第11話 伝説との対峙
:◎
「ようやくご対面ぶひか」
下ること120。バンディーダはようやくダンジョンのコアへと辿り着いた。
「コアもまた異質ぶひね」
ダンジョンのコアは通常、円形である。しかし、ここにあるコアは鍵穴のような形をしている。
「うーん、とりあえず破壊してみるぶひか」
バンディーダは少々悩んだ後、コアを破壊しようと手を近づけた。
その手が触れた瞬間、赤色の光がバンディーダを包み込む。
「な!?」
眼に映るは澱んだ雪景色
反転
天地を溶かす炎
笑う少女
啼く赤子
全ては須臾を越えて
目覚めの時
◎:
「あ」
そこはまるで龍の墓場であった。
天地から炎は吹き出し、滝のように溶岩は流れる。瞬時に冷気を纏わなければ骨まで溶けていただろう。
「ここは地獄ぶひか?」
まさに絵物語に出てくる地獄そのものであった。見渡す限り溶岩の海。魔力が尽きる前にここを離れなければ豚の丸焼きが完成するだろう。
「ぶひぃ、ぶひぃ」
滝のように汗を流しながら辺りを散策する。額から滴る汗が目に入ったのでそれを拭ったその時、とんでもないものが耳に入ってきた。
「グオオオオオッ!!!」
聞いた事のない咆哮。しかし、その正体が何者かはすぐに分かった。
「ドラゴン......!」
バンディーダの視界を埋めつくしたのは龍の巨体であった。ワイバーンのような亜種ではなく、伝説上でしか語られないような神々しさを纏った原種が、今まさに上空で羽ばたいている。
「まずい!」
そう思った時には既に遅かった。ドラゴンは口を開き、炎のブレスをバンディーダに向けて吐き出す。
「『
詠唱していては間に合わないと判断したバンディーダは無詠唱で魔法を唱えた。本来、無詠唱による魔法の行使は好ましくない。その個人の技量の差があれど、相対的に威力が下がってしまうからだ。バンディーダの場合、詠唱時の5分の3程度の威力まで落ちる。
「くっ!」
小さな炎の膜に誘導されるようにブレスの軌道が逸れていく。しかし、捉えきれなかった余波がバンディーダの皮膚を焦がした。
まずいぶひね。これが本物のドラゴンだとしたら勝ち目がないぶひ。炎と氷はドラゴンと特に相性が悪い。なんとか打開する方法を見つけなければ。
「グギャオオオオ!!!!」
自身が放った一撃をいなしたバンディーダをドラゴンは完全に敵であると認識した。上空を旋回し、撹乱を狙いつつ、攻撃する隙を窺っている。
「ぶひゃあ」
バンディーダはわざと隙を晒した。さりげなく、できるだけ自然に。相手が此方へ向かってくるように。そして、彼の狙い通りにドラゴンは急降下する。先程の攻撃でブレスは効果がないと思ったのか、近接攻撃を仕掛けるようだ。
勝負は一瞬ぶひ。この一撃での失敗は即ち死。ぶひ。
バンディーダは集中する。この攻撃は相手に悟られてはいけない。故に、詠唱は許されない。目を閉じて、呼吸を整える。
「『
すれ違い様、氷の槍による一閃。無詠唱によって造られた槍の先は折れて、溶け出した。しかし、その鋒は相手の肉を確かに貫いた。
「ギャアアア!!!」
「仕留め損なった......。やはり、伝説上の生き物は一筋縄では行かないぶひね、ぐぶっ!」
思わず苦笑を漏らすバンディーダ。彼も決して無傷ではない。ドラゴンの爪撃は彼の脇腹を大きく抉っていた。
「ダメージは入る。それだけでも十分な希望だったぶひ」
「グググ!グギィアオオオオオア!」
猛り狂うドラゴン。傷つけられたのは肉体だけではなく、その誇りにまで至る。激昂した彼の身体には紋章が浮かび上がり、周囲には幾つもの魔法陣が展開される。
「いよいよ、本気で来るぶひか」
バンディーダも決死の力で魔力を練り上げ始める。
「僕だって、こんな所で死ぬ訳にはいかないんだ!!!」
ブレイクル。憎たらしいが、奴の実力は本物だった。全属性を扱う平民の希望。だが、僕だって二属性術者、氷炎の貴公子と呼ばれた男だ。あいつにできて、僕にできないはずがない!
「
燃えさかる氷。
それはもはやブレイクルが行った同時詠唱の域を遥かに超えた技術。存在しえない矛盾物質。それは術者すらも知りえない未知の領域へと達していた。
「ァガッ!」
「うおおおおお!!!!」
ほぼ同時に放たれた互いの魔法が衝突する。ドラゴンが唱えた魔法は雷と闇と風の魔法。バンディーダが唱えたのは炎と氷。ドラゴンが唱えた魔法は全て独立しているのに対し、バンディーダの魔法は一体化している。それが勝敗を分けた結果となった。矛盾物質はあらゆる属性の干渉を受けず、それらを打ち消して、標的に命中した。
「グギャァァァァア!!!」
翼膜を穿つ氷塊。その痛みにドラゴンは悶絶し、悲鳴を上げる。やがて、地面へと墜落し、のたうち回った後、尻尾を切った蜥蜴のごとく、惨めに敗走した。
「はぁ、はぁ、ぶ、ぶばぁ!」
辛くも勝利したバンディーダであるが、その傷は浅くない。
「血を止めない、と」
傷口に炎をあてがい、肉を焼いて止血する。
「ぐああああ!」
バンディーダもまた、先程のドラゴンのように悶絶する。
「はあ、はあ、なんとかなった、ぶひ」
数分ほど経過し、痛みが落ち着いた頃にようやく安堵の息を漏らす。
「でも、もう魔力も底が尽きそうぶひ。万事休すぶひ」
ドラゴンが去ったとしても、ここが溶岩地帯であることには変わりない。丸焦げのタイムリミットは刻一刻と迫っている。
「ぶひぃ〜!」
半ばヤケクソ気味で叫ぶバンディーダ。
「ぐぎゃあ?」
その声に反応する者がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます