→【順風満帆。お腹もパンパン。】→よみにおかえり。
→よみにおかえり。
人は死んだらどこに行くんだろう。
なんてことは、とかく思春期などには考えがちである。あとは相当切羽詰まったとき。こちらは緊急性が高いかもしれないが、今は無関係。
「人って死んだらどこにいくんだろうなぁ」
俺の中で、大祐がいうならまだわかる。あれは中二はやるのも読むのも見るのも大好きなのだ。何気に一番サブカルチャー等々に詳しいのは大祐だという事実。兼護もわかる。なんというか、そこまで詳しくなるほど付き合いはないとはいえ、漂う空気が不思議ちゃん感あるから。本人に行ったら間違いなくやる気ない声でそんなことないけど、と言われてしまうだろうが。
今は男性陣だけの駄弁り場だから芽衣はいないが、芽衣が言い出すのも、まぁ、わからなくはない感じ。なんか色々あれだけど、今でも付き合いがあるらしい芽衣をいじめようとて俺に鼻血ぶーにされたくるみちゃんとなんかよくわからない占いの話とかスピリチュアルな話とかしてるっぽいし。まぁそこは意外でも何でもいいから洗脳とか教祖的なもんになったりしなければ別にどうでもいいのだけど。
だが葵君が言い出すのはちょっと意外だった。
なんというか、彼はそういうのは興味ないというか、自己完結してそうな雰囲気がある。
外見からの偏見、といえばそうかもしれないが、中身のほうもすっぱりすっきりさっぱりしていることろがあるし。情に関しては熱いといえばいいが、悪く言えば粘着質なところあるかもしれないけども。
「悩みでもあるのか?」
「いや、なんか、あれよ……親戚がよぉ、ちょっとよぉ」
元気のない声で語られるそれはいいにくそうで。
なるほど。つまり、近くの人が死にそうになってるからか。それなら、ちょっとはわかる気がする。ネットでもなんでも、見ればいくらでも死に関する情報は落ちているし、拾うことができる。
だが、実感するには、近くなければどうしたって薄いのだから。
そんなことない! という人は、そんなことあるようにしなければ狂ってしまうと思うから近寄りたくないな。ニュース見て毎日自分の近しい人が死ぬレベルで悲しみ、精神がやられているというのならそれはそれで異常があるだろう。聖人でももうちょっといろいろ見逃さなければ生きてけまいよ。人間というベースが変わらないのなら、限界はあるのだから。
「死ぬ、死ぬかぁ」
それはともかく、うぅん、触れにくい。
と、俺とか大祐が感じている空気の中、長い友達付き合いのの特権かそれともただの性格か、兼護がいつものようにやる気が感じられない声で呟く。
「消えるとか、いるとか、ないとか、そういうのはおいておいても……ゴールであるとは思ってるよ、いいとか、悪いとかも置いといて」
ゴール。
終わり、ということだろうか。そら死んだら終わりだろうが。
「生きていることは、走ってることだと思うんだ。ゴールするってことは、それ以上走らないことだと思う。走っている人に、混ざらないことだとも。もう一回、同じところは走れないってことだとも思うってるかなぁ、僕は」
わかりやすいようでわかりにくい。
少しわかる。普段、こいつは幽霊系にびびらない、というかちょっと嫌悪感持っているようなところがある節が見られた。
それはつまり、その考えによるところなのだろう。
死者は、もう終わってる存在なのだから、こちらに関わるべきじゃないものであると。あれだな、多分漫画とかゲームとかでいうところの死者蘇生とか『はぁ?』っていって嫌悪丸出しになりそう。
ある意味では、切り捨てているような考え方ともいえる。
「死ぬ、な。最近、身内がなくなったが……」
「うぇ!? そら、タイミング悪かった、すまん」
「いいや、気にしてないさ。物別れのようなことを起こしたからというわけではないが、思いのほか衝撃という衝撃は俺の中でなかった」
俺は知っている。
大祐の母親と妹がなくなったらしいのだ。他の奴はまだそこまでの付き合いじゃないからか見せていないが――むしろ、少し笑っていたからな。
