第10話 久しぶりの再会

 優香ゆうかと別れた飛鳥あすかは、急いで校舎の裏手へと向かう。

 まだ宇奈月うなづきさんはそう遠くへは行っていないはず。

 その予想通り、すぐに麗華れいかの背中を見つけた。

「宇奈月さん! 私、黒部くろべ飛鳥。覚えてない?」

 駆け寄って声を掛けると、彼女は振り向いて答える。

「黒部飛鳥。もちろん覚えています。小学校の時は、あなたに助けられましたからね」

 良かった、覚えてくれていた。

「でも、本当にびっくりしたわ。宇奈月さんがSランクになっていたなんて」

 あの時の麗華はCランクだった。だからこそSランクの先輩男子にイジメられていたのに。

 では、一体どうしてSランクに? SSランクと三億円の裏技は論外としても、一億円は払ったということになる。

 麗華は少し考える仕草をしてから、虚ろな目をこちらに向ける。

「それについては、話すと長くなります。またの機会でも宜しいですか?」

「ええ、構わないわ」

 きっと相当の苦労と努力があったのだろう。そう簡単に説明出来るものでもないか。

「時に黒部飛鳥。あなたはAランクに戻りたい、Sランクに上がりたい、そうは思いませんか?」

「それは、どういう意味?」

 麗華の言葉の真意が分からず、首を傾げる飛鳥。

「わたくしの指示通りにすれば、あなたはSランクになれる。晴れて上級国民です」

「ちょっと待って、宇奈月さんは何を言っているの?」

「あなたは宮ヶ瀬みやがせ優香の手の平で転がされている。違いますか? わたくしはそんなあなたを憂いているのです。黒部飛鳥は誰かの奴隷ではなく、支配者になるべき人間です。総理大臣だろうと有名企業の社長だろうと、あなたの夢はわたくしが全て叶えましょう。さあ、こちらへいらっしゃい」

 飛鳥はもう何が何だか理解出来なかった。

 言われるままに、麗華へと近づく。

「私は、どうすればいいの……?」

「宮ヶ瀬優香の言いなりにならないこと。わたくしが求めるのはそれだけです」

「分かったわ。あんな奴の言うことなんて、二度と聞かないわ」

「黒部飛鳥。あなたはやはり優秀ですね」

 私は宇奈月さんに抱き寄せられ、彼女の温もりに心を落ち着かせていた。


 気が付くと、私は宇奈月さんの膝を枕にして眠っていた。

「ごきげんよう、宇奈月です。……ええ、ありがとうございます」

 誰かと喋っている? 違う、電話をしているんだ。

 ぼんやりとした意識の中、その内容に耳を傾ける。

「ハンドラー、早速出番です。宮ヶ瀬優香を消しなさい」

『宮ヶ瀬? 黒部ではなく?』

「そうです」

『それ、ボクに出来る?』

「はい。あなたはわたくしの継承者です。自信を持ってください」

『了解、頑張る』

「初仕事にしては少々難しい任務ですが、期待していますよ。土師はじ八千代やちよ

 宮ヶ瀬さんを消す? ハンドラー? 宇奈月さんは、何を話しているの……?

 電話を切った麗華は、飛鳥が起きたことを察して話しかける。

「黒部飛鳥、ようやくお目覚めですか。ぐっすりと眠れたようですね」

「今の電話は……? それに、ここはどこ?」

「わたくしの車の中です。電話については気にしないでください。あなたに危害は及びませんから」

 それはつまり、宮ヶ瀬さんには危害が及ぶってこと?

 飛鳥は必死に身体を起こそうとするが、腕に力が入らない。

「ねえ、私に何かしたでしょう?」

 問いかけると、麗華とは別の女性の声が聞こえてきた。

「Hello, crazy girl. 流石は勘が鋭いようね。そうよ、Youには薬で少し眠ってもらったわ」

 顔を動かすと、助手席に注射器を持った金髪碧眼の生徒が座っていた。

「一組の、エレナ・フーバーね……」

 すると、麗華が申し訳なさそうに口を開いた。

「すみませんね、手荒い真似をしてしまって。わたくしは必要ないと言ったのですが、エレナさんが聞き入れてくれなかったのです」

「当然よ。Miss Asukaをtrustするのは無理。何かあってからでは遅いわ」

 どうやらエレナには相当嫌われているらしい。やはりあのスピーチが理由だろうか。

「こんな拉致まがいな事をして、一体何が目的?」

「拉致? それは誤解ですね。わたくしはただ、あなたを家まで送ってあげただけです。外を見てください」

 麗華の言葉に、飛鳥は窓の外に目を向ける。

 車が停まっていたのは、飛鳥の住むアパートの前だった。

「そろそろ薬の効果も切れる頃よ。Miss Reikaのkindに感謝しなさい」

 エレナがぶっきらぼうに飛鳥のスクールバッグを差し出す。

 ようやく身体が動くようになった飛鳥は、強引にスクールバッグを回収し車から降りる。

「では、また来週お会いしましょう。ごきげんよう」

「See you. 裏切ったら容赦しないから」

 麗華とエレナを乗せた車は、その場から勢いよく走り去っていった。

「宇奈月さんのこと、本当に信用していいのかしら……?」

 呟いた飛鳥は、制服のポケットからスマホを取り出す。そして、時間を確認したついでにアプリを立ち上げた。寝ている隙にお金を奪われたのではないかと不安に感じたからだ。お金は一円も減っておらず無事だったが、それよりも驚く文字がトップページに表示されていた。

「えっ、これって……!」

 飛鳥は目を見開き、しばらくその文字を見つめたまま固まっていた。

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