てるだけしか出来なかった。


「フォルクス様に抱かれるのは望む所なのだが、やはり囚人監修の元では嫌なのです。やはり初めては二人っきりで優しくされたいのだ。って私、その、あの」

 

 ラティスはフォルクスの手を胸に当て、心臓の鼓動を確認させていたが、胸に手があるのだ。大胆な行動に耳まで真っ赤になっていたが、フォルクスはその手をそっと自分の胸に当て、話題を逸らす事にした。


「大丈夫だから、僕を信じて。どうやら僕の力は見た魔法をコピー出来るようなんだ」


「それは凄い能力ですね。」


 それがどうしたの?といった感じで、さらっと返されキョトンとしていた。


「実はさっきさ、奴隷契約全般に必要な魔法を取得しちゃった。偶々建物の中で奴隷契約をしている人がいたんだ。奴隷も扱ってますと奴隷をちらっと見せられた時に丁度契約変更をしていたんだ」


 今の季節は日本で言うところの春位になる。そう、かなり暖かく過ごし安いのだ。初日というのもあり、普通の服を着ている。普通の服と言っても、街中で着るような普段着ではなく、冒険をする時に着る服だ。わざとなのかそうではないのか分からないが、女性達の服は胸を強調するように、少し胸元が開き気味な服を着ている。街中で見掛ける女性、特に若い女性にそういう傾向が見られるのだ。基本的に強い男性に依存しなければ生きるのに厳しい社会であり、そういう文明レベルでしかない。その為、男性の気を引く為にボディーラインを強調する服、特に胸元を開け気味にするファッションが主流となっている。

 その為か男性よりも女性の方が胸の大きさや、男性の反応に敏感だったりする。


 今は皆が比較的薄着に近い服を着ている。それは日中は暖かだからだが、それでも夕方からは冷え込むので、毛布やコートの類は馬車の中に入れている。


 フォルクスとラティスの身長差の為か、フォルクスがちょっとラティスの顔を見ようとして横を向くと、ラティスの胸元を覗く形になり、ラティスの谷間が見えるものだからフォルクスはドキドキしっぱなしであった。他の3人は13歳だが、ラティスは15歳だ。15歳と言えば中学校3年生か高校1年生だろうが、世間一般から見たらまだまだ子供であるのだが、同年代のフォルクスから見れば充分魅力的な同年代の異性である。受付のお姉さん達に至っては妖艶な大人の女性に見える年頃だ。


 今は街を出てから1時間位進んでおり、特に何事も無く順調に進んでいた。ラティスにも余裕が出てきたのか、フォルクスの視線に気が付き始め、胸元を見られている事から少し赤くなっていた。


 そしてラティスの方からフォルクスをいじろうと考えたりしていた。


「あの、フォルクス殿?先程からチラチラと私の胸元を見ていると思うのだが、やはり男性ですから、その、胸が好きなのですよね?そんなふうにチラチラ見ていないで、はっきりと見せらと言えくば良いのですよ。その、私の体は権利を所有するフォルクス殿の物ですし、いずれ抱いて頂くのですから、少し位ならお、お触りをしても良いのに」


 フォルクスははっとなった。からかわれているというのと、失礼な事をしたのだとなり、まずい!嫌われると少し焦ってしまった。


「ごめん。つい、そにょ、ラティスが綺麗だから見惚れていたんだ。それにプロポーションも抜群で、魅力的な谷間だからついつい見ちゃった。じゃなくて、そうであって、あれじゃなくて、えっと、失礼な事をしちゃったね。ごめんなさい。でも、その、本当に触っても良いの?」


 おろおろしていたフォルクスが面白くて、ラティスが追い討ちを掛けようとしていたが、なんとフォルクスの手が胸に伸ばされて来て、タッチされたのだ。フォルクスもやはり体目当てなのかな?とは思いつつ、恥ずかしさから真っ赤になり、初めて男の人から胸を触られたので固まっていた。だがしかし胸に当てられた手は胸を揉むのでもなく、押し付けてくるのでもなく直ぐに胸から離れていき、あれっ?となった。よく見るとフォルクスの手には鳥の糞が着いていた。