少し、背筋が凍る思いをした。
『あぁ、どこかでそうなると思っていたよ』と。
開放感すら覚えていたような。そら、衝撃という衝撃はなかったろう。悲しみ等という意味では。
それだけ、恨みが強かったのだろうか。
家族というもの。
それだけで、快くつながったままではいられないのだということくらい、俺も知っていはいるけれど。
大祐とは友人となり、ゲームとはいえ、一度、温かいほうも知ってしまったが故に、『それで良かったのだろうか』と不条理なことを思ってしまう自分もいて少し複雑になった。
「そういう意味では、俺は近くなければ、関わらなければどうでもいいと思ってしまう人間だったということだな。死というものは、近く訪れれば悲しいし、そうだな、寂しいとも思う。そうでなければどうでもいい」
『むしろ、鬱陶しければ死んでくれたほうがいい』という副音声が聞こえたのは俺の気のせいということにしたい。
「あぁ、そらわかるかな、俺も」
葵君が同意を示しているが、多分ちょっとずれているぞ。
「死んだあとってのが、あるのかとちょっと思っただけなんだがな。近くでそうなったやつがいねぇから、柄にもなく落ち込んでるのかもしんねぇ」
死を身近に感じる機会、といものはあまりない。
現実の俺は、それを小学生の時には知ってしまっていたけれど。
いつ知れば偉い、という話でもないと思う。
悲しいから偉いなら、戦争中は偉人だらけだ。
「そういうの、話しぶりからして兼護とは全く合わないんだろうけど、死んでも合えて話せたらいいよなって思うときはあるよ。そうすれば、ほら、遺産問題で骨肉の争う意をすることも減るかもしれない」
「死んでるのに逆に生臭くなってるな」
まぁ、それが本物と思えるかどうか、という問題が発生してくるんだろうが。
兼護は思った通りというか、うぇえという気持ち悪そうな顔をしている。
「そんなん、終わりがないんじゃんかー。嫌だな、僕は。終わった後も引きずり出すのも、出されるのも。いつまでもずるずる引きずられたら、どこまで小さくなればいいんだい?」
「幽霊を消しゴムかなんかと思ってねぇか?」
解放されない、という意味ではそうかもしれない。
というか、兼護とは本当に致命的に価値観があってないのだな、と再認識する。
蘇りも幽霊も、全部が駄目なのだ。俺はもう完全にビンゴ決まっちゃってるだろう。ゲームとはいえやり直して生き死にもフルセットだぞ。誰にも言うつもりはないけど、言ったら絶縁どころか殺しにかかってきそうなほど嫌悪されそう。
「兼護は消しゴムみてぇにいうけど、そうなってくれたほうがいいよなって俺はちょっと思わ。死んだら終わりってのも、そらわかっけど……やっぱ、いなくなられるのはきついわ」
葵君は情が深めだ。
その矛先が、生きた後にも適用されてしまうのだろう。
若いから、経験がないから、ということもあるかもしれない。いずれは、折り合いをつけねばそれこそ生きていないことなのだろうけど。
もし、冗談めかして言ったとおりに死人と話せるなら。
救われる? 救われない?
幽霊とは、終わりがあるのか不明だ。終わるなら、それは。
不必要に、二度目の別れを味合わせることになる。
それに――死んでいるものが望んだものが生きているものとぶつかったとき、生きているものを優先できるものばかりだろうか。
そうじゃないと思う。
誰しもが、兼護のようにはなれないように、そうできるものも多くいるのだろうけれど。
死者に縛られるものだって、いつまでたっても消えはしない。
だから、できなくていいのかもしれない。
いたずらに、そちら側を増やすだけにもなりかねないという意味では。
結局現実を物理的に動かすのは、生者であるのだから。
そんな思春期男子四名の、とりとめのない生き死にについてみたいな話。
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