第9話 渾身のスピーチ

 そして迎えた本番の日。二〇二二年四月十五日。

 体育館には一年生の一組から四組の生徒全員が集合していた。ほとんどの人がどこか緊張した面持ちをしている。

 時間になると、四十代ほどの男性教師が壇上に上がった。一組の担任である池原いけはら章造しょうぞうだ。マイクの高さを調整し、生徒の視線が集まるのを待つ。

「えー、皆さん。おはようございます。いよいよ今年も、本校で毎年恒例となっている新入生スピーチコンテストがやって参りました。スピーチコンテストという名前ではありますが、皆さんが気負う必要は全くありません。これはあくまで、新入生の興味や関心、個性についてを我々教師が深く知る為のものであり、成績や評価のマイナスとはならないからです。もちろん目を見張るものがあればプラスの評価となるでしょうが、それは副産物のようなものであり本来の目的ではありません。上手くできなくても、途中で失敗しても、諦めずに最後までやり通してもらえればと思います。それでは、令和四年度新入生スピーチコンテストを開始します」

 パチパチと拍手が鳴り響く。

 その後池原先生はクラスの発表順を伝えた。一組から順に二組、三組、四組とのこと。

 優香ゆうかたちは一番最後にスピーチをしなければならない。かなりのプレッシャーだ。

「一組の生徒はステージ袖に移動して下さい」

 女性教師によるアナウンスがされると、一組の生徒七人がステージ袖へと歩き出した。

 すると、隣にいた飛鳥あすかがぽつりと呟く。

「一組も七人なのね」

「本当だ。私たちのクラスと一緒だね」

 優香は言われてみればと思い、一組の生徒を目で追う。

 最上位であるSランクと最底辺であるCランクの生徒が同じ人数。これには何か理由があるのだろうか?

「一年一組、エレナ・フーバーさん」

 再びのアナウンスの後、記念すべきトップバッターが姿を現す。

 金髪碧眼で高身長の美少女。髪をなびかせて颯爽と登場したその生徒に、日奈子ひなこ美里みさとが思わず声を漏らした。

「うおっ、ハーフじゃん!」

「同級生にあんな人がいたんすか!」

 確かに、優香自身も少し驚いた。まさか外国の血が流れる生徒が一組にいたなんて。他クラスとはほとんど接点が無いから全然気が付かなかった。

「Hello, everyone! 私はエレナ・フーバーよ。まずは簡単なprofileから。私は父がアメリカ人、母が日本人のハーフで、eighth graderの時に日本に来たの。そんな私が今日皆さんにrecommendしたいのは、私の生まれ故郷Los Angelesについて。アメリカ西海岸の大都市で、大谷おおたに翔平しょうへいのAngelsの本拠地とでも言えば伝わるわよね?」

 彼女のスピーチは、日本語の間に発音の良すぎる英語が交ざった不思議なスピーチだった。

 中学二年の時に日本に引っ越して来たと考えれば、かなり上手な日本語だとは思うが。

 一人の持ち時間はおよそ二分。エレナは二分ジャストでスピーチを終える。

「Los Angelesの魅力は分かってもらえたかしら? これで発表はfinishよ。Thank you」

 盛大な拍手が送られる。

 さすがSランク、レベルが違った。四組のクラスメイトの内容は大体把握しているが、今のスピーチと比べてしまうと雲泥の差がある。いっそのこと発表順を逆にしてもらいたいくらいだ。

「エレナ・フーバーさん、ありがとうございました。続きまして、宇奈月うなづき麗華れいかさん」

 次の生徒の名前が呼ばれる。ステージに期待の眼差しが向けられるが、その生徒はなかなか姿を現さない。

「あれ? どうしたんだろう?」

 おかしいと思ったのか、菜月なつきが心配そうにステージ袖を見遣る。

「休みって感じでもないよね?」

「何かトラブルかな?」

 明らかな異変に二組、三組の生徒もざわつきだす。

 その時、白杖を持った生徒がエレナにガイドされてステージに出てきた。

 エレナは彼女を演台の前に立ち止まらせ、素早くマイクの高さを合わせる。そして、彼女の肩をぽんと叩いた。

 合図を受けた彼女は、頷いて口を開く。

「ごきげんよう、宇奈月麗華と申します。皆様のこと、驚かせてしまったかもしれませんね。実はわたくし、生まれつき視覚に障害があり、目が見えないのです。杖の使用と誘導者の同伴をお許し頂きたく存じます」

