→【お兄さんは最後まで踏んだり蹴ったり。】→幼馴染神に苛立った。
→幼馴染神に苛立った。
一連の物語はこれでおしまいだ。それがわかる。
後はだらだら、早回しするように歪んだ呪いが行使される光景が流れていくだけ。
結局のところ、何を見せたかったのだろう。
これを見せて、どう思ってほしかったんだろうか。
それとも、目的なんかなかった?
ともかく――俺は、呪いを拡散した幼馴染神に苛立った。
なにせ、こいつがいなければ当人たちだけで終わっていた話だからだ。
――それはそれで自分たちが産まれなくなるのでは? というのはまた別問題。
そうと決まればやることをやろうと思う。
この状況なら干渉はできる。
特に芽依は幼馴染神を利用していたっぽい事を言っていたから、通せばなんとでもなるだろう。弱っているし。
なにより、兄神がなんというか、疲れている、みたいな空気出していると思うのだ。
なんか、肯定しろ! 見てから俺を肯定しろ!
というより、見て、どう? どう思う? どうしたい?
もう疲れてるから選んでいいよ、みたいな。勘違いかもしれないが、実際妨害がない。
するりするりと、やりたいことをやれている感じがするのだ。
それは多分、自分がやられたように方向性を見立ててやってるからだ。
俺が兄神の位置。
大祐が弟神の位置。
そして芽依が幼馴染神の位置。
といった具合に。
俺が大祐にそんな嫉妬を向けたり、芽依にぞっこんになったり綺麗だと思ってはいないのだが、芽依にパスをつなげられたり利用されたりといったところで似ている判定されたのだろうか。がばがばな判定基準だとは思う。
しかし、逆にそんなガバガバでも丁度いい、みたいなノリで巻き込んだのだと思うと、それだけこの状況が実は不満なのだろうという事が察せられる。
この怒りも、もしかしたら。
溶けて山となり、同一化判定することで避けていたものを、俺たちという見立てを挟むことで個別に戻す。
兄神から幼馴染神を通して拡散されていたという流れを、芽依という存在で堰き止める。
とはいえ、俺自身は芽依を殺したいとかいうほどに怒ったり恨んだりしているわけではない。
「(おうぇ!?)」
適当なところで救助できれば――と思っていると、そうした時点で力が土石流の如く流れ出してしまった。
「(助けて! 啓くん助けて!)」
声が響く。
響くが、遠くなっていく。
溺れて流されていくように。
奥に。
奥に。
「(たす)」
さすがに、心が冷たくなる。
やってしまった、という感覚。
冷静になれば、どうしてこんなことを、と今更ながらに思う。そうだ、こいつらは思考を誘導できる。神を自称し、他称もさせていたのだ。そのくらいは容易なんだ。特に、今は懐にいるようなものなのだから。
流されてしまった。
俺も、兄神に同調させられた時点で感情に影響があったのだと、今はわかる。
もう、実行してしまった後ではまるで手遅れだけど。
大きな音がする。
崩れていく音が。
体の悪い部分は切除される。
人も、神を自称するほどの存在も、同じという事なのだろうか。
う、と呻く。
体が痛い――体?
土の感触。
「こ、れは――」
起きて、目を開いて。
体を起こして見回せば――山自体が消滅している。
社さえない。大祐が倒れているのがわかる。
――芽依は、いない。
ただ、目の前に誰かがいる。少し離れた場所にもう一人も。
目の前の存在は顔が視認できないほど整っており、遠くの存在は薄汚れているように見える。
『まぁ――これはこれで良いだろう』
ぽつりとつぶやかれた言葉には、疲れが見えた。
『己はここから去る。あれも連れていくから安心するがいい。ようやったな、呪いは消えた――張本人から言われても、どうかと人の子は思うだろうが』
返事ができない。
大祐も目が覚めているようだが、喋ることができないようだった。
それは、圧力。
そこにいるだけで、負荷がかかってしまうほどの差がある。
俺が子供の体をしているからとかいう訳じゃない。それだけ、生き物としての差がある。こうしてはっきり自分の体で感じると、神と呼ばれる理由もわかる。
これが出来損ないというのなら、ちゃんとしたやつはどれだけやばかったというのだ。
何か介入できるとか干渉できるとか考えて確信していたが、思い上がりに過ぎなかった。
人間という個人が、これを単独でどうこうできるわけもない。お膳立てされていたにすぎない――とすれば、芽依はいったいなんだったのだ、という話になるが、考えない方がいいとどうしてか本能が警鐘を鳴らしている。
『奇妙な人の子よ。
まだ続ける意思があるのか?』
それは。
それはなんというか、まるで俺がゲームとしてやっていることを言っているように聞こえる。
