→【中学生になった。】→新旧友人と遊びに出かけた。


→新旧友人と遊びに出かけた。




 なんだかんだ、否定から入らなければ仲良くなりやすいタイプだったらしい葵君は、俺ともぐいぐい仲良くなっていき、そして一緒にいるからと紹介してみた少なくとも初対面で容姿はどうでもいい要素でしかないらしい大祐とも仲良くなった――

 が、なんだか芽衣とは気が合わないようだった。まぁ誰もかれも仲良くなれるわけじゃあないのだ、俺も一応紹介してみただけだから、それに不満を言うつもりもなかった。


 いったん竿を引き上げると、餌だけ食われているようだった。

 俺は無表情にごそごそまた針に餌をぶっさしつつ、やっぱ気が合わなかった? と聞いてみる。別に仲良くならなかったこと自体に不満はない。が、ただ理由は聞いてみたかったからだ。単なる好奇心として。大祐の『それはそうだろうな!』的な顔が気になったのもある。


 どうにも、青春のあれこれで男女差がぱっぱらぱっぱー、というのが――ないわけではないようだったが、それ以外の理由が大きかったように思ったので。


「だってよぉ……」


 聞けば言葉を濁す。濁してうーんと悩む。

 なんというか、葵君は個人的身内に判定した人間にはかなり気を遣ってしまうらしい。多分だが、芽衣に気を使っているのではなく、言葉を濁しているのは芽衣が『俺や大祐と友達』だからだ。葵君自体は芽衣のことを好まないが、俺たちとは友達なので――つまり、友達の友達を目の前で悪くいうような真似をしたくない、ということなのだろう。


「わかるぞ。邪悪だからな!」


 逆にそんなん知るか、とばかりに口にするのは大祐だ。いや、お前はその邪悪と友達やっとるんと違うんか、とは言いたくなるが、これで芽衣とはそうそう喧嘩とかもしていないのだ。罵倒のドッチボールじみたことしてるのは知ってるけど。


 ――まぁ、俺の知らない『何か』の件であったし、あるのだろう、程度には思っているが。


 しかし、大祐は大祐で、じゃあこちらに対して情がないのか、といえばそうではない。

 今言ったのはそういうのとは別に葵君への気遣いでもあるわけだし。言っても気にしないよ、という。本当にそう思っているのはまた別の話として。


「ええっと、邪悪は、ほら、いいすぎじゃねぇの? ……えぇ? 仲いいんじゃねぇのかよ……」

「仲は悪くないぞ? なぁ」

「ここで俺に話しかけるのやめてくれる? 困るじゃん」

「はは! せめて啓は否定してやれよ!」

「楽しそうに邪悪な笑顔やめろぉ! 初心で若干俺にも警戒していた頃の大祐を返して!」

「そんなものはなかった」

「お前らは普通に仲いいのはわかんだが、えぇ? どう思えばいいんだ俺ぁ」


 大祐はどうやら、仲良くなると逆に口が軽くなるというか、軽くするというか、言葉にするときに嘘を混ぜたくない? みたいなタイプっぽい。最初のほうは鬱憤たまっていたのもあったり色々あって誰にでも警戒していて口も悪い風、だったように見えたのだが、解決して、体もよくなって、そうなればその容姿とか容姿とか容姿とか能力とかで、人が寄り付くようになり。


 大祐は、表面上明るく対応してスルーすることを覚えたのだ。無遠慮に踏み込んできたやつには攻撃するのは変わらないが――治ったことで、処世術を覚えたという所だろうか。


 敵なら攻撃だから、口の悪さのジャンルが違う……そう、この場合は、仲がいいから、正直に心の内を話している、というべきか? 『自分はこう思っています』を隠そうとしていない、隠さないと表明しているというか。全くすべてがそうではないが、そうなって来たのは徐々にだし、実際まだまだ若いから粗も多いしトラブルも起こりがちではあるけども。


 なお、実際体が完治してから顔で近寄ってくる人たちに対しては内心クソほど見下しているのを俺には隠しもしない。『手のひら返しが上手だよなぁ』と含み笑いで言われたことがある。今迄から考えるとまぁ、さすがになんともいえず。俺もうまいぞ、と返すので精いっぱいだった。


 わかることは、俺がその仲のいい範疇に含まれてしまっているあたり、大祐に葵君も人を見る目はないな、ということだろうか。自分でいうことではないし、やり直していることに気づいたり、メタ視点でゲームとか気付きようがないから仕方ない話ではあるが。


「まぁ――ツラはいいよ、な? ……これ、大丈夫か? いってなんだが文句というか、やべぇ発言になってねぇ……? その、なんつーか、啓とか大祐にとってはいい、やつ? 楽しそう? つーか……おぉ、なんていやいいのかマジでわかんねぇ」

