第16話 ゴブリン流狩猟術

「そろそろ行くゾ」


 ローダに急かされて、バンディーダは大きな袋を背負った。


「オマエ、どれだけ行く途中で食うつもりナんだ?」


 袋の中身は全て食料。干し肉に果物に様々な食べ物が詰まっている。


「未知のダンジョンにはこれくらいの下準備が必要ぶひ。もし、あの炎の海みたいな場所に行くとなると常に僕の魔力を使うぶひから」


「暑がりだナ。そんなに太ってるから暑いンじゃナイのカ?」


「余計なお世話ぶひ」


 あの地獄のような場所はゴブリン達にとって少々暑いくらいの気温だという。しかし、彼女たちはダンジョン産であるため、ダンジョンの気候にはある程度適応していると考えるのが自然だろうか。


「オマエは初めての狩りだからナ。今日はワタシの狩り方を見て、覚えろヨ」


「僕は肉弾戦は得意じゃないぶひ」


「ダカラ?」


「僕は僕のやり方で狩るぶひよ」


 そう言うと、ローダは不服げに口先を尖らせた。


「ダメだ!ワタシが教えてやるからそのマネをしろ!」


「いや、僕が魔法でローダのサポートをした方が効率がいいぶひ」


「ダメだダメだ!それじゃあ、いつまで経ってもオマエが1匹で狩れナイじゃナイか!」


「1人で行くよりは2人で行った方が安全ぶひよ?」


「ムゥーーー!」


 遂には地団駄を踏み始めてしまった。


「あー、もう分かったぶひよ。分かったから、落ち着くぶひ。ローダの言う通りにするぶひから」


「ギャッギャッギャッ! ローダはバンに狩りを教えるのを楽しみにしてたンだ。今までズッと教わっテばかりだっタからナ。初めて教える方にナったのが嬉シクてはしゃいデるンだ」


 それを遠くから眺めていたトトが豪快に笑っていた。


「行くゾ!バン!」


 それを暴露されたのが恥ずかしかったのか、ローダはバンディーダの腕を引っ張って村の外に出た。



「今日の狩場はココだ!」


 着いたのは村から数十分ほど歩いた場所だった。そこは同じ階にある、少々道の狭い空間。


「階を跨がないぶひか?」


「ン? 初めての狩りでソンナ危険な場所に行くハズないダろ。サァ、始めるゾ。マズはワタシのやり方をよく見るんダ」


 ローダが姿勢を低くする。そして、ピタリと動かなくなった。


「......行く道を示せ、『探知ロマーサ』」


 バンディーダはローダが全く動く気配がないので、その空き時間に探知魔法を唱えた。しかし、バレるとまた怒られてしまいそうなので、バレ内容に小さな声で詠唱する。


『探知』が指した針は上りが右後ろ、下りが左後ろであった。


 つまり、ここは行き止まりへの道ぶひか。この先には宝箱があると思うぶひが、おそらく既にローダたちが回収してるぶひね。


「ハアっ!」


 突然、ローダが声を上げて飛び上がる。何かに飛びついたようだ。バンディーダは探知に気を取られ、それを目視できなかった。


「ギィギ!」


「テヤッ!」


 ぐちゅりと何かが潰れた音がする。


「ぶひ?」


 ローダが着地し、その手にぶら下げる物体を見て、バンディーダは思わず凝視した。


「コレが、『コンスパイダー』の狩り方ダ。アイツらはバカだから動かないエモノが居たら死んでると思い込んで飛びかかってくるんダ。そしたら、アイツらはムホービになるから、ソコで糸を吐かれる前にアタマを潰せば終わりダ。簡単ダろ?」


 ローダは満面の笑みでコンスパイダーの死体を掲げる。


「それ、食べるぶひか?」


「当たり前ダろ? コイツの糸はネバネバしてて、織物には使えナイゾ? 食ウ以外ナンだッて言うんダ?」


「そ、そうぶひか」


 見た目は人間みたいでも、やはり悪食ぶひか。蜘蛛なんて非常食ですらなり得ないぶひ。


「ホラ、バンもやってミろ」


 ローダに促され、バンディーダは膝を着いた。


 コンスパイダーは滅多に姿を現さない臆病な虫ぶひ。一部の虫愛好家には好評ぶひが、それ以外にはただの大きな蜘蛛にしかすぎないぶひよ。


 心中で愚痴を呟いていると、ローダが近くに寄って来て、囁く。


「来るゾ」


 彼女の言った通り、その数秒後にはコンスパイダーが頭上に這っていた。そして、こちらが全く動いていないことを確認すると、嬉々として飛びかかってくる。


「『凍柵プレナナ』」


 鋭利な氷の柵を生やすと、虫取り罠にかかるようにコンスパイダーは串刺しになった。


「きィ」


 断末魔をあげながらピクリと動いた後に、絶命した。


「オイ!」


 一部始終を見守っていたローダが大声をあげる。


「え?何ぶひか?」


 まさか、ローダの真似をせずに魔法を使ったのがいけなかったぶひか?


「スゴイな!バン!トト達から聞いてたケド、本当に魔法が使エルんだナ!」


 目をキラキラと輝かせながら、バンの肩を掴む。


「お、お気に召したみたいでよかったぶひ」


「ヨシ!このまま次の狩りに行くゾ!次はミノタウロスだ!バンの魔法ならヨユーだゾ!」


 彼女ははしゃぎながら、次の目的地を目指す。


「ミノタウロスはワタシたちやオークみたいに群れでは生活してナイんダ」


 そのとおりぶひ。ミノタウロスは基本的に一匹で行動しており、多くても番と合わせて2匹。ただ、一匹でも十分な驚異ぶひ。怪力はもちろんのことぶひが、特筆すべきはその体力ぶひ。奴らは闘い始めると三日三晩はその勢いが衰えないぶひ。だから、ほんの少し実力が勝っている冒険者であっても仕留めきれず、逆に犠牲になることが多いぶひ。


「降りるゾ。滑って落ちないようにナ」


 バンディーダが思案に耽っていると、いつの間にか下層への道に到着していた。


 ん? 早くないぶひか?『探知』が示した距離間ではもっと時間が掛かっていたはずぶひ。


 バンディーダが『探知』に目をやると、針は未だ前方を指している。つまり、ここは


「ボケっとしてたら置いてくゾ。もしかして怖いのカ?ホラ、ワタシの手を掴メ」


「大丈夫ぶひ」


「ソウか。ナラ、行くゾ」


 2人は穴に入ると、滑るようにして下っていった。


 もはや、このダンジョンはゴブリンたちの絶好の狩場みたいぶひねぇ


 ズルズルと滑りながら、バンディーダは一人感心していた。












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