第27話 土の中からこんにちは

^◎^;


「たしか、この辺りぶひが......」


 記憶を頼りにバンディーダはゴブリンの村へと向かっていたのだが......


「迷ったんだ...」


「ぶひ......」


 クシスがジトリと目を半月にさせると、バンディーダは申し訳なさそうに頭を搔いた。


「そもそもゴブリンが村を作るなんて聞いたことがない。彼らの生活様式は遊牧キャンプ。定住をするとは思えないのだけれど」


「初耳ぶひ......」


「そうでしょうね。外の人間が彼らと出会えるのはコアの先にあるダンジョン内のみ。なら、コロニーは固定されているものと考えるのは何らおかしくはないのよ」


 バンディーダはとにかく何か手がかりを探そうと、周囲に目を凝らす。


「む、あれは!」


 肉に埋もれた目をさらに細めたバンディーダはとある物を発見した。


「これは、?」


 土の中に埋もれていたので掘り上げてみると、それはだった。

 大きさからして、おおよそ少女くらいの─


「─ッ!」


 背筋が凍る。

 とある予想がバンディーダの脳内で駆け巡り、最悪の光景を浮かび上がらせる。


「寒い」


「何!?今の声!?」


 クシスの驚いた声でバンディーダは自身の意識が飛びかけていたことに気づく。


「どうしたぶひ?」


「どうしたも何も、今何か喋らなかった?」


 バンディーダは要領を得ぬまま、首を横に振る。


「そりゃ、オラが喋ったんだべや」


 骨がグルンと回転し、クシスと目を合わせた。


「ぎぃっ!」


 クシスは叫びそうになるのを何とか堪え、グググと苦しげに呻く。


「ス、スケルトンね......」


 あくまで平静を取り繕って言葉を絞り出すクシスではあるが、その額には汗が見せる。

 バンディーダは手のひらに乗っている物体がモンスターだと理解した瞬間、魔力を練り始めた。


「わー!まってけろ!まずはオラの話を聞いてくんろ!ほら、オラ、頭だけだべ!どうやったって勝ち目ないさよ!」


「死の魔法とか飛んできそう」


 クシスがポツリと零すと、バンディーダは「凍てつく風に冴えて......」と詠唱をし始めた。


「ひぇー!そんなことできねぇよ!後生だべぇ!オラこんなとこで死にたくねぇ!せめて胴骨だけでもくっつけてくんろぉ!その後なら煮るなり焼くなり好きにしていいべさ!」


「合体した瞬間、襲ってくるでしょ」


「ぜぇーーーたいしないべっっ!!!!!!」


「あーもうわかったぶひよ」


 バンディーダは魔力を落ち着かせ、骨を持ち変えて視線を合わせる。


「もしかして、オラの身体を探してくれるべや?」


「いや、それはしないぶひ」


 バンディーダは投げやりに骨を放って、その場から立ち去ろうとする。

 クシスもまた、何も言わずにバンディーダの後ろに着いていく。


「なしてべやぁぁぁぁ!!!!!」


 悲痛な叫びが階層に響く。

 だが、二人は気にも留めずにどんどん離れる。


「骨の癖にどうやってあんな声を出してるぶひか?」


「さぁ?本人に聞いたら?ほら、ああやって追いかけてきてることだし」


 クシスが振り返り、指を差す先にはピョンピョンと飛び跳ねながら追いかけてきている頭蓋骨の姿があった。


「逃がさねぇべッッ!!」


「やっぱり僕たちを襲うつもりだったぶひか」


 バンディーダが構えると、打って変わって骨は弱々しく地面へと着地した。


「オラはただオラの胴骨と脚骨を見つけたいだけだべ......」


「自分で探せばいいじゃない。そうやって飛んで移動できるんだしさ」


「じゃあ聞くけんどもよ! おめぇらこんな骨が跳ね回ってんの見つけたらどうするさ!」


「叩き潰す」

「氷漬けぶひ」


 二人は即答。

 その姿に骨はそれ見た事かと怒りながら跳ね回る。


「だから、オラはこうやってただの骨の振りをしてたんだべ!」


「でも、それじゃいつまで経っても他の骨を見つけられないぶひよ」


「いんや、オラはんだべ。こんな見窄らしい骨を拾ってくれるおめぇみたいな優豚をな。そんな骨好きなら、きっとオラの事を喜んで助けてくれるべさ?」


「.......」


「........」


「.........さあ、いきましょうか。早くゴブリンたちと合流しないとね」


「ぶひ」


 二人が再び踵を返そうとしたその時、


「あー!オラ知ってるべよ!!」


「いい加減、放って置きましょう。絶対でまかせよ」


 クシスは呆れながらバンディーダに視線を送るが、バンディーダは顎に手を当てて考え込んでいる。


じゃなくて、場所ぶひか?」


「言葉の綾でしょ。一々気に留めることじゃないわ」


「これ以上は骨を見つけるまで喋らないべ!教えて欲しかったら探すのを手伝え!」


 バンディーダは数秒ほど黙り込んだ後に、骨の下へと足を運ぶ。

 いつまでも見つからぬ村と、骨の発言が妙に引っかかったのだ。


「もし、嘘なら粉々にするぶひ」


「嘘じゃねぇべよ!見つけてくれたら全部話してやる!」


「ちょっと!本当に信じるの!?」


「現時点での手掛かりはこの骨のみぶひ。見たところ害意は無さそうだし、連れて行っても問題ないと思うぶふよ」


 クシスは嫌そうに項垂れながらも、それ以上は反論しなかった。


「やっぱしオラの眼に間違いはなかった!よっ!この優豚!」


 調子の良い言葉を並べる骨に若干の鬱陶しさを感じながらもバンディーダはそれを脇に抱える。


「それで、お前はなんて言うぶひか?名前くらいあるぶひ?」


「オラはニイナ。生粋のスケルトンだべ」


 こうして二人はやかましい骨を仲間に加えて、ゴブリンたちの手がかりを得るために骨探しを始めるのであった。












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