 そしてクリーンを掛けていたのだ。ラティスは自分が恥ずかしくなった。誠実なフォルクスをけしかけてしまったのだ。胸をエッチな事を目的として触って来たのだと思ったのだが、そうではなかった。鳥の糞から己が汚れるのを守ってくれたのだ。ただのその辺にいるエッチな男の子と同類だと誤解していたが、誠実な漢だったのだ。そう、フォルクスは勘違いからまたもや美化されていくのであった。


 ラティスはフォルクスが良い人で良かったな!と心底思った。どうしてこの人は必死になって自分を助けてくれたのだろうか?ひょっとしたら好意を持ってくれたのかな?と思わなくはないが、あそこまで必死になってくれるにしては日が短過ぎるのだ。というよりも会ったその日に親身になってくれていた。多少なりとも自分の見た目には自信があったが、自分の見た目や、自分に魅力が有って優しくしてくれるのではなく、この人の性質なのだろうと思うのだ。周りからは男装の麗人と言われ、母親も身内贔屓を差し引いてもはっとなる美人だから多少自信はあった。


 しかし、救いの手を差し伸べてくれた瞬間からフォルクスの事しか考えられなくなっていた。私ってこんなに惚れっぽかったかな?と思いつつ、彼はシャイなのか胸もチラ見しかしてこない。この人は他の男とは違うんだ!胸を見ていたからと謝ってさえいる。普通この世界の男はじろじろといやらしい視線を向けて来るものだ。確かにフォルクスも自分の胸とかが気になるようで見ていたりするが、遠慮しがちだからもっと堂々と見ればよいのにと思うのだ。他の男みたいに値踏みするかのように失礼な視線を向けて来ないのが新鮮だった。そしてラティスはシーラが羨ましかった。冗談を言い合っているし、いじられているのだ。ラティスに対してフォルクスからはボディータッチすらない。


 それとフォルクスについてだが、女性関係以外でも時折違和感があった。そう常識が欠如している事が多いのだ。


 そして今正にぎょっとしたのだ。前方から馬車が来たのだが、向こうの馬車が接近して来ても警戒するが、避ける気配がなかったのだ。更に左側に寄っていて剣に手を掛け、いつでも戦えるようにさえしている。そしてそのままだとぶつかるのだ。今は手綱はフォルクスの手にある。


「あのっ!フォルクス殿、右に寄らないと駄目ですよ!」


 そう一般の馬車がどういう動きを取らねばならないのかを、フォルクスはよく分かっていなかった。また、すれ違う時に一般的に軽く挨拶をするのだが、そういう挨拶もなかった。


「えっ?そうなの?軍隊じゃ中央やや左に寄ってすれ違えと教えられたよ」


 ラティスも村長の娘として隣の村への行商に同行していた時によく教えられたものである。特に何もなければ普通に手を振ってにこやかに挨拶をする。フォルクスはそういうのはなく、ただ会釈をしていただけだったのだ。この先要注意な事がある時の挨拶であった。そう、フォルクスが異世界から来たと言っていた事を忘れていたのだ。そっか、そういう事だよねと理解はしていたが、今更だが自分が惚れた人がとんでもない人なんだなと思い知らされた。


「あの、私が暫く御者をしますので見ていてくださいね」


 フォルクスはうんと素直に頷く。

 フォルクスの馬車の操作は軍隊のそれだった。馬車等とすれ違う時はすぐに戦えるように、右手にすれ違わさせるようにと教えられていたからだ。利き腕の右手で戦う為だった。


 ラティスもそれは知っている。だが、フォルクスが兵役経験者だとは知らなかったのだ。その後、フォルクスからこれまでの事をかいつまんで教えられ、ついフォルクスの頭を抱きしめ、自らの胸に押し付け頭を撫でていた。そしてその理不尽な経緯に涙を流していたのであった。

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