第33話 いつかの御伽はかく語られし

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 それは風の音すらも届かぬ、白い白い闇の中での事でした。

 春から追い出された徒花たちは、散ることも、枯れることも許されず、恒久の時の中で、自分たちを追い出した者たちへの恨みをつのらせていました。

 た。

 。


 -・・・ ・-・ --・-・ ・-・・ ・・ ・-・・ -・-・・ ・-・・ -・--- ・・・ --- ・-・-- ・- -・--・ 


 ─口惜しや、口惜しや。まさか、奴らがあのような力を持っていたとは─


 ─恐ろしい。どうして彼らはあのように取り繕えるのでしょうか。どうして、こんなにも軽々しく私達の事を裏切ることができたのでしょうか。どうして、あぁ、恐ろしい─


 ─めんどうだなぁ。理由なんて考えるのは滅ぼした後でいいじゃんか。まずは手っ取り早く殲滅しちゃおうよ─


 ─その通り! 暗い事など考えず、楽しい事を考えた方がよいでしょう! しかし、殲滅というのもいささか面白味に欠けるのでもう少し遊び心が欲しいですね─


 妹たちは各々好き勝手に言葉を漏らします。

 しかし、彼女たちの思いは一つ。


 ─悲しい事だけれど、仕方ないのよね。それが、彼らの出した答えなのだから─


 だったはず。


 それなのに


 一番大きな黒い花は


 可愛い妹たちを置き去りにし


 太陽に連れられて


 春の世界で彩やかに咲くことになるのです。



「どうして?黒い花は妹たちを置き去りにしたの?春の世界に戻れたのなら、彼女たちも一緒に連れて行けばよかったのに。彼女が出会った太陽さんにお願いすれば、きっとお願いすれば連れて行ってくれたよ!」


「黒い花はね。忘れてしまったのよ。春の世界に来たことで、何もかも、大切な妹たちの事もね」


「どうして忘れたの?」


「きっと、それが春の世界に行く為の条件だったから。黒いh~ぁ゛─私は彼女たちを捨てたからこそ、今の幸せを手に取ることができた」


「もし、妹たちの事を思い出したら?」


 その問いに、母は悲しげな笑みを浮かべるだけで答えは返ってこなかった。



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 歪む


 それは


 正しい方向へと


 捻れた糸を伸ばすように


 もとは太陽の光だと言うことを知らずに月の光を崇め称える者たちに真実を告げる残酷な天文学者のように


 それは無慈悲に


 無造作に


 曝されていく


 全てがなのだと



「う」


 痛い。

 内側から溢れ出すような鈍く重い痛み。


「誰よりも人間を恨み、そして誰よりも人間であることを望んだ。その矛盾が、


 母は人間だ。

 この手で触れた彼女の温もりは、偽りじゃない。

 あの笑顔も、あの言葉も、全て真実だ。


「そう。フローダは。故に、人間の世界で生まれた貴方を。自分と同じように、で思考を曇らせ、から遠ざけた」


 脳が微かに揺れ始める。

 それはまるで妊婦の中に眠る胎児のように。

 なんて温かいのだろう。


「貴方の母が現実へと引き戻されたように、貴方もそろそろお目覚めの時間よ」


 ─あなたは優しい子よ、バン


 朧気だった母の顔が鮮烈に浮かぶ。

 ああ、母上。

 僕は一体───


「はぁ、はぁ」


 血みどろのローダが息を切らしながら、その場に尻もちを着いた。

 その傍らには龍の頭が転がっている。


「あらあらぁ、これは想定外。まさかこんなに早く処理しちゃうなんて、やはりわねぇ」


「彼女を、解放しろ」


 溺れているかと思われるほどの汗と、今にも死んでしまいそうなほど青くなっているバンディーダは辛うじて目の前の映像を把握し、言葉を絞り出した。


「こちらも想定外な程に効果があったわねぇ。自身のルーツを一言はおろか、仄めかすことすらしなかったのねぇ。あぁ、本当に愚かな女」


 ─ドクン!


 ランジェが嘲るように笑うと、心臓が脳に叩きつけるような血流を送り込んだ。

 熱い。

 苦しい。

 この感覚は、


「さて、ここからがよぉ。実はぁ、あの蜥蜴は彼女が調だったのねぇ」


 もう何も見たくない。

 聞きたくない。

 だが、目を閉じようとも瞼は落ちない。耳を塞ごうとも、両手は使えない。

 磔られた案山子のように、ただ眺めることしかできない。


 ─あの時と同じだ


「そういえば、彼女と一緒にいたゴブリンたちはどうなったと思う?」


「ッ」


 言葉が出ない。

 それはきっと知るべきでない真実。

 だが、逃れる術はない。


 あの時母とタヤが死んだ日のように


 あの時ナティナに見捨てられた日のように


 今の僕にはがないから。


「感動のご対面よぉ......」


 ランジェの言葉と共に、ローダの目の前に現れたのは


「ロ、シ、ト、ニ、ネ、バ」


「ェ......?」


 やめろ


「トト......? シトン......?」


 やめろやめろ


「ロ.....ダ......」


 呻き声を漏らす形容しがたい肉塊で─「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」



 その時


 少年は


 生まれて初めて


 自身の中に眠る


 本質を知る




















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