→【お兄さんは最後まで踏んだり蹴ったり。】→弟神に苛立った。
→弟神に苛立った。
一連の物語はこれでおしまいだ。それがわかる。
後はだらだら、早回しするように歪んだ呪いが行使される光景が流れていくだけ。
結局のところ、何を見せたかったのだろう。
これを見せて、どう思ってほしかったんだろうか。
それとも、目的なんかなかった?
ともかく――俺は、呪い……というか兄神を無駄に維持しようとした弟神に苛立った。
なにせ、こいつがいなければ兄神は終われたし、幼馴染神も残らずに済んだといえる。呪いを受けずに済んだのだ。
――それはそれで自分たちが産まれなくなるのでは? というのはまた別問題。
普通なら、俺のようなただの人間ではどうしようもない。
さすがに、神と呼ばれちゃうような生き物だったものに何か一方的にできると思うほど増長はできなかった。
ただ、このタイミングならそれが可能だ。
何せ、兄神にやる気がない。やる気というやる気がもうないのがわかるのだ。
多分、この物語を見せた目的は、それをはっきりさせるためだったと思うのだ。
だから、何かやろうと思えば力をそのまま流用できる。
俺、大祐、芽依はそれぞれの神に見立ててられているようだからだ。
一番俺が力を使いやすい。
それに、兄神という話ではなく俺自身が芽依とリンクしている状態でもあるのでなおさら干渉はしやすい。
まぁ、やるのは弟の方なのではあるが。
それも、別段不安はなかった。
なんというか、弟神は薄いのだ。ずっとずっとそうなのだ。
これが、弟神がやる気を失っていて、兄神がまだやる気がある――とかなら、干渉は絶望的だった。
兄神への興味は家族への思いと共にある程度持っていたが、それも、もう冷めてしまっているのがわかる。
所詮は、その程度。その程度にしか思えないから、そもそも兄神のほうが優れていると思ったのだから。
だから、俺は万全を期して兄神の力を使いつつお願いすればいい。
「(お前のせいだぞ、なんとかしろよ)」
言葉は悪いが、そんなことを気にするような性格でもない。
本来なら探らなければならない位置も、代替である大祐がいるからそこを通せばいい話だった。
俺の意思が伝わっていくのがわかる。
そして、弟神は枯れはてたようになっていたらしいことがわかった。
これは――そもそも、もう数年か数十年かはわからないが、そのくらいの時間が経過したら勝手に崩壊していたんではないだろうか。それくらい、ボロボロになっている気配。
『いいだろう』
しかし、弟神は、俺の願いに何のためらいもなく応じた。
結局、流されるままだったのだ。
弟神は、変わらないままだったのだろう。
それはある意味、意志が強いのではないか? とは言わないでおいた。
もう今更、それを言ったところでどうなるものでもないと思ったから。
俺はただ、苛立ったからこいつにどうにかさせたかったというだけだから。
失敗した。
笑い声が聞こえる。
失敗してしまった。
「はははははは! やったぞ! こういうのを何というのだったか!」
高々と笑い続けている声が聞こえる。
もう、山はない。俺がいる場所は山ではない。
気付けば、土の上に放り出されていた。
そして、兄神の気配も弟神の気配もない。
その通り、消し去るか何かしたのだろうことがわかる。
確かに、弟神は俺の意思を叶えようとしたのだ。
ただ、芽依の事は見逃していただけで。
「ありがとう人の子。本当に、本当にどうもありがとう」
芽依の形をした――芽依にかけらのようなものを潜伏させていたらしい幼馴染神が、こちらを向いて微笑む。
無造作に手を振れば、大祐がずくずくともともと呪われいたような症状をまた発症して、更に深度を深めるようにずくずく膿んでいっているのがわかる。
「これで弟神の残滓も完全に消えただろう――残りは人の子だけだなぁ?」
幼馴染神がにやにやと笑う。
弟神には、具体的にこいつをどうにかしろと言うべきだったのだ。
それはそうだ。お願いするにしても、自分の考えというものがそもそも薄く、相手の言う通りにしがちな存在なのだからこちらの意思を汲み取ってのフォローだとか、アフターフォローの類もないと考えるべきだった。
そんなことにさえ考えが及ばなかったせいで、こんなにも詰む羽目になってしまった。
せっかく、逃れるチャンスだったのに。
「よいよい。そのように怯えずともよい。確かに私という存在は人の子――啓くんに感謝しているのだから。
あぁ、そうとも。
私は神と呼ばれた存在であるが、芽依と呼ばれる存在でもあり、そうなるのだから」
がし、と頭を掴まれるも、動けもしない。
抵抗できない。
元通りの神のまま、ということもなはずだ。
受ける圧力は、明らかに低いとわかる。
でもそれがなんだというのだろう。
たかが人一人。
蟻が、人間が大人から子供になったところで勝てるわけがないように。
俺もまた、そうだ。
「消しはせん。ただ、覚えられているのは都合が悪いわなぁ?」
大祐はどうやら症状が悪化してしまったらしく、別の土地に入院することになってしまったらしい。
突然の事だったらしく、最後に会う事も出来なかった。その辺、申し訳ないとそんな余裕もないだろうに大祐の家族に謝られることとなった。
あまり負担をかけるつもりもなかったから、落ち着いたら連絡ください、とだけあまり会う事のなかった母親に伝えた。
原因不明の病気が悪化するとは、難儀な話だ。
最近は病状も安定していたと思っていたのだが。
あんなに綺麗な顔が――?
「どうしたの?」
芽依の声が聞こえる。
「なんでもない」
「そっか」
「うん」
大祐がいなくなって落ち込んでいるのを吹っ切る意味もあって、結局芽依と遊ぶのが増えてしまった。
まぁ、でもいいかなぁ、と最近は思っている。
なんだか、特に問題はなかった気がする。
なんで俺はあんなに必死になって離れようなどとしていたのだろう。不思議なものだ。
未来なんてものはわからないのが当然なのだから、よくなるように二人で乗り越え――乗り越え?
未来。
未来?
先ってここだったっけ?
俺は、もっと。
「どうしたの?」
「……俺は」
――。
「なんでも、ない。そうね?」
「なんでも、ない。そう、だな」
「うん、そうだよ。なんでもないんだよ」
「そっか……そうだよな……」
なんでもない。
俺は、ここにいる。
『特定地点到達に寄り、自動バックアップ地点に自動ロードします。
引き続きMyLifeをお楽しみください!』
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