第15話 オーク式農業術

 バンディーダの傷も癒え、彼が問題なく身体を動かせるようになった頃、トトは彼にある提案をする。


「バン、お前も狩りに参加しないカ?」


 それはゴブリンが行っている食料調達への参加の打診であった。


「オマエはドラゴンに襲われテも、生き残っタ。だから、中々強イ。狩りにも参加して欲しいゾ」


「もちろんだぶひ。その代わり、僕も協力して欲しいことがあるぶひ」


 バンディーダはポケットからラックルの種を取り出した。


「バン、それは食べられナイ部分だゾ。なんでそんな物持ってるんダ?」


をするからぶひ」


 バンディーダはこの村にいる間、ずっと考えていたことがある。それは訪れるであろうについてだ。


 ダンジョンのモンスターは。今は順調に狩りができたとしても、いつかはその数も減り、いずれ共喰いの結末が来る。バンディーダは彼等にそのような末路を辿って欲しくないと思い、食事に出てきていた種をセコセコと集めていたのだ。


「ノウギョウ?」


「やる事は簡単ぶひ。土を掘り起こして、種を埋めて、水をやるだけぶひ。特に、ラックルは陽の光が無くても育つし、土壌が悪くてもしっかりと実る万能種ぶひよ」


「よく分からナイけど、やるゾ!」


 トトは意気揚々に鼻息を鳴らした。


「とりあえず、農具が必要ぶひけど、見たところ武具しかないぶひねぇ」


「言わレた通り、全部持ってきタけどコレじゃダメなのカ?」


 トトとシトンは箱いっぱいに入った武器や防具を地面に下ろした。


「いいや、はこれで良いぶひ。後は簡単に打ち直すぶひゃ」


 ─────────


「ダンジョンでも育つの!?」


「そうです。この木の実たちはダンジョンにも自生しています。故に、外的干渉は不可能かと思われましたがある冒険者が外に持ち出して、栽培を試みたところ、問題なく成長することが判明しました」


「じゃあ、その木の実たちはどういう理屈でダンジョンに存在するの?」


 僕がそのように問いかけると、タヤは困ったように笑みを零した。


「申し訳ございません。私は木っ端の冒険者ですので、そこまで詳しいことは分からないのです」


「そうだよね。少し意地悪な質問だったかも」


「ダンジョンの仕組みはS級の冒険者ですら、完全に理解していません。現時点で、判明していることはダンジョンの傾向と種類の把握方法のみ。どのようにあの空間が成り立っているのか、私も気になるところです。ただ、植物に関しては


「もう!二人して難しい話しないで!」


「すみません、お嬢様」「ごめんよ。ナティ」



 ─────────────


 ありがとう、タヤ。


 また君のおかげだ。



「トトとシトンは僕と一緒に型を作ってほしいぶひ」


 バンディーダもそこまで詳しくはないので、聞きかじった知識を教えながら、砂と粘土を使った比較的簡単な型を作る。不格好ではあるが、形にはなった。


「後は僕に任せるぶひ」


 バンディーダは武器を持つと、鉄の部分を型の上にかざした。


「たたら吹け、熔鉄の神よ『鍛治種火ヘパイト』」


 鉄は紅く溶けて、トロトロと型に流し込まれる。


「バン、オマエ魔法が使えるのカ!?」


「スゲぇ!メイジオークだ!初めて見たゾ!」


 やいのやいのと盛り上がる2匹。その騒ぎを聞きつけてか、他の者たちが集まってくる。


「魔法ダー!」「初めて見たゾ!」「綺麗ー!」


 幼い子どもたちが大いにはしゃぐ。


「あんまり近くにいると危ないぶひよ。後でいっぱい見せてやるぶひから、少し離れるぶひ」


「凄いナ、バン!オイラ達に魔法を使えるヤツなんていナかっタんだゾ!」


 シトンは目を輝かせながらバンディーダに言い寄る。


「なら、これからどんどん僕を使って欲しいぶひ。炎と氷と汎用魔法なら幾らでもいけるぶひよ」


 汎用魔法。『探知』を始めとしたダンジョン探索を目的として開発された属性不問魔法。どの属性の魔力にも反応し、式が展開される。ただし、魔力変換の仕組み上、複雑な効果は現時点では実現不可能となっている。


「さて、そろそろぶひかな?」


 バンディーダは適当な時間を見計らって、氷魔法を使って冷却する。


「オオ!」


「ま、使う分には十分ぶひ」


 持ってきた剣は鍬に、槍は鎌と化した。


「さて、次は土壌作りぶひ」


 幸い、地面は土だ。ならば、最低限の食物は育てられる。


「はいぶひ」


 トトとシトンに先ほど完成した農具を渡す。


「僕の真似をするぶひ」


 バンディーダはテント近くの空き地を耕す。トトとシトンもまた、見様見真似でバンディーダの後に続く。そうして、人数分の食料が賄える程度の農地が出来上がった。


「後はここに種を埋めて、毎日水をやるだけぶひ」


「それだけでイイのカ?」


「僕もそれぐらいしか知らないぶひ。失敗したときはまた違う方法で試せばいいだけぶひよ」


 ここのダンジョンの深度はまだ把握できていないぶふが、ミノタウロスやドラゴンがいることから相当な深さであることは間違いないぶひ。それに、この村だってフロアの一部にしか過ぎないぶふからそれほど焦る必要はないぶひ。当面の目標は狩りに伴ってこのダンジョンの傾向を掴むことぶひよ。
















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