09話.[じゃあ終わりね]

「暑いわね」

「そうだね」


 それなのに外をずっと歩いていた。

 今日は桑本さんに誘われて付き合っている形となる。

 わたしと違って汗をかきやすいのは中学生の頃から変わっていないらしく、何度も小さなタオルでそれを拭っていた。


「付き合い始めたのね、おめでとう」

「うん、ありがとう」


 言わされたということはなんにも悪くはない子を憎んでしまったということか。

 いまでこそ言ってくれて良かったって思えているけど、当時はそうじゃなかった。

 見る度に妄想で泣かせたこともある。

 悪口なんてたくさん言ったな、どうせわたしよりも勉強ができないくせにとか。


「ごめん、勝手に犯人扱いしてた」

「しょうがないわよ、事実、あたしはあんたにああ言ったんだから」

「じゃあこれで終わりでいい?」

「うん、あんたがいいなら」

「じゃあ終わりね、これからは仲良くしよう!」


 握手を求めたら握ってくれた桑本さん。

 ただ、本当になんとも言えない表情を浮かべていた。


「燐がいてくれて良かったわ、そうじゃないとあんたはまた損しそうだから」

「ははは、確かに燐ちゃんがいてくれて良かったよ」

「……ま、中学はあんなんだったわけだし、幸せになりなさい」

「うん、ありがとう!」


 手を離してまた歩き始める。

 どんどんと心が軽くなっている気がしたのだった。

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