メタ発言してくると萎える、というタイプであったはずなのだが、この状況と物語を見ている時からもう操作している側が意識できていないのもあって、ただ冷や汗をかく。
『――いや。詮無いこと、か。
どちらにせよ、次合おうとも覚えておらぬだろう。
おぬしも、あの化生に落ちた人の子も、哀れよな。
皆、哀れだ』
哀れ、には自分や弟のことまでも含んでいるように思う。
というか、化生。化け物? 芽依の事だろうとはわかるが、化け物扱いされるくらいのことをしでかしていたらしい。化け物、神と呼ばれたものにそう呼ばれるほどの存在だったのだ、と聞いてそれで、やったことに対しての重さがちょっと和らいでしまうあたり、自分自身のゲスさが理解できて悲しくなる。思いのほか開き直れないのは、超常存在を前にしているからか。それとも。
『この己が解放されただけで、よしとするしかあるまい。
安心せよ。己は利用した分の対価くらい支払おう――弟よ』
すっと、兄神の影から出てくるように唐突に薄汚れたほうが現れた。結構離れた位置にいたと思うが、いつの間にか出てくるくらいの行動は大したことでもないのだろう。
薄汚れたほう――弟神が、すっと手を伸ばす。
『特性を利用して別の枝から復元しただけではあるが――人の子は気にすることはない』
枝がなんだかわからないが、芽依が現れた衝撃でどうでもよくなる。
汚れ一つない形で現れた芽依に、良かった、という気持ちと、おいおい大丈夫かよ、という気持ちが同時に湧いてくる。
後、なんか激昂というかめちゃくちゃ感情大爆発の芽依を見てきたせいか、大人しいと別人のようだ。
『この人の子からからは落ちた要素と記憶は取り除いてあるから安心するがいい。
これより後、面倒に巻き込まれることもあるまい。ここにある人の子らよ、ここにいる間だけでも、精々幸せに生きるがいい』
意味深なことを言われているのはわかるが、質問もできない。
弟神がすっと俺と大祐に指を向けて、光を放った。
それはするりと体に飲み込まれるようにしみ込んでいく。
多分、これは加護とかそういうやつだとわかる。
色々と、生きやすくしてくれたという事だろう。対価として、相応しいのか重いのか軽いのかはわからない。そもそも受け取り拒否もできないわけで。
『それではな』
そういった言葉を最後に、ふっと体が自由になる。重圧が消えた。
いつの間にか、二柱は消えている。
演出の一つもなく、ただいなくなってしまった。
ただ山が消えて、広い土地が不自然に残る場所に、俺と、大祐と、芽依だけが転がっていた。
「終わった、のか?」
大祐の声が聞こえた。
「終わったんだろうよ」
それに、ため息を吐くように俺は返した。
とにかく、呪いは消えたのだ、そこだけ見れば、ハッピーエンドといっていいのではないだろうか。
結果的に、ではあるが、芽依も死んでない事になったわけだし。
芽依は起きてから、前のような明るい傾向は消えて引っ込み思案のようになったが、行き過ぎの依存気質にもならなかった。
良き友人関係のまま、俺たちは成長していくこととなる。
加護、というやつは凄いもので、明らかに才能というか、できる素質みたいなものが盛られているのが分かった。
色々なことが、少ない努力でできるようになったのだ。
大祐あたりは、それに申し訳なさみたいなものを覚えているようだが、俺は楽でいいと思う。
開き直ったもの勝ちなのだ、こういうものは。
高校生になって、大学に入り、やはり記憶からは抜けてくれないからか、その土地の歴史とか風土とかを調べたりすることが三人とも趣味になっていった。大祐に芽依は人気があるが、誰とも付き合う等といったこともなく。俺自身、惚れた腫れたの話はない。なんというか、そういうことに興味が薄くなっている気がする。これも兄神の影響か、というには押し付けすぎだと思うが、なんかそんな考えが拭えない。
ともかく、代わりに全員の興味と趣味は一致しているから、問題があっても楽しい毎日には間違いない。
男女の友情はうんたらかんたら、とはいうが、俺たちの場合ちょっとねじれちゃってるから、結構長く続きそうである。誰か増えても、結局は三人に落ち着く感じだ。
しかし、その趣味からのフィールドワークを通してこの世界には思いのほかファンタジーが多く残留している事を知っていく――のだが、それはまた別の話である。
『特定地点到達に寄り、自動バックアップ地点に自動ロードします。
引き続きMyLifeをお楽しみください!』
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