第24話 悪魔の脅威
「悪魔......?」
聞き慣れぬ言葉に疑問が漏れる。
「あらら、やっぱり知りませんか。まあ、期待はしていませんでしたが」
彼女(?)はシルクハットを深く被り、ステッキをこちらに向ける。
「それよりも貴方ことです。お姉様方は始末しろとのことでしたが、私としてはお持ち帰りしたいですねぇ。個人的に興味津々です」
彼女(?)は何かを断ち切るようにステッキを振る。すると、バンディーダを拘束していた枷がスパンと切れる。
「ですが、怒られたくないのでやっぱり始末しちゃいましょうか」
やがてそれは皮膚にまで至り、肉に、骨に
「『
完全に千切れてしまう前に、バンディーダは腕を氷漬けにした。
「んぅ〜?」
バンディーダは確信した。
絶対に勝てない
あの決闘の時に感じたものよりも圧倒的な実力差。彼女(?)の動作は決して攻撃といえるものではなかった。しかし、現にバンディーダはその一撃で重傷を負ってしまっている。
「これはこれは〜!何とも馴染みのある氷の魔力でしょう!」
「ふしゅー、ふしゅー」
バンディーダは極度の緊張状態に陥り、全神経に重大な乱れが生じている。視覚、聴覚は定まらず、もはや自力で立つことすら困難になっていた。
「させるか!その人間は我らの希望なのだぞ!」
爺は龍へと姿を変えて、尻尾でヴィーラを薙ぎ払う。
「おやおや、許可なしでの人型解除とは。監視外であれば黙認していましたが、目の前で堂々とされてしまえばこちらも対処せざるを得ませんね」
ヴィーラは華麗なジャンプで爺の背中に着地すると、担ぐようにステッキを構えた。
「とんっ」
放たれたのは押し出すような突き。だが、それはドラゴンの生命を断ち切るには十分なほどの威力であった。
「正直、もう貴方たちは用済みなんですよねー。もう全属性で量産化体制に入ってますし、炎しか吹けない型落ちの遺物はこの際お掃除しちゃいますよー」
頭を吹き飛ばされた爺の巨体は、力無く地面へと倒れ込んだ。
「さーてと、って、あれ? 彼はいずこに?」
ヴィーラが振り向いた時には、既にバンディーダが姿を消していた。
「抜け出せたぶひか.....」
爺の時間稼ぎのおかげで、なんとか意識を持ち直せたバンディーダは近くの岩の影に身を寄せていた。
「ぐっ!」
氷漬けの腕が痛む。治癒魔法が使えれば繋ぎ止めることが可能だが、不幸にも彼一人の技術では時間が足りない。今はこうして限りある延命措置でお茶を濁すしかない。
「こっちよ」
唐突に服の襟が引っ張られる。その声は、何だか久しぶりに聞いた気がした。
「クシスッ!」
「しっ、静かに。相手があいつならまだ逃げ切れる可能性がある。それにその腕もまだ何とかなる」
彼女は目配せをしてバンディーダを誘導する。
「おーい、人間くーん。どこにいったのー? 」
その声に反応し、バンディーダは自然と足早になってしまうが、それをクシスが宥めるように抑え止める。
「急がなくていいわ、バン。あの帽子野郎は索敵が上手くない。このままゆっくりこの階層から離れましょう」
彼女が現れてから、バンディーダの精神面が格段に安定した。乱れていた呼吸はほぼ通常時と同じになり、手足の痙攣は治まっている。
「はぁぁ〜、お姉様方に怒られるのってめちゃくちゃ嫌なんですよね〜。下手したら手足が飛んじゃいますし、それを治すのだって苦労するんですよ」
独り言を呟く彼女は、見当違いの方向に突きを放つ。その衝撃で、遥か向こうにある岩石が粉々になった。
「でもそれって仕方のないことだって何となく納得してます。だって、失敗する私が悪いんですから」
彼女は
「じゃあ、どうすればいいのか。失敗から学んで次に活かせばいいんです。そうすれば、次は同じことで怒られることはありません」
その照準はどんどん二人の方へと合わさってくる。
「ちっ!」
「大丈夫よ、焦らなくていい。まだ相手は位置を把握できてないから、このまま進んでいけば躱せる位置に行けるわ」
「されど、次もまたまた怒られちゃいました。それは何故かって? 違う失敗をしちゃったからです」
やがて、その杖の先と二人が合わさる。
「この穴に伏せて!」
クシスはバンディーダの襟を掴んでグイグイと引っ張る。ちょうど高さ60cm程の窪みがそこにあった。突きが放たれる直前、二人は何とか穴に身体を滑り込ませ、回避することができた。
「......はぁ〜、やってられませんよねぇ、まったく」
ヴィーラは肩を落とすと、どこかへ消えてしまった。
「間一髪だったね」
クシスは自身の汗を拭いながら、バンディーダに笑いかける。
「君は、どうしてここにきたぶひ?」
「何回捕まってるのって話しよ。いい加減、抜け出し方も板に着いてきたわ」
「そうじゃなくてぶひね」
「あぁ、来た理由?それは何となく君の話が面白かったからだよ。別に深い理由なんてないからね」
捲し立てるように言葉を放つ彼女の頬は溶岩の熱に当てられたのか、少しだけ赤みが掛かっていた。
「それよりも、その腕。早くなんとかしないと。君、回復魔法は使える?」
「少しぶひなら」
「わかった。それなら、私が主立って修復するから、君は補助に回って」
「了解ぶひ」
「
バンディーダの千切れ掛けていた腕が、氷の中でみるみる繋がっていく。
「
最後のひと押しで、バンディーダの腕は完全に癒着した。
「ふぅ」
バンディーダは汗を拭い、安堵の息を大きく吐いた。
「氷漬けにしたのは正解だったね。元の形からあまり変わってなかったから、容易に接着が可能だったよ」
「心から感謝するぶひ。君が居なかったら、おそらく無事じゃ済まなかったぶひ」
「そ、そんなに改まって言わなくていいから!これは私の意思で勝手にやったことだし......」
「それでも、僕は君に救われたぶひよ」
「くうっ、人間ってどうしてそんなに歯が浮くようなことをスラスラ言えるのよ!」
「ホントですねぇ!私もそう思います!」
帽子の影が、二人の間を別け隔てる。
「デートスポットとして此処はいささか趣味の悪い場所だと思うのですが、貴方たち若者は選り好みしないということですかね?」
消えたはずの悪魔が帽子のつばをつまみながらこちらを覗き込んでいた。
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