┏不正なデータ┓
【転校生の事を少し思い出した】→仲良くなるのを諦めよう!
→仲良くなるのを諦めよう!
芽依はいい方向に進んでいるようだし、わざわざ厄ネタっぽいのに率先して関わる必要などない。
考えてみればそのほうが面倒ごとは少ない。
関わらずに過ごそうと決めた後は、ぼちぼち他のクラスメイトと同じような距離感で過ごしていた。
時折、こちらを気にする様子を見せていたが、わざわざ話しかけたりもしない。おおよそ、他の人間から俺の噂でも聞いたのだろう。だからといって、他のクラスの人間のように陰で噂したり、近くで罵倒したりといったこともしない。代わりに助けもしないわけだけど。
そうしていると、何故だか恨みの目で見られるようになってしまった。
どうしてだろうか。
俺は何もしていないのに、俺のせいみたいな目で見られても困るというものだ。
俺は、本当に何もしていない。
ただ、ほどほどに付き合いやすくなった芽依とか、運動ごとの時はまぁまぁ遊べると理解したクラスメイト達とかとか戯れて過ごしていただけだ。むしろ、俺がやらかした影響とかで、クラスはまともなほうだというのに。それを俺のおかげだ感謝しろ、とまでは言いたくないが、逆に恨まれるような覚えもない。
それとも、芽依を助けた、という方向で話を聞いたか。
そっちは助けたのに、どうしてこっちは助けないんだ、という事だったりするのだろうか?
それこそ、逆恨みだ。
またにそういう事を言い出す奴がいるが、なんと馬鹿な発想だと思う。
じゃあお前は世界中の貧困のために全財産放り投げて、世界中の移植待ちの人に一かけらも余さず提供しろよ。なんでしてないんだ? って話だろ。極論というが、言っていることは違わない。自己満足とか、欲望の為とか、そういう感情とか自分勝手な欲に根差した発言という事を理解していればまだわかるが、正義! 正義! 正しいから! しないのが間違いだから! みたいな奴ほどたちが悪いと思う。知らねぇよ死ねって話。
これが巻き込まれている当人だと、そうじゃなくて勝手にではあるが期待しちゃって裏切られた、みたいな感覚になるのはわからなくはないんだけど――やっぱり逆恨みなのだ、それは。だって、俺と三宮君は友達じゃない。クラスメイトではあるが、それにしたってその中でも下から数えたほうが早いくらいに関りがない。
正義マン! ――というと皮肉が効きすぎていて嫌な感じだ誰かに感謝されるのが好き、とはっきりわかるならそれはそれでいいと思うが――なら、リスクもなんもかんも、近くにいる友達とか知り合いとかにも迷惑かかるとか考えずに助けもするんだろうけど。俺はそうじゃないし。友達増やそうとしていたのも、芽依が面倒くさくなりかけていたからで、俺がぼっちじゃちょっと、と思っていたからだ。
だから、リスクがあったら避けるというのもおかしくないし、それで何もやってないのに恨まれるのも困る。
むしろ、明らかに馬鹿にされている時とか、暴力を伴いそうなときはさりげなくだが人をよんだり、クラスメイトにもそうするように誘導して回避策をある程度うってやってるというのに。
自分から俺に何かアクションしてくる事もないのに、俺からこれ以上を求めて、されないからと恨まれるのはさすがに理不尽すぎるだろう。
最近はだから、酷く冷めてしまった。
もう、話しかけられても友達になる事さえないだろうと思う。
そんなことを思ってしばらく。
三宮君は行方不明になった。
最近、嫌な噂が立っている。
ぶくぶくと風船のように、不自然太ったとうか膨れ上がった表面がどろどろに溶けたような人型の何かが遠くから歩いてくるのが見える、という話だ。
「風船ってのは、どういうことなんだろうな」
「……こわいねー。どうにか、なったらいいのにね」
口裂けのアレとかと同じ、怪談話とか都市伝説がまた生えたパターンだろう。そう思っていたのだが、それにしては、目撃談が多すぎる。目立とうとした、というだけにしては、話が合いすぎている。
ただ、何かしてくるとかではないらしい。ただ、気付いたらいなくなっていることから、この世のものではないみたいな扱いになっている。
噂が流れてしばらく、学校からもついに警戒を呼び掛ける話が親にもされ始めた。
不審者、という扱いになってはいるが、本当なら不審者どころの話ではないだろう。
行方不明になって、消えたままの三宮君。
それから発生した噂。
関係ないと思いたいが、どうしても関連付けて考えてしまう。
膨れ上がった、はわからないが、包帯の下は火傷が化膿したような状態になっているという話を聞いたこともある。
だからなおさらなのかもしれない。
何もしない、というのがよくわからなかった。
見える位置に来て、ただ観察するようにいて――いや、違う?
誰かを、探してでもいるのだろうか。
「……いや違う違う」
「どうしたの?」
「なんでもない」
「……顔色悪いんだよ?」
「気持ち悪い話ばっかりだからだよ、最近」
背中が冷たくなる。
それは、それは。
傲慢であってほしい。俺の、自分が必要以上に重要な存在だと思い込んでいるという傲慢で。
まさか、逆恨みのまま、俺を探しているだなんてことは。そんなことだけは、あってほしくない。
だって、どうしていいのかわからない。本当に、本当にそうなら理不尽すぎる話だろう?
そこまで強く話しかけようとか、仲良くしようとかしなかったけど、結果的に仲良くならなかったから、助けてくれなかったから恨んでます。なんかよくわからない存在になっても。
いやおかしいだろ。そんなもの。
『ぉ……ぁ……』
考えを振り払うように、首を振る。
そんな時、遠くから声。
湿ったような、濁ったような。苦しいような、ただ空気が通ってそういう音になっているだけのような。
「んなっ……」
思わず言葉にならない声が漏れる。
「あ……? そんな馬鹿な」
芽依が、普段使わないような言葉で驚愕している。
『ぉ……ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!』
遠くに、肉隗。
大きく大きく膨れ上がった、肉隗。
それは話に聞いたように、どろどろと表面が溶けているのがわかる。
近づいてくる。
それが、聞いた話とは違って、まるで逃がさないというように必死に見える有様で、転がるように近づいてくる!
「に、にげっ!」
「ああもうっ! ここまでため込んで無事だなんてっ」
逃げよう、そうしたが、どうしてか芽依が動いてくれない。
――いっそ、置いていくべきか。
という考えがよぎらなかったといえば嘘になる。
が、それも無駄だ。強く手を掴まれていたから。
「ごめんね啓くん。しくじっちゃったんだよ。欲張りすぎたかも……欲張り過ぎた分で、多分できると思うから、それで許してほしいな。上手くいくはずだから、ちゃんとできればもっと楽にいろいろできるはずだから! 上手くいったら褒めてね!」
肉隗が近づく。近づいて、破裂するのだという事を示すように光を放ち始める。
芽依がぐるりと壊れた人形じみた動きでこちらに首を向ける。そして意味の分からないことを一方的にいう。
手が痛い。
怖い。
放せ。
それらは口から出ていくことはなく、その隙も無く。
肉隗からか、芽依からか、それとも別どこかからか。
俺は意識もろとも、光に包まれて――
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