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→【お兄さんは最後まで踏んだり蹴ったり。】→苛立ち――もあるが、憐憫を覚える。

→苛立ち――もあるが、憐憫を覚える。

　一連の物語はこれでおしまいだ。それがわかる。

　後はだらだら、早回しするように歪んだ呪いが行使される光景が流れていくだけ。

　結局のところ、何を見せたかったのだろう。

　これを見せて、どう思ってほしかったんだろうか。

　それとも、目的なんかなかった？

　ともかく――俺は、巻き込まれたことや理不尽への苛立ちはあるものの、なんというか可哀そうだなぁ、などと思ってしまった。

　兄神が。

　同調しているような状態だからなのかもしれない。俺は兄神、大祐は弟神、芽依は幼馴染神として見立てられているという状況らしいからかも。実際はどうとかしらない。なんか、俺が兄神の位置にいるのってなんとなく一番才能が低いからとか聞いたらムカつく理由な気がしないでもないし。

　それにしたって、もうちょっとなんとかなってもいいんじゃないか、と思ったのだ。

　環境に恵まれていないだとかは言い訳とか。

　やったことのしっぺ返しだ、とか。

　いいようはあるだろう。

　あるんだろうけど、実際の現実とは上手くやったもん勝ちなわけで。環境に恵まれている奴が勝ちやすいし、しっぺ返しを受けない奴のほうが多いんじゃない？　みたいなのばっかり見るでしょって話よ。

　何が悪かったのだろう。

　悪くないとは思わない。

　兄神は確かに馬鹿な行動をしていた。捻くれてもいた。でも、そこまで救われないほど、そうされてはいけないほど、捻じ曲げられなければいけないほどに愚かだっただろうか？

　案外、弟神や幼馴染神がいなければ上手くいっていた気がする。

　いや、どちらもとばっちりといえばそうだが、それは兄神にとってもそうだといえる。

　合わなかったのだ。間も悪かった。

　互いが互いに、もし互いじゃなければ。回避できたことは多かったんじゃないだろうか。こいつらはかみ合っていない。

　そして、弟神や幼馴染神はかみ合わなくてもそれなりに上手くやっていけるのに、兄神だけがそうじゃなかった。

　そして、呪いというか、神によるものというか、必要ではない、必要とされない才能だけはあったという。

　なんか、最初からバッドエンドしか用意されていないような不憫さがあるなぁ、と。

　迷惑をこうむっていることは現在進行形で変わらないし、こいつらがいなけりゃってのも変わらないんだけど、まぁ。

　もう、いいんじゃないか、と。

　無理やり思わせることもできただろうに、俺は自然に誰かに感情を向けることができている。

　いや、ある程度はなんかされているのだろうなとは思う。感情を強くしやすく、とか。そういうの。

　でも、無理やり誰からにこう思え、とはされていない。

　それはきっと、兄神はそうじゃないものを求めてきたからじゃないか。

　ここまできて、まだ学んでないのか、と思わなくもない。ないけど、それを俺は強く否定できないでいる。

　納得したいのだ。

　納得できない事ばかりだったから。

　諦めきれなくて、もういいと放り出すことさえさせてくれなかった。

　どちらもしていい。

　そう委ねられている気がした。

　こうして欲しいという思いはあるし、本当は無理やりさすら感じさせることなく実行させることができるが、何が起こるかまでは責任を取るつもりはないけど、それでも自由にしていいと。

