→【そうは問屋が卸さない、みたいな。】→来るんじゃなかったと思う。
→来るんじゃなかったと思う。
「利用していると自白しているようなものだな。どうしてどいつもこいつもそうなんだ? 啓は勝手で乱暴なところはあるが、こうしてついてきてくれるような優しさはもってる。
それをどうしてただ利用しようとする? 好きな振りして、自分の思うように操作するような悪女ぶりでもしたいのか?」
大祐が顔をしかめながら侮蔑の言葉を投げかける。芽依は一瞬、何を言われているのか理解できないような顔をしていた。
「はぁ!? それの何が悪いっていうんだよ? 利益があったら好きっていっちゃいけないの? そんな馬鹿な話ある? だから子供は嫌なんだ!」
そういう芽依の体が、重なるように大人、子供、老人と変わっていくように見えた。
嫌な気配は強まっていく。
呪いを関知する能力などない俺でも、何かが芽依に集中していっているのがわかる。
いや……芽依から、溢れようとしている? どちらもなのだろうか。
「一番、啓くんのそばが安定するんだよ。ただ生きたいと思って何が悪いの? その中で、助けてくれることもある人を好きになるのがそんなにおかしなこと? 一緒にいなきゃならないなら、好きになったほうがお得でしょう?」
「話が繋がってないぞ。なんなんだお前はっ」
「全部好きで、悪いところなんて一つも見えなーい! なんていうのは盲目でしょうが。啓くんは頭悪い事するし、自分の都合で簡単に切り捨ててでも『それも人間』みたいな考えで正しいって自分を納得させちゃうみたいなゴミみたいな開き直りしたり、精神達観しているみたいな振りするけどガキだったりもするでしょ」
それはそうだ。特別反論はなかった。
だって、必要以上に後悔していた理由に、容姿の事がないとはいえない。さすがにそれを、呪いのせいだけにはできない。
俺は、今の俺は確かにもったいないだとか、上手く行きゃ儲けもんだな、みたいなことを考えたのだから。それが悪いとは思わない。だから、芽依がいっていることもわかるのだ。
自分そうだから、利益を得ようとするのは悪いといえない。
ただ感情が。対象が自分なら知ってしまえば嫌悪はどうしたってしてしまうのが俺という人間でもあるのだ。そういうところが、ガキなのだと言われているのだろう。
そして、それを最近の芽依は良く操作していたといえば確かだ。いきなり変わったように、そうなっていっていた。
都合がいい。都合がいいから、特に気にはしていなかった。
あぁ、その通り。
都合よく進んでいた。
言われれば、わかるくらい不自然に。
「でもそれを表に出してないなら、それは気遣いっていうんだよ! お前だって、啓くんだって、裏じゃ私の事どうこういってんだろうが。それを咎めたか? 私が! 夢を見過ぎなんだよ、たかだか人間同士の関係なんかにっ」
我儘のような事をほどほどにしかいわなくなった。
相手が気遣ってくれるなら、ある程度でもそれを返すのは当たり前だ。関係性があるなら当然そうなっていく。
陰口を言っていた。それもそうだ、ついさっきも大祐と話していたことだってそうといえばそうなのだ。
陰口を言われていると思っている。けれど、俺だって必要以上に咎めようとはしていない。
お似合いといえばお似合いだ。
というよりも、大体の人間はそうして見て見ぬふりをして生きている。大人になっていくにつれて、大人になるという言葉に時間が経過するごとに包まれていくうちに、そういうものを手に入れていく。
妥協というものだ。
どれくらい妥協ができるのか、見て見ぬ振りが上手くできるのかが上手に生きるために必要なことになってるだろう、現実というものは。
だから、綺麗事はキレイなのだ。
「啓くんは、私が可愛いから見捨てないだけなんだよ。そうじゃなければ、もっと簡単に切ってるはずなんだよ?
でもそれが悪いって言ってるんじゃないの。それって、私が私の幸せのために一緒に居たいんだっていうのとどういう違いがあるの? っていうことなんだよ?
