藪先ルート→別選択肢

→【マジならどうにもできなくない?】→触れるべきではない、かな。


→触れるべきではない、かな。




 まぁいいだろう。

 あまりつっこまれたくないことだってそりゃあるだろうし。


 しかし、そこでふいに脳裏をよぎる映像があった。

 それは、一つの社。


 見たことはないはずだ。


 なのに、どうしてか鮮明で、どこにあるのかもなんとなくわかる。効果があることも。

 どこかで聞いた? そんなことがありうるだろうか……

 それとも、これはオカルトの一部、ということだろうか。

 誘われている? それとも……


「どうした?」

「……いや、うん。思い出したというか、ちょっと微妙なんだけど、ちょっと聞いてくれる?」






 なんやかんや話しながら山に向かい、その分かれ道にたどり着く。

 片方は、道に見えない。見えないが、確かにそこが通路だといる。いったこともないのに覚えているとは奇妙な感覚だ。しかし、ふと昨日の夕食を思い返すような感覚で脳内から湧いてくるのだからどうしようもない。


「こっちだ」

「本当に道が……?」


 大祐はいぶかしげな顔をしているが、説得する言葉を俺は持っていなかった。正直、俺も疑心暗鬼のまま来ているからだ。ただ、上にあるらしい社よりはなら安定しそうだという確信がなぜかあるから一応いってみない? というレベルでしかない。


「おお……確かに、道といえば道……」


 なんとなく、進むと獣道というか、道に見えなくもない。

 大祐もそれに気づいて少し納得し始めている。もちろん、俺が急に思い出して不信がっているという情報も共有しているから警戒自体は解いたりはしない。警戒したからなんだ、という話ではあるけれども。所詮は子供二人だし。


 先にずんずん進んでいくと、少し開けた場所。

 そこに、社は存在していた。

 ぼろぼろの社だ。


「本当にあったな」

「どっちかとかはわからないけど、やんわり伝えてくれた、みたいなのは確かだし……お願いしてみたら?」

「そう、だな……やたら呪いが薄いというか、力をあまり感じないのが不安だが、やって駄目なら当初の予定通りにすればいい話だからな……」


 そういって、大祐がボロボロの社に近づいていく。

 ……? なんかちりちりする?

 それは、もしかしたら嫌な予感というやつで。


「まっ――」


 いったんやめよう、そう話しかけるつもりだった。

 しかし、ぱっ、と、大祐が光ったかと思えば、感嘆の声が上がる。


「おお! 凄い! 本当に治っていってる!」


 もう、遅いようだった。

 見てくれ! と包帯を外していく大祐。それを片目に、何か変なことが起きたんじゃないか、と警戒というか首をすくめているも――何も起こった様子はない?


