独白 かつて愛した貴方に

  決して後悔はしていない

 

  でも、言い出せなかった私にも非があるのは確か


  なぜ、言えなかったのかしら。たった一言、


  別れましょう、とだけ


  きっとどこかで期待していたのね。もう戻るはずもないあの頃を─


  貴方は壊れてしまったの。タヤが死んで、フロールさんが消えて、負い目を感じてしまったから。ひたむきに強さを求めた結果、醜い豚が出来上がってしまった。でも、それは私の責任でもある。


  貴方は私を護ろうとしてくれたのでしょう?でも、貴方が肥えていく度に、あの姿に重なって見えてしまう。


  辛い。大好きな貴方が死ぬほど嫌いなあいつに染められていくようで。下品に笑う貴方はあの父の顔にそっくり。何度も殺してやろうと思えるほど、憎たらしかった。


  貴方が送る菓子の質は年々上がっていったけれど、貴方と顔を会わす度にその味覚は消えていった。貴方が怖い顔をする度に、私の心は張り裂けそうになって、体が千切れてしまうと思った。


  学園での貴方の行動を聞いて、父は大いに喜んでいたわ。権力者としての自覚が既に出来上がっていて素晴らしいですって。



  だから、私は貴方に言ったわ。


  もうやめて。元のバンに戻って


  でも、貴方は顔を横に振ってこう言ったわね。


「豚の王子様も強くなったんだ。強くなくちゃ何もできない」


  そう、バンディーダ・シモンは死んだのね。そこにいるのはただの醜い豚。強さを履き違えた悲しい怪物。愛した人を騙る化け物をせめて私が殺してやろうと思ったけれど、どうしてもあの頃の貴方が脳裏にちらつく。

 

  あぁ、バン。私の王子様だった人。貴方の影を追い求めて、私は彼に出会ったの。


  貴方とは似ても似つかない。けれど、私は彼に貴方の面影を見てしまった。平民のくせに生意気で、強かで、たくましい男。彼と話す度に貴方がくれた輝きが彼の光に塗り潰されていく。


  貴方のことは愛していたの。でも、鈍くなった光はより眩しい煌めきに染められるしかない。


  きっと貴方が昔のままで居てくれたら


  なんて結果論は言わないわ


  もう決断してしまいましたから


  あの決闘が貴方にとって、目を覚まさせる気付け薬でありますように


  そして、私のような二股を掛ける汚らわしい女のことなんて忘れて新しい人生を幸せに生きて


  方法はどうであれ、父から貴方を切り離せてよかった


お菓子、美味しゅうございました私は幸せでした

 

  さようなら、愛しかった人よ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る