 よく見ると、麗華の瞳は虚ろで光が無いように感じられる。

「宇奈月、さん……」

 隣からそんな声が聞こえ、飛鳥の方をちらりと見遣る。

 すると、飛鳥は目を見開いたまま固まっていた。

「あの子がどうかしたの?」

 問いかけてみるが、聞こえていないのか反応が無い。

 もしかして、飛鳥が過去に助けた目が不自由な友達って……。

「これにて、わたくしの発表を終わります。ご静聴ありがとうございました」

 内容を全て暗記していたのか、麗華は流れるように二分間のスピーチをして、深く一礼した。

「宇奈月麗華さん、ありがとうございました」

「Miss Reika、掴まって」

 エレナにガイドされながら、麗華がステージ袖へと戻っていく。

 その後の一組の生徒によるスピーチも、かなりのハイレベルなものだった。緊張や不安などを全く感じさせない、自信満々の堂々たる態度。これがSランクの余裕か。

 次の二組のスピーチも、Aランクの生徒の集まりだけあって意識高い系の内容がほとんどだった。しかし、一組と比べると少々固いと言うか、もっとユーモアがあっても良かったような気がする。まあCランクの私が言えたことじゃないけれど。

 そして三組の生徒のスピーチは、優香たちと同じように本当に好きなことをテーマにしていた。趣味や興味のあることについて、笑いを交えながら楽しそうに話している姿は、これからスピーチをする四組にとって大いに参考になったことだろう。

「続いて、四組の発表です。四組の生徒はステージ袖に移動して下さい」

 ついに優香たちの番。

 ステージ袖に向かうと、そこにはアナウンスの声の主がいた。

「こんにちは、三組担任の下久保しもくぼ彩理さいりです。まずは誰からやりますか?」

「どうする? 決めてなかったね」

 菜月が全員の顔を見回す。

 だが、ここで手を挙げる勇気は誰にも無いようだった。当然と言えば当然か。

「すみません、じゃあ私からやります」

「お名前は?」

浦山うらやま菜月です」

 さすが菜月、嫌な顔一つせずに一番手を引き受けるなんて。

 クラス一番手が決まったことで、その後は次々と順番が決まっていく。下久保先生はそれをボールペンで紙に書いて、ざっくりとした原稿を作った。

「準備はよろしいですか?」

 優香たちが頷くと、下久保先生はマイクを持ってアナウンスをした。

「お待たせ致しました。一年四組、浦山菜月さん」

 菜月がステージへと上がり、演台に向かう。

 緊張しているのではないかと心配だったが、どうやら平気そうだ。

「こんにちは、浦山菜月です。四組の学級委員として、しっかりとスピーチしたいと思います」

 大きくハキハキとした声で自己紹介をすると、最後まで完璧にスピーチをしてみせた。四組にとっては幸先の良いスタートだ。

 戻ってきた菜月に、日奈子が親指を立てる。

「カンペキじゃん、ナツキ!」

「うん、ありがとう。結構緊張した」

 菜月は胸を押さえてホッとした笑みを浮かべる。

 全然緊張しているようには見えなかったけど、本人的には相当緊張していたらしい。

 その後も花音かのん、美里、かえでとそれぞれ自分なりのスピーチを披露し、次はいよいよ飛鳥の番。

 優香は二つ折りにした原稿を飛鳥に手渡す。

「本当に初見で大丈夫だった?」

「何よ今更。ここまで来たらやるしかないでしょう?」

「うん、そうだね。自分で書いたことになってるんだから、読みながらリアクションしないようにね?」

「分かってるわ、そんなの当然よ」

 言われるまでもないといった様子で原稿を受け取ると、飛鳥はステージの方に身体を向けた。

矢木沢やぎさわ楓さん、ありがとうございました。続きまして、黒部くろべ飛鳥さん」

 アナウンスされた飛鳥は凛とした態度で演台に向かい、原稿を広げる。

 さあ、恥ずかしがらずに最後までちゃんと読めるかな?

