第18話 ドラゴン狩りに行こう!

 ◉◎◉


 バンディーダがゴブリンの村に定着してから1ヶ月、暮らしには慣れどダンジョン探索は難航を極めていた。それもそのはず、バンディーダが出掛けようとすると、「何処に行くんダ?一緒に行くゾ!」とローダやシトンが引っ付いてきて、結局狩りになってしまい、十分な探索が出来ないのだ。

 しかし、ある日、シトンの提案が大きな転換点となった。


「ドラゴン狩りぶひ?」


 バンディーダは疑問の声を上げる。己の聞き間違いではないだろうか。はたまた、ジョークの一種なのか。しかし、その考えは瞬く間に打ち砕かれる。


「そうダ!バンが居ればきっと狩れル!」


 期待を込めた眼差しに、バンディーダは否定の言葉で返すことはできなかった。


「バカなこと言うナ」


 トトの拳骨がシトンに降り注ぐ。


「オマエが行くのはカッテだが、ソレにバンを付き合わせるナ。アレはアソビ感覚で行くモノじゃナイ」


「イテテ、分かったヨ。悪かったナ、バン。この話はナシだ」


 その時は、それで話が終わった。しかし、皆が寝静まってから、シトンがこっそりとバンディーダを起こしに来た。


「なあ、バン。少し話さないカ?」


「んぁ......いいぶひよ」


 バンディーダは眠い目を擦りながら、身体を起こす。それと同時に、シトンはバンディーダの横に腰を下ろした。


「オレがさっき言ったコト、覚えてるカ?」


「ドラゴンの事ぶひか? まさか、まだ諦めてないぶひ?」


「ドラゴンを狩るのはオレ達の夢だったんダ。トトは危険ダカラあの場所には近づくナっていうけど、オレ達はソレを無視して何度も行っタ」


ってことは、他にも目指している奴がいるぶひか?」


「トトとローダ以外、ミンナそう思っているサ。アイツらは、ドラゴンに殺されかケてから臆病になっタ」


 その発言に引っかかったのか、バンディーダの眉がピクリと上がる。


「聞いたことのない話ぶひ」


「ソウカ。てっきりローダのヤツが話していると思っタが、まだ話していナイんだナ。ヨシ、オレが話してやる」


 シトンは、膝をパン と叩くと、その話について細かく話し始めた。


 まだ、トトがシトンぐらいの大きさだった頃、幼いローダを連れて、狩りの練習をしていた。その時は誰もドラゴンの存在など知らず、あの溶岩地帯でも構わず狩りをしていたようだ。しかし、それが災いし、2人はドラゴンに襲われた。

 ローダは応戦しようとしたが、トトは敵わないと本能から察し、逃亡するよう呼びかけた。その際、逃げることを拒んだローダだったが、彼女を庇って攻撃を受けたトトが重症を負ったことにより、泣きながら彼を引き摺って何とか村まで帰ってきたようだ。

 それから、トトは身体を鍛えて今のように大きくなったという。


「確かに、あの時はオレもビックリしタ。ドラゴンは怖いヤツだと思っタ。けど、それは昔のコト。今ならトトは強くなったし、オレだっていル。それにバンだっテ、あのドラゴンから一匹で生き延びれたんダ!なら、ミンナでやれば狩れルはずダろ!」


 確かに、ドラゴン退治は男の夢ぶひが、アレは文字通り、命懸けでも傷つけられるかどうかの次元ぶひ。僕だって、なんで生き残れたのか未だに解ってないぶふし、ローダと出会わなければおそらく死んでいたぶひ。


「シトン、悪いことは言わないぶひから、ドラゴンは諦めるぶひ。あれを狩りに行ったとしたら、間違いなく誰か死ぬぶひ。それはシトンも嫌ぶふ?」


 そう言うと、シトンは面食らった表情をしてから、おもむろに俯いた。


「ハ、ハハ。ドラゴンに会ったヤツらはミンナそう言うンだナ。一度負けたダケで、とんだコシヌケになっちまウ。なら、もうイッソ、オレだけで......」


「シトン......?」


 シトンの呟きはバンディーダには聞こえなかったようだ。


「寝てルのに悪かったナ、バン。オレも眠たくなってキタから、もう寝るゾ。じゃあナ」


「ああ、おやすみぶひ」


 シトンは立ち上がると、こちらを振り返ることなく、自分の寝床へと帰って行った。




 翌日、バンディーダはローダに起こされて目を覚ます。


「なあ、バン。シトンがどこに行ったか知らナイか?」


「んぁ、ぶひぃ?」


「アイツ、朝飯の当番なのに何処にもいナイんだ。食料は足りテルから、狩りに行ったンじゃナイと思うゾ。アイツ、今まで飯当番はサボったことナカったノに......」


「誰も行方を知らないぶひか?」


 ローダは不安そうに首を横に振った。


「ぶふぅ、一体どこに......ぶ!」


 バンディーダは昨夜の会話を思い出す。そして、それから導き出される想定は、おそらく最悪の事態を招くことになる。


「ローダ、トトを呼んで狩りの身支度をするぶひ。今、この村で持てる最高の装備をして、僕たちが出会った、あの場所へ向かうぶひ」


「エッ!?ソレって!シトンのヤツ、まさか!」


「あぁ、おそらくシトンは独りでドラゴンを狩りにいったぶひよ」




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