スイッチ

西洞院 奏

良い人。

カチッ。


「れーん!起きなさーい!」

母さんが1階からけたたましく叫ぶ。うるさいなあって思いながら、これが無いと起きれないよな、俺、って毎日思う。


どたどた。


あぶねっ。この階段嫌いなんだよな。


「毎日遅くまでゲームしてるからよ!」

昨日は早く寝たんだけどな。母さんはたまにおかしな事を言うちょっぴり天然ちゃんなのだ。


「いってきまーす!」


俺は都内の中学三年生だ。

自分で言うのもなんだが、良い人だと思う。差別とか絶対ダメだと思うし、殺人なんて以ての外だ。


最近、山で女の子が生き埋めにされる事件が起きた。犯人は薄毛で、無精髭が生えた汚らしい中年男性だった。

俺は通学時スマホでよくニュースをみているので、こういう事件を見ると心が痛む様な、心臓を針で刺された様な思いがする。


「ただいまー!」

晩御飯を終え、床に就く。


カチッ

スタタタタッ


…カチッ。


「れーん!何回言ったらわかるのー?!」


慣れない階段を降りる。

今日はトーストか。とか思ってたら母さんが、

「昨日冷蔵庫でなにつまみ食いしてたの」

「俺そんな事してないよ。見間違いじゃない?」


俺はいつもの母さん節だと思って聞き流した。


そして学校に行くと、俺は表彰式があると言われた。犯罪啓発ポスターで賞をとった。うれしかったなぁ。帰ったら母さんに見せてあげよう。


帰宅し、とても眠かったので母さんに見せるのは明日にして、床に就くことにした。


カチッ

スタタタタッ

ガチャ、


……カチッ。


いつものように母さんが起こす。

寝起きが悪かったのか母さんが2階まで来て布団をひっくり返す。


「キャア?!?!」


そこには土で汚れ、両手を真っ赤に染めた、

れんが寝ていた。

「れん!これは一体どういうこと?」

俺にもわからなかった。

眠気と動揺が抑えれないまま、サイレンが聞こえ、

手錠をかけられ、そのまま少年院へと向かった。


事情聴取が終わり、

精神の異常があると見なされ病院へ行くと、

俺は解離性同一性障害と診断された。

そして、殺したのは恐らく、

もう片方の人格だと。


その後、俺は情状酌量の余地があると判断されて釈放された。


被害に遭った女の子は、山で見つかり、腹部が大きく裂かれて、内臓がぐちゃぐちゃにされていたそうだ。


俺はこれから今までとは真逆のレッテルを貼られ、背負いきることの出来ない十字架を背負って生きて行かないと行けない。



カチッ


それにしても綺麗だったなァ


“はらわたって初めてみたなァ”


あんなに鮮やかな血液が人間には流れているんだなァ


いつか母さんに見せてあげよウ。






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スイッチ 西洞院 奏 @Nishi_

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