 飛鳥は一瞬ぎょっとした顔をしたが、すぐに冷静さを取り戻す。

「皆さんは、猫になりたいと思ったことはあるかしら? マイペースで、自由気ままで、それでいて憎めない。そんな猫に。人間社会、特に日本の社会は生きづらい。そう感じたことがあるのは、きっと私だけでは無いはず。常にシステムに監視され、そのシステムに評価され続ける。そしてその評価は、私たちの生活水準をも左右する。これは果たして、人間中心の社会と呼べるのでしょうか? 私はそうは思わない。システムの支配下で生きるなんて自由じゃない。平等じゃない。システムの顔色を窺うより、人間も猫のようにワガママに生きた方が良い。そうでしょう?」

 名乗りもせずに個人評価法の批判を始める飛鳥に、生徒が騒然とし始める。

「何あいつ? とんだ勘違い女じゃん」

「四組ってあたおかの集まりっしょ? 気にしたら負けだって」

 優香の作った原稿はともかくとして、個人評価法をスピーチの題材に選ぶ時点であたおか、頭がおかしいと思われても仕方がない。

「What’s? Sheは信じられないほどのcrazy girlね。絶対にいつかtreason、国家反逆罪で捕まるわ」

 一組の辺りから、エレナの嘲笑するような声も聞こえてくる。しかし、麗華だけは真剣に耳を傾けているようだった。

「エレナさん、お静かに。わたくしが聞こえませんわ」

「Sorry.」

 誰も麗華には逆らえないのか、エレナ以外の一組の生徒も静かになる。

 飛鳥はそんなことは意にも介さず、淡々とスピーチを続ける。

「それに、このシステムには大きな欠陥がある。一組のあなた達ならその欠陥が何か分かるわよね? 二組のあなた達もよく聞いておきなさい。SランクはAランクまでとは違って、システムの評価以外に必要なものが存在するの。それは……」

 そこまで順調に読んでいた飛鳥が、疑うように原稿に目を落とした。

 やっぱりここは驚くよね。優香の想定していた通りだ。

「それはお金よ。法律にも規定されていなければ世間一般にも公表されていないけれど、AランクからSランクに上がるには一億円を納めなければならない。驚いたでしょう? でも、驚くのはまだ早いわ。これは三組にも関係のあることよ。実はね、合法的にランク問わずSランクに上がる裏技があるの。何か分かるかしら?」

「そんなのあるん?」

「聞いたことないにゃあ」

 三組の生徒たちは顔を見合わせて首を傾げる。

「あいつふざけんなよ。退学よ、退学」

「私人生終わったわ。マジ無理」

 一組の生徒の中には頭を抱えている者もいた。彼女らはきっとその裏技を使ってSランクになったのだろう。

「一組には自覚している人もいるみたいだけれど、分かっていない三組の為に教えてあげるわ。正解はSSランクの人間とのコネを作って、その人に三億円を支払うこと。SSランクはSランクの中に紛れているから、見つけることは極めて難しい。たとえ見つけたとしても、三億円なんて大金は宝くじでも当たらない限り払えない。まあ、この裏技はあって無いようなものだけど、一応頭に入れておくことをお薦めするわ」

 アドリブが入ってくれば、ここからはもう飛鳥の独壇場だ。

「結局システムを作り動かしているのは人間。システムの顔色を窺うことはSSランクの人間の顔色を窺うことと同じ。つまり、個人評価法によって平等な社会に近づいたというのは真っ赤な嘘。格差は縮まるどころか広がり続けているのよ。システムを隠れ蓑にして、一部の人間が利権を握っているこの社会。それをあなた達は自由だと思う? 平等だと思う? ここまで聞いて、もし何も思わないのなら好きにすればいいわ。国家の犬として従順に暮らすことね。でも、少しでもおかしいと思ったのなら、それは気ままな猫のような自由を手にする第一歩となる。最後に私、黒部飛鳥は宣言する。私はSランクに成り上がり、史上最年少で女性初の総理大臣になり、個人評価法を廃止することを」

