10話.[嫌ってないって]

「裕子ちゃん、私とも仲良くして?」

「いいよ、過去のことはもうなかったことにしよう」


 同じ学校で同じ学年、何気に貴重な存在だから築いておいて損はないと思う。

 そりゃ思わないところがないというわけではないけど、だからっていつまでも言っていたところで双方にメリットがないから。

 いいんだ、もう終わったことなんだ、だったら前へと進むべきなんだ。


「私、友梨ちゃんも同じ学校が良かったな」

「幼馴染なんだよね? わたしでもそう考えるかな」

「だよね、寂しいな」


 とはいえ、友達がいるからという理由で高校を合わせるのもちょっとね。

 別れたことでほどよくリセットできて良かったのではないだろうか?

 そうじゃなければいまもなお、従わされているとかもありそうだから。


「大丈夫、わたしがいるから、燐ちゃんだっていてくれるよ?」

「私、ふたりから嫌われているよね……」

「嫌ってないって」


 よし、ちょっと試してみよう。

 どれだけ荒ぶっているときでも頭を撫でれば落ち着くのが燐ちゃんだ。

 それなら表だけは一定な感じがする文香ならもっと大丈夫なはず!


「あっ……どうして?」

「嫌ってないから大丈夫っ」

「はは……そっか、それならそういう風に認識しておくよ」

「うん」


 これじゃあわたしの頭撫でスキルが高いみたいじゃないか。

 下手をするとまた調子に乗りかねないから気をつけないと。


「それじゃあこれで帰るね」

「気をつけて」

「うん、またね」


 彼女と別れて帰路に就く。


「はぁ、早速浮気とはな」

「違う違うっ」

「どうだか、まあいい」


 しまった、待つべきだったかと後悔。

 まだ夏休みで登校日だったから出ていたけど、……これも気をつけないとな。


「今日は一緒にご飯を作ろう。母ちゃんを楽させてやりたいし、父ちゃんにもいっぱい喜んでほしいからな」

「わかったっ」

「……ほら」

「あはは、うん、帰って頑張ろうね」


 喜んでもらいたい気持ちはわたしも同じ。

 たまには頑張らないとな。

 それでもほどほどでいいと燐ちゃんの手を握りながらそういう風に考えたのだった。

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43作品目 Rinora @rianora_

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