それを口に出さず、理解して知ら居ないふりをして幸せに生きることの何が悪いの? どうして悪いなんて自分勝手なことが言えてしまうの? それって、口に出して軋轢さえ生まなければウィンウィンで、どちらも利益を得続けて終わる話なのに」
口は禍の元なら、口に出さなければ禍を止めることができるのだ。そこには確かに種は残り続けるかもしれないが、口を開いて伝えなければ発芽しないものは多いのだろう。
それにはそれだけ、努力というものが必要なのは真実であると思う。
その努力が、わかりあうといえばそういうことになるんじゃないだろうか。
大祐は、苦しそうでありながら喋り倒し続ける芽依に、気圧されるように黙るしかないようだった。
「どうしてお前みたいなのはいつも邪魔ばかりしてくれるんだっ。イラつくなぁ! 本当にっ。私は、手に入れて、知って、うまくやってたのにっ……」
風船のようだと思った。
口を縛って閉じてある風船。
なのに、その風船の中にいつの間にか空気を生み出すものが置かれてしまったら。
風船は膨らむだろう。膨らみ続けるだろう。
ぱちんと弾ける、その瞬間まで。
「あ、ああ……抑えきれないっ。逆流する……!」
光が増す。幻覚が見える。
芽依から光が漏れ出している。もう耐えられないという合図のように。産まれる前の卵のようにひび割れた光が次に次にと漏れていく。光のくせにどろどろとした、どうしたってよくは思えないものが。
オーロラ―のような、しかし感動できるような綺麗なものではい極彩色の光のカーテンが次々に生まれだす。それが、俺に幻覚を見せる。
「な、なんだこれはっ。逃げ、いや、動けないっ。啓っ」
大祐もその光景の衝撃にで硬直が溶けたか、焦ったように俺に話しかけてくる。
だが、どうしようもない。どうしようもないのだ。
俺はここに来てからは観客以下の存在でしかない。怖かった。怖かったのだ。だから、俺は現実の方に逃げたがっているままなのだ。どこか冷静に見れるのは、コントローラーを握っている俺を現実であると強く認識し続けているからだ。そうしなければ、もう俺だって耐えきれないのだ。引っ張る力が強すぎる。
馬鹿げたことだ。
馬鹿げたことだが、ゲームをやってきたことを今、後悔しているんだ。
こんな目に合うなんて、たかがゲームで、って。
あんなに誤魔化して自分勝手にやってきたのに、笑える話かもしれない。
それでも、こんなのないだろって思う。現実逃避を止められない。直視すれば目が潰れてしまいそうだから。
「違う。私は
喋る先から、口から、吐瀉のように光が漏れる。漏れる。漏れる。
抑えようがお構いなしに、飲み込むことも許さないと。捻った蛇口が取れたように、狂ったように止めどなく。
様々な芽依らしき存在と、別の誰かが重なっていく気がした。それは見たことのない誰かであり、呪いは芽依ではなくそれに向いているように何故だか感じた。
「てめぇのせいだ、お前のせいだ、お前の、おばえ゛どぜいだぁぁぁぁぁぁっ!」
一瞬、しん、としてから。
収縮するように真っ暗になったと思えば、爆発した。
そう思えるくらいの光に俺たちは包まれたのだ。
もう、無理だと思った。
手足の間隔が無くなっていく。
俺がどちらにいるのかわからない。必死に手を離そうと、ゴーグルを脱ごうと、ここから逃げようと、立ち上がろうと、色々なことを仕様とどちらの俺もいつかの俺ももがいて、もがいて、もがくが、曖昧。
それは、どちらにもよることができずにここまで中途半端なままきた罰なのだろうか。
そんなの勝手だ。
それこそ勝手だ。
ゲームだというのなら、ゲームらしくあれ、と。
その意識が落ちるまで、俺は自分勝手にそう思い続けていた。
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