 飛鳥が真っ直ぐに前を見る。

 すると、体育館は無人と思えるほどの静寂に包まれた。

「以上でスピーチは終わりよ」

 ステージ袖に目配せする飛鳥に、下久保先生が慌ててマイクを握る。

「黒部飛鳥さん、ありがとうございました……」

 とんでもないスピーチに、下久保先生もかなり動揺したらしい。

「えー、続きまして、宮ヶ瀬みやがせ優香さん。スピーチコンテストを締めくくる大トリです」

 異様な雰囲気の中、飛鳥と入れ替わるように演台に立つ。

 これはもう誰も聞いてないな。よし、適当にやろう。

「はいどうも、宮ヶ瀬優香です! 実はこの原稿、白紙なんですよね〜。驚くほどの白さ。ってな訳で、これはもう破きます。ビリビリビリ〜。はい、スッキリしましたね! さてと、ノープラン行き当たりばったりでやらせてもらってますが。いやぁ、さっきのは何だったんでしょうねぇ? Sランクへの宣戦布告ですか? うちのクラスには面白い人がいたものですね〜。え? 私の方が面白い? お褒めの言葉ありがとうございます」

 どこまでふざけても笑いが起きない。まるでYouTubeの広告になった気分だ。

「えっと、もう喋ることもないので終わります。グッドボタンとチャンネル登録、お願いしますね。それでは、宮ヶ瀬優香でした〜! またね〜!」

「宮ヶ瀬優香さん、ありがとうございました。四組の生徒は列にお戻り下さい」

 拍手も何も無い中ステージを降りる。

「優香、大丈夫? 盛大にスベってたけど」

 励ましの言葉をかけてくれる菜月に、優香はかぶりを振る。

「平気平気。飛鳥の内容は知ってたし、想定内だよ」

「でも泣きそうじゃん」

 それは放っておいて。

「以上で令和四年度新入生スピーチコンテストを終わります。一同、礼」

 池原先生の挨拶で、波乱のスピーチコンテストは幕を閉じた。


 教室に戻ると、飛鳥がこちらを睨みつけてきた。

「ねえ、あれは一体何? ネコの話を見た時は、あなたの原稿を渡されたのかと思って焦ったのだけれど」

「あはは、ごめんごめん。つい要素を入れたくなっちゃって」

 頬を掻きながら軽く謝罪する優香。

 飛鳥はため息を吐くと、原稿を指差して言った。

「で、この内容は嘘じゃないのよね?」

 それに対し、優香はこくりと頷く。

「一億円と裏技の話? もちろん事実だよ」

「じゃあどうしてあなたはそんな事を知っていたの? 世間には隠されているのでしょう?」

 怖い顔をして詰め寄る飛鳥。

 優香は飛鳥の耳元に顔を近づけ、周りに聞こえないように囁く。

「それはね、元々は私もSSランクだったからだよ」

 すると、飛鳥は何度もぱちくりと瞬きをして、しばらく優香を見つめる。

 そして、呆れた様子で口を開いた。

「宮ヶ瀬さん、冗談は程々にしておきなさい。そんな分かりきった嘘、私は騙されないわよ」

「そっか、さすがにバレバレか」

 結構勇気のいるカミングアウトだったんだけどなぁ。まあいっか。

「では、帰りのホームルームを、始めます……。来週からは、正式な担任が、このクラスに、やって来ます……。これが、綾北による、最後の、ホームルームです……」

「え〜!」

 綾北あやきた先生の言葉に、生徒から惜しむ声が上がる。元々そう説明されていただろうに。

 ただ、綾北先生の雰囲気は嫌いじゃなかったので、またいつか代打として教壇に立つ日を期待したい。

 そして放課後。優香が教室を出ようとしたところ、綾北先生に呼び止められた。

「優香さん、ちょっとだけ、こっちに来てもらっても、いいですか……?」

「はい、構いませんけど」

 私、何かやっちゃいました?

