→【ノーマルはSSRと同じ数値になれないよなと思う。】→裏目裏目に恨み恨め。


→裏目裏目に恨み恨め。




 弟は、容姿まで優れた優秀なものとなり。

 兄は、逆に全ての能力が低い事となった。


 幼馴染だけが変わらずあった。


 ここで思うのは、兄神はいったいこれによって、どうなってほしかったのだろうという事だ。

 暴走しているだけだったのだろうか。


 人は――ここは大祐から聞いたのと同じように――弟が入った人間を讃えたようだ。

 できない兄を、表向きはそれでも神だから面と向かって罵倒することはなかったが嘲笑していることはこれも確かだ。


 しかし、こうなることは予測の範疇だと思うのだ。

 だから、単に弟になれば満足する、なんてことはさすがに兄神でも思っていなかったはずで。

 実際、そうなったことに不満がないわけではないようだが、その時点では、ただそれだけではキレてはいない。


 つまり、目的は幼馴染神にあったはずだ。

 弟神が好きだというから、言わずにそうすれば弟神を愛するように己が愛されると思った――


 本当にそうだろうか?


 思った瞬間に、そういう疑問が湧く。


 本当に?

 俺はそうなるとは思っていなかったのだが、もしそうなったとして本当に兄神は満足するのだろうか。

 それは、そうなったとしても誰かのかわり、ということにならないだろうか。


 誰も認められないから、彼は嘘を吐いた。嘘をついて獲得してきたのだ。

 嘘で自らを固めてきて、素のままでいいと言われた気持ちになったから、それを綺麗に思ったのではなかったろうか。

 それが、嘘を手に入れて満足する?

 いや――好きならそれでもいい、というものはもちろんいるのだろうけれど。


 愛情に狂ったから判断を間違えた?

 そんなことがあるだろうか。それしか持ち物がない存在が。






 だが、幼馴染神が入った人間は、俺の予想に反して兄神が入った弟を好きだというようになった。

 そして、そうなった時の兄神の顔を見て――俺は、俺の疑問が間違えてなかった事を知る。


 兄神はきっと、見抜いてほしかったんじゃないだろうか。

 それで自らがみじめになるとしても。弟に持ち掛けた時のように。『そうなる』前提の事だったのではないか。


 自分を好きになってほしいというよりは、確かに綺麗だったものとしての確認をしたかったのではないか。

 それで、諦めというものをつけたかったのではないか。

 不思議に、そう感じた。


 だが、弟の時と同じくして、思い通りにはいかなかった。

 幼馴染神はそもそもそういう存在ではなかったのだ。

 焦ったように


『おい、俺は本当は弟神じゃあないんだ』


 といった兄神に、


『……? それの何が問題があるの?』


 と幼馴染神は返した。

 兄神の耳が、脳が、理解を拒む。


『貴方で間違ってないよ。だって、私より下で、劣っていて、蔑まれているじゃない。だから、貴方で間違ってないわ。

そんな存在を好きという態度を隠さない私は、健気で可哀そうでしょう?

よくできていて、褒めてあげたくなるじゃない?

だから、何も間違ってない』


 それはつまり。

 弟神さえ好きではなかった、ということで。その宣言であり。

 では、あの顔は、見たことのない顔は誰に、といえば――それは、自分自身にほかならず。


 兄神は、いったい何を綺麗だと思い、感じていたのかを思い返してしまった。


 そうして生まれたそれは、なんとも奇妙な表情だ。

 憤怒で歪んでいるようで、号泣しているようでもある。

 嬉しさを殺せなくて、そのこと自体に殺意を抱いてもいるような。

 壊れてしまいかけの表情だと思った。


 そして、弟についても。

 きっと己の立場を知れば、得れば、満足するのではないかと考えたところも少しはあったのかもしれない。

 そんな弟神も、なおさらつまらないような顔をしているだけだった。できることが増えようが賞賛が増えようが勘違いされていようがどうでもいいという面持ちのままで。


 一等興味がないという顔で、離れた幼馴染もどうでもいいという顔で。

 『知らなかったのか』という顔で兄神を見る時だけ、少し憐れみが見えたような気がした。



 全てがうまくいかない。

 兄神の中で、がしゃり、と何かが粉々になったのがわかる。



 兄神がなすことは、満足いかない事ばかりだった。

 兄神という存在は、決して良くはないが、そこまで悪いと断じれるものでもなかったはずなのに。

 いつもいつも、裏目にしか出てくれない。

 それは、神という名前で呼ばれているのに、まるで呪われてでもいるようだ。


 だからだろうか。

 兄神はここで壊れてしまった。


『知りたかった。己じゃなくてもいい、そうじゃなくちゃダメな何かがあるって。綺麗な何かは確かに存在するのだと。

知りたかった。できる人間が満足できない理由を。もっとできれば教えてくれるのではないかと、満足できるのではないかと思った。

知りたかった。努力すれば達成できるのだと。始まりが違えば、存在が違えば、己でももしかしたらと思ったのに。

知りたかった。愛されれば満足される気持ちを。知りたかったのはこれじゃない。

知りたかった。落ち切れば、這い上がれる幅が出るかもしれないと。全てがダメになっただけだった。

知りたかった。そこまでいけば同じような人間と仲間になれるかもしれかったから。同じだ。生きている限り、異物は排斥されるだけだ。

同情でもなんでもいい。己を見てくれるものがあることを知りたかった。

そうじゃなければ、己でなくていい、他が見たくないものでも、他が汚いと呼ぶものでも、他がいらないというものでも、他が疎んじていても。

いっそ、アレでなくとも、人でも良かった。

ただ、本心からそれらを受け入れ、見てくれるものがいるという事を知るだけで満足だったのに』


 もういい。


 その最後の一言で、兄神は終わってしまった。


 ある日、集めた人と弟、幼馴染の前で。

 媒介にしている人と共に、兄神はどろりとこの地に溶けていった。

 どろどろどろどろと、質量以上に広がりながら溶けてしみ込んでいったのだ。


 そんなやり方は知らないはずなのに、兄神はどうすればいいのか本能が教えてくれたように実行できた。


 呪いになったのだ。

 兄神は神であることも人であることもやめて、呪いという存在になった。

 なにせ、神にも人にも受け入れられず、欲しいものは見ることもできなかったのだから、それ以外になるしかなかった。


 才能がなくとも、その存在事利用すれば一等力強いものとなる。


 何が起きているのか理解できず恐怖するままの人々。

 唖然とした弟。

 それでも変わらぬ幼馴染。


 全てを置き去りにして、一人で恨んで一人で失敗して一人で潰れて呪いになったのだ。

 自分勝手といえばそうだけれど、環境が違えば、とは思わずにいられなかった。

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