第13話「旅行の終わりは帰るまで」
帰る途中、パーキングエリアで一休み。
女子組も大大コンビもトイレに行ってしまったので俺は一人、牛串を買い、外の椅子に座って食べていた。
硬い……これならあっちのハンバーガーにしておくべきだった。
肉の硬さを恨みながら顎の力で無理やり噛み千切る。
肉が串に刺さってるだけなのに見ると何故だか買いたくなってしまう。
「おうおう、美味そうなの食ってるじゃんか。オレにも一口くれ」
トイレから戻ってきた大作がそんなことを言うので。
「全部やる」
「うっひょお!サンキュー!」
押し付けることにした。
勢い良く牛肉に噛み付いた大作の表情から喜びの感情がスーッと抜けていく。
「どうした?タダ飯なんだから感謝しろよ」
「クーリングオフしたい気分だ」
「悪いな。ノークレームノーリターンだ。ところで大山は?」
「なんか腹痛いってトイレに篭っちまった」
「昨日のあれが原因だろうな……」
昨日の夜、コンビニで買い溜めたお菓子とジュースをなんとかして食べ尽くすことになり、五人全員で頑張って食べ切ったのだ。
俺と大作は飲み物も食べ物を担当し、大山は甘い物が多かった。木葉と零は元々の入る量が少なくて直ぐにダウンしてしまった。
と言う訳で大山は運悪く、いや案の定腹を壊した。
「そんなことよりケントだよ」
「何がだよ」
「まさかレイちゃん奪うとはやるじゃねぇかよぉ!ったく!幸せ者だぜ!あんな最高級美少女が彼女なんてな!だーはっはっは!」
俺の肩をバシバシ叩きながら大作が高笑い。痛い。
「なんで俺より嬉しそうなんだ」
「ダチの幸せ話は最高なんだよ!まさか初日で一線越えるとはなぁ……」
「越えてねーだろ。勝手に記憶を書き換えるな」
事実を捏造する大作を放っておくと碌なことにならないのが分かり切っている。
だからしっかりと否定しておく。
一線越えるも何もあの日の夜は普通に旅館で過ごした。五人でトランプをして過ごし、結局全員男部屋で畳の上に寝てしまったのをしっかり覚えている。
「あっ、レイちゃんたちも戻ってきた。おーいこっちこっち」
「凄い美味しそうなの食べてるね」
「コノハ様も食べる?全部食べても良いぜ」
「要らない。絶対硬いでしょ」
「バレたか。味は良いけどな」
木葉にあっさり見抜かれた大作はそのままゴムみたいな牛肉を食べる。
「美味しくないからって人に押し付けるなよ」
「お前が言うなよ!?」
「あれ?大山さんは?」
「腹壊したんだって」
「あぁ……」
俺が答えると零は全てを察し、お気の毒と言ったような顔になる。その顔を向けるべき相手はトイレの中だ。顔見せてやれば元気になるかもな。いや駄目か。
「わたしたちも何か食べながら待とうか」
「はい!あっうん!」
同い年なのに零は木葉に敬語を使う癖が抜けきってない。
友達と言うより先輩と後輩みたいな関係。なんかイメージ通りだ。
「俺も行く。大作はなんか食べたい物あるか?」
牛串でハズレを引いたから別の何かが食べたかった。
「なんでも良いや」
「じゃあ牛串な」
「それは嫌だ」
今の何処になんでも良いの要素があるのか問い詰めたくなる。
「ハンバーガーなら良いだろ。席取り頼むわ」
「おっけい!任しとけ!」
そんなに胸を張るところじゃないのに大作は自信満々だ。手の牛串は後二つほど肉が残っている。俺たちが戻ってくる頃には食べ終わっているだろうか。
一時間ほど飲み食いしながら時間を潰してやっと大山がトイレから脱出した。
凄いげんなりした顔で腹を片手で抑えながら歩み寄ってくる。
「大丈夫かー?」
「これが大丈夫に見える……?」
心なしか大山のツッコミにキレが感じられない。
「お腹減った感じはあるのに……お腹がぐるぐるしてて食べ物入れるの怖い」
大山の言いたいことは分かる。
腹を下した直後は腹が減る。だが、何か食べたい気持ちがあるのにまた腹痛くなるんじゃないか?の恐怖で食べるのが怖くなる。
基本は食べても特に問題はないのだが。
青白い顔の大山に木葉がスポーツドリンクのペットボトルを差し出す。
「せめて水分補給くらいはしておいたら?帰るにはまだ長いよ」
「ありがとうございます」
「無事に帰るまで旅行だかんな!」
その後、なんとか復帰した大山の容態を見計らってサービスエリアを出た。
インカムで話しながら走っていると何時の間にか地元に辿り着いていた。
「いやぁ……ケン君に殴られたりしたら直ぐ言ってね?」
「おい!お前の中で俺のイメージどうなってんだ!」
「ケントすーぐ手が出るからなぁ」
「やめろやめろ。俺に女、殴ってそうみたいなイメージ付けんな」
「「「あはははは!」」」
木葉以外の笑い声が揃って聞こえてくる。
「気を付けてね、零」
「おいおいおい!木葉が言うと洒落にならん」
幼馴染のその証言は非常にマズい。説得力が大大コンビとは桁違いだ。
高速も終わり、下道を走る。
先頭に俺と大作、その後ろに零と大山、最後尾には木葉の並びだ。
初心者を先頭、もしくは後ろには出来ないので行きも帰りも零の位置だけは変わっていない。
それが嫌だったのか零が言った。
「私も先頭走ってみたい」
「あぁ、良いんじゃねぇか。俺と大作どっちかと交代してみるか」
「賢人、わたしたちこれから何処行くの?」
信号待ちの時間を利用して話す。
「零は乗って帰れないし、取り敢えずおっちゃんのところ行こうぜ」
「分かった」
信号を待つ間に俺は零と場所を入れ替える。横並びと言ってもきっちり横じゃないので実質先頭は零になる。
信号が青に変わる。
「じゃあ、行くよ」
十字路の交差点に向かって零がバイクを進めたその時——派手な音が響いた。
「はっ?」
「え………」
「おい?!」
「っ……!」
信号を無視してきた黒いセダンが零をバイクごと跳ね飛ばした。
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