「すごいな! こんな何の対価も無しに――!?」


 大祐も、俺も、町の方角を見た。声が聞こえたからだ。切り裂かれるような高い声。低い声。様々な声が。

 悲鳴? それもある。色々な感情が乗った声は、だが共通していいものではない、良い予感は感じさせてくれないもの。


「お゛……ご……」


 なんだなんだと戸惑っていると、近くから声が聞こえた。濁ったような、湿ったような、そんな軽やかではない声。


「ひっ……」


 後ろを向けば、そこには肉の塊。

 ただれた肉の塊だ。膨れ上がり続けているのがわかる、肉の。


「め……い……?」


 それは、知っている格好をしていた。

 膨れ上がり爛れすぎていて、髪はばらばら抜け落ちているようで、眼球が飛び出しかけ口内も潰れかけ飛び出しでかけで面影はない。でも、それは確かに芽依であったのだ。


 パンパンにはれ上がって血管が皮膚の下を這う線虫のように見える。赤いマニュキュアではないことが、爪がまくれあがっていることからはっきりわかってしまう。

 その手が、指が、こちらに救いを求めるように伸ばされていた。


「そ……うだ、社……」


 何が起こっているのかはわからない。わからないが、放置しておくには痛ましすぎる光景だった。

 そして社の事を思い出して、振り返る。


「崩れそうに……!?」


 なぜか、社はその力を使い果たしたのだというように、ぼろぼろと崩れ始めていた。

 走って、すがる。


 色々あった。

 色々あったし、悩まされもした。

 なんか、本能的に混乱しているのか『助けなくても問題ない』みたいな事を奥の方から言われているような気がするが、そんなことはないはずなのだ。


 だって、俺は下心があろうが後悔したくないからだろうが、生きていて欲しくて助けたのだ。

 それだけは本当だ。


「助けてくれ、助けてくれよ! 傷だってなんだって、治せるんだろ! 求めれば答えるようなやつだろうがお前は!」


 口からでるものは考えて喋っていないものだから、俺自身何を言っているのかもわかっていない。ただ、助けてほしかった。

 それに答えてくれたのかどうか。

 最後に、本当に最後だったのだろう、大祐の時より随分と弱弱しくはあるが光を放って――不自然に、どしゃ、と一気に砂のようになってしまった。


 もう、何もできない。


 そう、物分かりが悪い俺たちに示すように。


「ぁっは。助けてくれた。やっぱり、啓くんの近くにいるのが正しいんだ、そうなんだよ……」


 芽依は、治っていた。

 完全に、ではない。ところどころ膨れ上がったものを萎ませた影響なのか、ひび割れのようなものが見える。完全ではないのは、多分足りなかったからなのだろう。


「大丈夫、なのか?」


 大祐がそう話しかけたのを、芽依が無気力さを感じる瞳で見た。

 びく、と大祐が跳ねる。


「お前がいうなよ」


 その声に、特別感情は込められているようには思わなかった。ただ、だからこそ冷たい。温度というものを感じない。

 そして、それはまるで大祐のせいだと言っているように聞こえる。


「俺の、せいだと?」

「そうだよ。お前が考え無しに願ったせいだ。よかったね? 全部よくなって。今後病気もしないよ」


 願ったせいだと。


「いや、案内したのは、俺だし……」


 全部大祐のせい、にするのは、さすがに無理な話だった。

 むしろ、案内した俺が戦犯といえばそういうことになる気もする。


「見えるんだから、感じるんだから、それは三宮君が考えるべきだったんだよ。毒キノコかもしれないものを食べれるかも、とオススメされたから食べました、は確かに違うかもしれないのに勧めたことは悪くないとはいわないけど。

毒のセンサーとか、そのキノコの生態とか少しは知っているのに無警戒に食べたらどうなるか考えてない方がよっぽど、ってことなんだよ?」

「お、俺はただ」

「話も中途半端にしか知らない。知った気になって、その恨みでさえ影響が出ていることも考えない。色々お願いしたでしょ? しすぎなんだよ

。過去大それたもの見たく呼ばれたものだからって、死にかけで、そのくせそれ自体をどうでもいいと思っている奴なんかに」

「どう、すればよかったっていうんだ! 俺は、俺はただっ!」

「別にどうでもいいよ」


 切り捨てる。

 お前のことなど心底どうでもいいと。

 くるり、と芽依がこちらに振り返る。


「終わりだよ、啓くん。この枝は腐っちゃった。もうだめだと思うよ」

「腐った……? 枝?」

「破裂しそうに見えたでしょ? 実際、保っていたのは私だけなんだよ。もう、他の呪いを受けていた人たちは次々破裂して肉の塊になっちゃった。呪いが、弁が外れた影響で一気に流れ込んだせいで捻じ曲がってしまった。

その影響は、もう、生贄だけでは終わらないんだよ」


 あのままなら、芽依は破裂して――肉の塊? になったという事だろうか。死ぬ、ではなく、なった、という所に、なんだか不穏なものを感じた。


「破裂して肉の塊になっても、死なないよ?

だてに、昔神様だなんていわれてないんだよ。流れた力が強すぎて、死なない、じゃなくて死ねなくなっちゃってるんだよ。そして、自分だけでも抑えきれない。

あれは感染する」

「感、染」

「ふふ、まるでゾンビ映画だ!」


 俺に、楽しそうに微笑む。


「逃げられないよ。終わりだよ。

だって、血は広がってる。どれだけ昔と思ってる? いっぱいいっぱいルートができちゃってるんだよ。

それから、私たちは逃げられない。逃げきれない。

私はここまで戻してもらったし、三宮君もお願い聞いてもらったから大丈夫だろうけどね?」


 無感情からの、場違いな笑顔。


「ね、啓くん。

みたらどうかな?

もう、ここにいたって駄目だっていうの、わかるでしょ?」


 頭の何かを、脱ぐような動作を芽依はした。

 それ、は。

 それはまるで。


 俺がここにどうやっているかということを知ってますというような。


 背筋に氷を流されたような気持がして、たまらず従うように――






 目を開けたはずなのに、水の中にいるように濁る。

 口に何か突っ込まれている?

 耳に何か、刺さっている。


「ごばぁっ」


 起き上がると、ざば、と液体がこぼれた。口から、装置めいたものと同時に奇妙な色の液体が流れ落ちる。ごふごふとただ咳をするのがやけに苦しい。

 そしてなんだか動かしにくい手をやって、刺さっているものを引き抜いた。


「ほぞ……」


 喋ろうとして、つっかえる。

 苦しい。とても、苦しかった。

 手が細い。そう言おうとしただけなのに。どうして、こんなに苦しくならなければいけないのか。


『警報。報告。××地区よりNO×××××が覚醒。早急に対処せよ。繰り返す――』


 うるさく音が鳴り響く。

 そういえば、ここはどこだろう、と立ち上がろうとして――足も、うまく動かない事に気が付く。

 液体に浸かったままの下半身は、というか俺自体何も身に着けてない裸で、見るところ全てが――枯れ木のようにやせ細っていた。

 周りを見ると――同じような、液体に満たされた何かに同じように枯れ木のようにやせ細った人らしきものが入れられていて――


「……!」


 その中の一つが、ふいにぼつん、と液体の中で何かずるずるとした肉の塊のようなものになったのが見えた。

 なんだ、何が起こっている。

 わからない。


『――』


 混乱したまま頭を整理できないでいると、SF映画でしか見たことないような人型の、しかし中に人は入れないだろうというようなスリムさのロボめいたものと、それのサポートだろうか、四角い逆間接の足の生えたこれまたロボみたいなものが次々中に入ってきた。

 どうしようもなく、それを観察していると、肉を四角い型のものが取り囲んで回収しているらしい。


『大丈夫です。何も問題ありません。安心してお休みください』


 俺の方は、人型のほうがやってきて、ゆっくりと、しかし有無を言わせず装置を手際よく取り付けていく。

 それに、何を言う事もできず。

 俺は、また、液体に沈まされていった。






『特定地点到達に寄り、自動バックアップ地点に自動ロードします。

引き続きMyLifeをお楽しみください!』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る