荒川結愛の絶望と意志
「はろー!結愛ちゃん!」
「ふんっ」
神代の陽気な挨拶を素っ気なく返す。
今すぐにでもこのクソ面に拳をぶつけてやりたいが手足が縛られててまともに動けない。
「うーん、少しきつく縛りすぎたかな?」
そう言って神代はニタニタと笑いながら近寄ってくる。
「近寄らないでください気持ち悪いです」
「あははは!君のママも最初はそう言ってたよ。"近寄らないで!気持ち悪い!"ってね!」
「最低ですね」
お母さんは無理矢理犯されたんだろうか。
それなら本当にコイツは許せない。
…でも、あの時の言葉はいったい……。
『傷つけないでよ?高校生になったら水商売させるつもりなんだから』
幻聴だったのかな…。
私が困惑気味に考えていると、表情に出ていたのか神代が私が考えていることについて話してきた。
「あ、もしかしてママのこと気にしてる?安心しなよ?君のママ、恵美は完全に僕の味方だ。だろ〜?」
「ええ」
ドアから返事をしながら入ってきたのはお母さんだった。
神代の話を聞くに半年ほど前からお母さんに接触しており、一度犯したら毎日のように連絡を入れるようになった。
「人妻の性欲は凄まじいなあ。前はさすがの僕でも疲れるほどだった」
「もう、やめてよ」
お母さんは頬を染めながら満更でもない顔をして言う。
そんな、お母さんが……。
「結愛、あなたはもういらないの」
「っ!なんでそんなこと言うの!?目を覚ましてよお母さっ……」
「ごちゃごちゃうるさいわね!!」
「っ!」
お母さんは私の言葉を遮って荒々しい言葉で私を制止する。
これまで聞いたこのないお母さんの声に言葉が声が詰まる。
「私はね、これまで我慢してきたの。あなたや蒼太のためにと着たい服も着れない、行きたいところにも行けない。私だって遊びたいわよ!最初はあなたたちのためだと我慢した。裕也と出会ってからなんだか吹っ切れたの。私も我慢するのは疲れた。これからは好きなように生きるわ」
「…」
「最低な親だと思うでしょ?自分が産んだんだろって、でも私はそういう女よ。これ以上あまりイライラさせないで」
「恵美、あまり怒るんじゃない。綺麗な顔がだいなしだ」
「ご、ごめんなさい」
「とりあえずランチにでも行こうか。結愛ちゃんはそこで大人しくしててくれ〜」
そう言って神代とお母さんは出ていった。
静かになった部屋に一人。
だが、不思議と涙はでない。
空気が抜けたように無表情で地面を見つめているだけだった。
絶望、今の感情を表すとしたらこれが最適だった。
裏切られたという絶望がひたすら感情を支配する。
「兄さん……」
最近になって兄さんが浮気された上に振られたと知った。
神代がお母さんと行為をしながら兄さんと電話をさせたり、私を使って嘘をついたり、見るに耐えないものだった。
兄さんは今の私より辛いはず。
兄さんのためにも私は兄さんの味方であり続ける。
最後に残った家族は私だけなのだから。
「兄さん、私はいつまでも兄さんの味方です」
聞こえるはずもないのに、微かに見える青空を見ながら呟いた。
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