第9話 地獄行き
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「ブレズ様、ご子息はこのような書き置きを残していたそうです」
「なんだと!早く寄越せ!」
家で歓迎会の準備をしていたブレズは慌てて御者から紙をひったくる。
「バン、お前まさか...」
ブレズの顔から血の気が引く。一気に5年ほど老けたような顔つきになった。
「今すぐ聖騎士団に捜索を要請しろ!場所は
「領主様!あそこは危険です!貴方の身に何かあればシモン領地はどうすれば良いのですか!?」
「バンが死ねば遅かれ早かれこの家は滅ぶ。遠縁の奴らにこの
「領主様!」
すまぬな、バン。気づいてやれなんだ。しかし、あの場にはゲーテがいたのだ。あそこでああでも言わなければ奴はお前から目を離さん。
ブレズは数人の兵士たちと共に現世の地獄と呼ばれる場所へと向かっていった。
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バンディーダはシモン領地北西端にいる。そこには多重の門で厳重に封鎖された一帯があった。バンディーダは親指を噛んで、その血印を門にかざす。門は音をたてて全て開く。
「母上」
眼前に広がるのは大きな氷山。数年前、バンディーダの母フロールが命を賭してこのダンジョンの入口を封鎖したのだ。
「きっと"来るな"と言うでしょうね。でも、僕はダメだったんだ。できなかった。なれなかったんだ。だから、地獄行き」
一歩一歩、氷山へと近づいていく。母の墓前で現状を報告する息子のように。
「母上、何がいけなかったんだろう?貴女がいなくなってから父も相当やつれてしまった。僕らシモン家は病んでしまった」
氷山の一角にそっと触れる。指先から融けてしまいそうなほど冷たく、そして暖かった。
母上、さみしいよ。また、笑ってよ。まだ、ナティナと一緒にピアノを弾いてないじゃないか。
「弱かった。強くなったと思ってたのに。あの豚の王子様のようになれたと思ってたのに!」
違う!僕は、僕は強くなってなんかいない!ただ、貪っていただけだ!強くなろうとなんかしていない!
「ねぇ、母上。強さってなんだろう?どうしたら、僕はあの子を幸せにできたんだろう?」
父上も僕と同じこと、母上に言ってたよ。きっと、母上は知っていたんだろうね。
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