第3話 豚はダンジョンに潜る その1


「ぶひゃ」


 バンディーダは領地へと帰郷していた。ダンジョンに潜り、モンスターを狩るために。なぜ、モンスターを狩るのか。それは、己の強さを証明するため。バンディーダに取り巻きがいるのは財力だけではない。バンディーダ自身の並外れたちからがまた人を引き寄せる。


「バンディーダ様、今回はどのダンジョンへ?」


 使用人が問うとバンディーダは息を巻いて答えた。


「新しく出来たC級のダンジョンを適当に見繕え」


 ダンジョンは国またはギルドから派遣された調査団による調査によって判定され、S~F級まで区分される。C級ダンジョンともなれば騎士団の一隊の隊長に任命される実力がなければ入れない。つまり、バンディーダはそれ相応の実力があるのだ。


「では、深緑の蜜籠にいたしましょう」


「ぶほう、どんなダンジョンだ」


「主に植物系モンスターと蟲系モンスターが住まうダンジョンでございます。氷炎ひょうえんの貴公子であるバンディーダ様にぴったりかと」


「ぶはは、いいな。よし、それにしよう」


 支度を整えて、バンディーダはダンジョンに向かう。体重が故に馬には乗れないので現地までは御者に馬車を走らせる。シモン家の邸から半日ほど走ると、目的地に着いた。


「ぶほ、そこそこ賑わってるな」


 ダンジョンの入口にはシモン家による拠点が作られており、各地の冒険者やギルドに所属していない賞金稼ぎ、傭兵などを受け入れていた。


「バンディーダ様はこちらへ」 


 御者に案内されたのは簡素テントとは思えないほど立派なテントであった。中には、天幕付きのベッドやマホガニー質の家具、そして大量のお菓子が並べてあった。


「ぶひひぃ、出発は明日の10時にする。これで回復術師ヒーラー近接戦闘者インファイターを適当に雇ってくれ」


 バンディーダは御者に金貨を十数枚ほど渡す。


「ぶぶ、それくらいあればそこそこの奴が雇えると思うから頼んだ。そして、これはチップだ。だから、資金をちょろまかして低俗な者を雇うなよ」


 追加で五枚ほど金貨渡して、バンディーダはテントの中へ入っていった。ほどなくして、テントの中から菓子を貪り食う音が外に漏れる。その音が一時間ほど続いたあと、豚のイビキが日が昇るまで拠点に響いた。 


「ぶふぅ、よく寝た」


 朝の9時、バンディーダは目を覚ます。


「さて、今回もざっくりとモンスターを狩って名声を挙げるかな。ぶひひひひ」


 食いかけの菓子を齧りながら、バンディーダは不気味に笑った。














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