 綾北先生は教室から全員が出て行くのを確認し、口を開く。

「来週からは、気を付けてくださいね……。綾北から言えるのは、それだけです……」

「どういう意味ですか?」

「優香さんなら、説明しなくても、分かると思います……。さようなら……」

 訊き返す隙も無かった。綾北先生は踵を返し、廊下へと歩き出す。

 今のは一体何だったんだ。来週から気を付けろ? 考えを巡らせること十数秒。

 なるほど、分かった。確かに説明は不要だった。帰りのホームルームで綾北先生は答えを言っていたではないか。

 納得した優香は、スクールバッグを手に教室を後にする。

 昇降口で靴を履き替えていると、突然後ろから声を掛けられた。

「宮ヶ瀬優香、生きていたのですね?」

 クラスメイトではないが、どこかで聞いた声。

 振り向くと、そこには白杖を持った生徒の姿があった。一組の宇奈月麗華だ。

「麗華こそ、元気だった?」

「ええ、目が見えない以外は健康そのものです。それにしても、SSランクから転落したあなたとこんな場所で再会するとは。不思議な偶然もあるものですね」

「そうだね。まさか最年少ハンドラーがこの学校を選ぶとは思わなかったよ」

 優香と麗華の間には過去に深い因縁がある。表向き穏やかに接していても、お互い内心は火花をバチバチと散らしている。

「わたくしがハンドラーだったのは、もう昔の話です。すっかり嘘も下手になりました」

「そうかな? 私には衰えてるどころか腕が上がったように思えるけど?」

「あら? 褒めてくださるのですか?」

「そういうところ、ハンドラー時代のまんまだね」

 嫌味っぽく言って微笑みを浮かべる優香。

 目が見えない麗華は、声のトーンで優香の感情を読み取る。

「あなたこそ、相変わらず意地悪な方ですね。そんなあなたに一つ質問があります」

「何でもどうぞ?」

「宮ヶ瀬優香。あなたは黒部飛鳥に、一体何をどこまで吹き込んだのですか?」

「それを聞いてどうするの?」

「黒部飛鳥はわたくしの恩人です。これ以上無駄な情報を流されては困ります」

 これで確信した。飛鳥が小五の時に助けた友達は麗華で間違いない。

「飛鳥はSランクに上がりたいと思ってる。それを手助けするのは悪い?」

「いいえ、悪いとは言っていません。ただ、やり方に問題があると言っているのです」

「私のどこに問題があると?」

「それはご自身でお考えになってください。とにかく、黒部飛鳥のことはわたくしがサポートします。宮ヶ瀬優香は邪魔をせず、良き友人として高校生活を共に送ってください。では、ごきげんよう」

 軽く頭を下げ、麗華が去っていく。

 優香はその背中をじっと見つめながら、ぽつりと呟いた。

「飛鳥を降格させた犯人、見ーつけた」

 友達を助けたい思いと負けず嫌いの性格が合わさり、優香の心に一気に火がついた。

 元SSランク対天才ハンドラー。この戦い、絶対に勝ってやる。

「あら、宮ヶ瀬さん? あなたまだ帰ってなかったの?」

 その時、外から飛鳥が戻ってきた。

「飛鳥、どうしたの? もしかして忘れ物?」

「いえ、ちょっと人を探してて」

「それならあっちに行ったよ」

「ありがとう。って、誰のことだか分かっているの?」

 ツッコむ飛鳥に、優香は得意げに答える。

「友達だもん、分かるよ〜。一組の宇奈月さんでしょ?」

「ええ、まあ、そうだけど。本当に分かっていたのね」

 少し驚いた様子の飛鳥。

「だって飛鳥、スピーチコンテストで宇奈月さんが出て来た時、明らかに変だったもん」

「そ、そうだったかしら? じゃあ、私は彼女を追いかけるから。さよなら」

「うん、また来週!」

 手をひらひらと振り、飛鳥を見送る。

 麗華に余計なことされなきゃいいけど。

 多少の不安を感じながら、優香は家路についた。

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