　むしろ、そうすべきであると。

　怒るでもいい。同情でもいい。馬鹿にするでもいい。ただただ文句を言うでもいい。

　選んだのなら、協力でもしてやろう。とさえ。

　現在、兄神のかわりでここにいるからだろうか。

　自分がそうして納得できなかったからだろうか。

　そう思うと、怒ることが無駄なことに思えたのだ。

　あと、怒っても碌なことはないんじゃ、とふと感じたのもある。

　目を開けると、目の前に社があった。

　社だけがあった。

　山にいたはずが、明らかに平地である。

　山はどうなったのだろう。

　ぐるりと見回す。

　ぽつんと、目の前に社が一つ。

　少し遠くに、あと一つ。

　大祐に、芽依が倒れている。

　芽依が、山に見える。思える。これは、圧縮された山なのだと。つまりそれは、見せられたことでいえば幼馴染神であるということでもある。切り離されたのだろうか？

　大祐の方は、むしろ繋がりがないように見える。

　どちらにせよ、やることは変わらない。

　俺は目の前の社に足を進めた。

　壊すためにだ。普通はできない。ただの人間に、これを壊すことはできない。

　目を覚ましたが、未だ強く俺と繋がっている今の俺だからできるのだ。そうでない限りは、同じような存在かそれ以上の化け物か何かしか無理だろう。

「や、めろっ……」

　声に振り向く。

　べちゃり、と潰れたように地に這いつくばる芽依が、必死の形相でこちらに手を伸ばしていた。

「死、ぬぞ。死ぬ、この、お前の、女が、死ぬぞ！」

　そういえば、そうかもしれない、と思う。

　人殺しになるのだろうか？　と思う。

　でも、何でかあまり罪悪感が湧いてくれない。

　俺が兄神に同調しているからだろうか？

　芽依が幼馴染神に同調……というかもうほぼほぼ乗っ取られているような状態になっているから、だろうか？

　なんども苦しめられた錯覚を受けるからだろうか。

　不思議だ。

「いいのかっ！　いいのかそれでっ。そうして目の前の、繋がりある同種を見殺しにしてっ生きてっ、いいのか、それで！」

　奇妙な感情を抱えつつ、足を進めればまた声がかかる。なんとも、なんとも響かない言葉だと思う。これが、家族からとかから言われたらもうちょっと何か思う事もあるだろうに。

　これが、芽依自身というのなら、思う事はあるがこれもまた躊躇ったろう。

　でも、手遅れなのだ。

　兄神の社を壊すと決めてから、更に繋がりが深くなっている今だからわかる。

　目の前のそれは、純粋な幼馴染神ですらないということが。複雑に――おかしな話だが芽依達（・）と絡み合っているようなのがわかるのだ。もう芽依ですらない。そして、それは部分部分で溶けあってもいて、二つに戻すことができないことがわかるのだ。二つにしたところで、もう、元の形には戻らないことが。

「ある、からっ！　方法っ、あるからっ！　一緒に、考えよ！？　ねぇ！」

　だから、殺していい、ということにはならない。

　それはそうだ。そんな権利はきっと誰にもないだろう。

　だが、邪魔だった。

　直接そうするわけじゃない、結果だから、ということも手伝う。

　直接やれ、と言われればさすがに躊躇する。

「芽依だよ！　聞けよ！　どうしてそうなんだっお前らはっ」

　俺は利己的な人間である。

　俺は自らが傷つくようなことは嫌いだ。

　だから、俺は知っている人間ならためらうだろう。

　発狂するように強い感情を抱えているならまだしも、知っている人間をどうこうするってのは、ためらう。そのくらいの感情は知っている。

「どうして、ねぇ！　どうして、こんな」

　でも、今わめいているそれは初対面だ。詭弁かもしれないが、もう俺にとってそれは別のものでしかなかった。

　誰に咎められることもない状況で、俺の心も痛まないのなら、ためらう必要はない。

　これでそれが消滅成りすることと、芽依がもういないことは別の悲しみなのだ。少なくとも、俺の中では。

「こうかい、するぞ。後悔するぞ！　お前は、絶対に、耳を貸さなかった事、後悔するんだ！　私はいったのに、いってるのに！」

　社の中に光が浮いている。

　その光に手を伸ばすと、触れられることがわかる。そっと、力を籠める。

　パン、とはじけた。

　同時に、力が抜ける。

『もう諦めよ、貴様は消える』

「私はお前とは違うんだっ、私は、生きるんだよっ！　そのための、その、ためにぃぃぃっ」

　そんな声をかき消すように、波紋が広がるようにはじけた力が澱んだものを押し流していくのがわかった。

　土の感触。どうやら、また倒れたらしい――

　目が覚めると病院にいた。

　あの後、どうやら気絶してしまったらしい。誰が連絡したのだろうか。

　一緒に倒れていた大祐も、同じく病院にいるらしいことがわかった。芽依はどうなったのだろう、とは思ったが聞かなかった。話がなかった、ということは、いなかった、ということなのだろうから。

　一応検査という事で一週間程度入院することになっている、らしい。

　そして、もう特別な力など残っていないが、呪いが消えたということがわかる。

　これは、同調したからとうよりも、一度濃いものを経験したからかもしれない。なんというか、空気が綺麗みたいな感覚。そうしてみれば、見る人みる人の顔もいつもより健康そうで明るそうに見えた。

　終わったのだ。

　少なくとも、俺にできることは終わった。

　もう、無理やり関わる必要はない。関わりたくもない。

　こうして目が覚めて数日たった今も、芽依の事等、思う事はあるが――

「おはよう」

「時間的にはこんにちは、とかじゃない？」

　そんな風に今日も悶々としていれば、家族がお見舞いに来てくれた。

　今日は、妹も一緒である。

　タイミング悪く、対象を崩していたらしく目が覚めて会っていなかったのだ。

　母が、『ほら、おにいちゃんだよー』と抱き上げて顔を見せてくれる。

「おはよう」

「はよー。ぶじで、よかったんだよー」

　妹が、知っているような顔で笑った。

『特定地点到達に寄り、自動バックアップ地点に自動ロードします。

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