第4話 豚はダンジョンに潜る その2
「バンディーダ様、こちらの二人を雇いました」
バンディーダがテントを出ると、御者が二人の人物を引き連れてきていた。
「B級剣闘士のモーブだ」
「C級回復術師のプーソです」
「ぶふふふ、悪くないな。今日はよろしく頼むぞ」
「はい」「ああ」
予定どおりの10時にバンディーダたちはダンジョンへと入っていった。
「ぶひひひひは、烙命を刻め『
ダンジョンへ入ってから数分後、
「これが氷炎の貴公子、若くしてC級のダンジョンにいとも容易く潜れるわけだ」
「うーん、雇われたはいいものの僕の回復の出番が来ますかね」
上層のモンスターはほぼバンディーダだけで片付けられた。ダンジョンは地下に潜れば潜るほど、下層へと行けば行くほどモンスターは強くなり、難易度も高くなる。ダンジョンの階級は調査団が確認した最下層によって判断される。この深緑の蜜籠は、地下10Fにて、その階が最深部を意味するコアが確認された。そして、地下10Fの攻略難易度はC。よって、深緑の蜜籠はC級ダンジョンとなった。
ちなみに、ダンジョンのコアを破壊する行為は管理者の許可なしで行うと罪に問われる。ダンジョンは管理者の所有地であるから、ダンジョン経営によって土地で得られたであろう利益を破壊者が賠償することは当然である。ただし、まだ管理者の決まっていない、すなわち未発見のダンジョンや管理者のいない野良ダンジョンのコアを破壊することは自由である。(そのようなダンジョンはモンスターの発生が少なく宝もあまり捻出されないため利益につながらず、捨てられているか、中にいるモンスターが強すぎて封印されているかが大半を占めている)
「ぶひほひ、もう半分まで踏破してしまったな」
気づけば一行は地下5階層まで来ていた。それもバンディーダ一人の力で。
「ぶひぶひ、そろそろお昼の時間かな?これから食事をするから辺りを見張っててくれ」
バンディーダは鳴きながら、カバンをゴソゴソと漁る。
「もしかして、これだけのために雇われたってのか?」
「まぁまぁ、護衛にしては破格の値段でしたしこれだけでお金が貰えるなら満足ですよ」
バンディーダが昼飯を貪る中、モーブは蟲系のモンスターを薙ぎ倒していた。プーソはその横でモーブのサポートをしながら、時折バンディーダから貰った菓子をつまんでいた。
「ぶふぅ~、そろそろ行くか」
30分ほどした後、バンディーダは口を拭いながら立ち上がった。攻略の再開である。
「ぶはは!幽玄に咲き誇れ『
その後もバンディーダの快進撃は続き、難なくして最下層までたどり着いた。
「おいおい、このままダンジョンマスターも一人でやるつもりですかい?」
ダンジョンマスター。コアを護るダンジョン内最強のモンスター。こいつの存在によって最終的なダンジョンの階級が決まる。
「ぶふぅ、無論。そうでなければ僕が行く理由がない」
「はは、さすがだ」
「キュイ」
モーブが乾いた笑いを出すと、足元から奇妙な鳴き声が聞こえた。
「ん、マンドラゴラか。こりゃダンジョンマスターも近いな」
「キャアアアアアア」
根っこの形をしたマンドラゴラは金切り声をあげると地面に消えていった。
「ぶひ、やはり本職の耐性魔法は効き目がいいな。全く不調がない」
「そう言ってもらえると光栄です」
マンドラゴラの鳴き声は対策なしで聞いてしまうと最悪死に至るが、対策をしていればただのうるさい根っこに成り下がる。このように、事故を未然に防ぐために調査団による調査が行われるのだ。
「ウフフ」
一行は開いた場所へ出ると、そこには下半身は植物、上半身は女性の姿をしたモンスターがいた。
「アルラウネ。それも大きい種だな」
「マザー・アルラウネ。C級の中でも上位ですね」
「ウフフ」
アルラウネは蔦を伸ばして、こちらを探るように動かす。
「ぶふひ、ちゃちゃっと終わらせるか。
「ッッ!」
モーブは思わず身震いした。己の腕に触れてみると鳥肌が立っている。プーソもまた、驚嘆し、口をあんぐりと開けていた。
虎を模した巨大な黒い炎はマザー・アルラウネに襲いかかる。マザー・アルラウネは断末魔を挙げることなく、灰塵と化した。それでもなお、虎は猛り狂い、辺りのモンスターを一掃した。
「馬鹿げた魔法だ...こりゃA級にも引けをとらんぞ」
「なぜバンディーダ様はC級に...?」
「ぶひひ、ちょっとやり過ぎたかな」
未だ炎が燻る中、バンディーダはコアへと向かう。
「コアの一部を少し拝借っぶひ」
ダンジョンのコアは大部分に大きな損傷を与えない限り、破壊されることはない。一部を傷つけられた程度ではすぐに再生する。この特性を利用して、シモン家を始めとした管理者はコアの一部を持ち帰ることによってダンジョン踏破と認定することにした。コアがある限り、殺されたモンスターや採られた宝、ダンジョンマスターも復活するため、ダンジョンは何度でも利用可能である。そのために、ダンジョン経営は莫大な利益を生み出すのだ。
「ぶっほほ、やっぱり格下のダンジョンを踏破するのは楽しいな。それに僕はまだ若いから評価もされる。一石二鳥ぶひぃ~」
C級ダンジョン、深緑の蜜籠。主を失った静かな森に豚の鳴き声が響き渡るのだった。
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