「大丈夫大丈夫、無理して褒めなくていいよ」

「啓は優しく声をかける。その顔は優しかった」

「やめろ、モノローグみたいなの入れて俺もそこしか褒めるとこないと思ってる、みたいな誤認させようとするのやめろ」


 ぽちゃん、と新しく餌をつけて糸を落とす。

 しかし、親戚殿はなかなかに強面を乗り越えればいいやつ判定でるのは早めだと思う。割と大祐もなれるの早かった。家族は親戚ブーストとかあるからなぁ、と思っていたが。


 なんというか、見た目と口調は明らかにやからのそれっぽいのに。

 偏見だが、違法なバイク改造とかやりつつ無免許で徒党組んで爆走しつつバリバリ喫煙飲酒もやってます! といっても『ああ、うん』といわれそうなくらい悪い雰囲気あるのが逆にむごいというか。次の日ケガしてたら『どこで喧嘩してきた?』と一方的に言われちゃうそう。実際、無関係の怪我でも言われたことあるらしいと聞いたとき素直にかわいそうと思うくらい。本人は笑い話として話していたのだけど、笑えなくてごめんな。


 本人はこうして付き合い浅くても――いや浅いからなおさらかもしれないが、それにしても中学生にしてはやんちゃでバリバリマウントとってきたりもせず、気を使ってくるし、趣味の一つは釣りだしでそういうことからはほど遠い。性格を容姿にするなら、もうちょっと優しげな顔になってないとおかしい。やんちゃというか、直情的な部分とか脳みそ筋肉的な部分はあるのでガタイは良くても間違ってないとする。


 あまり釣りには付き合ってくれる類の友達はいなかったのか、『釣りが趣味なんだけどよぉ、一緒にいかねぇ?』みたいに聞くとき俺も大祐もいいよというとことのほか喜ぶくらいには純真でもあるのだ。だから、運動能力のわりに見た目ひょっぽくというかスレンダーみたいに見える大祐と、見た目は良くも悪くも一般的な俺と一緒に歩ているのを見て一瞬『絡まれているのでは?』みたいな顔向けるのやめてあげてください。気付いて一瞬傷ついている彼もいるんですよ! と思う。


 なお、元クラスメイトの諸君らは『あ、都築と三宮――森崎はいないけど、誰かと一緒にいる……大丈夫かな。相手』と一瞬相手を心配するような目で見てくるぞ。見てきたぞ。やめるんだぞ。それはそれで心外だからな。葵君も戸惑ってたからな。


「しかし、いってくれりゃ、道具くらい貸したんだが。わざわざ買ってこなくてもよぉ」

「んー? これからもやるなら自分のがあったほうがいいだろう?」

「……そうか。そりゃ、そうだなぁ」


 付き合いでやってくれるのは嬉しいけど、無理はしてほしくない。との葵君の言葉に『え? 友達やっててまた一緒に遊ぶなら自分のがあったほうがいいじゃん』と、言われていることに気付いている癖にこういう時は気付いていないふりでそう返す大祐。実に青春してますね。いいと思います。

 葵君の嬉しそうなこと。地元の友達も釣りに付き合ってあげてくれよ。ちょっと海が遠いらしいからしんどいのかな?


 そう思っていたが、遠いと面倒だってのもあるが、どうにも仲がいい幼馴染たちがインドア派らしい。それ以外のコミュニティもゲーセンとか、体動かす系だとこれまたそれはそれで目ずらいしいと思っちゃったが、最近の流行はボルダリング! らしく、つまりはまっているものがあるわけで。あんまり体動かさないイメージの強さもあってか、釣りはちょっと、となってしまっているようなのだった。


「ボルダリングか、知ってるがやったことはないな」

「このあたりには山はあっても施設的なもんはないしなぁ」

「お? 実際やってみりゃおもしろいかもしんねぇよ? そっちもいくか? いきつけあるし、やんなら色々教えっけど」

「それもいいな。釣りで船で沖に行くのもよさそうだが」

「満喫してますねぇ海を」

「いけなかったからな、俺は」


 大祐は、今迄は潮風が痛かったからあまりこれなかったらしいからか、海というだけではしゃいでいる。

 まぁ、事情は知らなくとも大祐は楽しそう、楽しめている大祐とか俺とか見て葵君はほっとしてそう、でウィンウィンだろう。

 俺は俺で、まぁ悪くはないとは思っているし。

 上手い下手はともかくとして。


「お、また引いてんぞ」

「ははは! 今日は魚三昧だな!」


 大祐、本日八匹目である魚を釣り上げる。

 それを横目に、俺は何もあたりがない竿を上げると、またもくもくと針に餌をつけた。


 葵君はなんか申し訳なさそうに見なくても大丈夫だよ。十分これはこれで楽しんでるから。

 強がりじゃなくて。

 本当に。

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