→【深度ましていくやん……】→マジならどうにもできなくない?
→マジならどうにもできなくない?
そこまではわかったが……わかりたくはないんだけど。
「あの……こういうとなんだけども、神、に類するものがいるのがマジで、呪いがそのせいで、それが原因だっていうのなら、どうしようもなくない?
え? いや神様って、比喩にしても超常現象みたいな事になるだろ? 人が地震を止められるかっていうと、ほら。殴って解決! みたいな俺でもさすがに分際を弁えてるっていうか?」
「あぁ、そうだな。本当に神様ってやつがいて、それに呪われているんだというのならたかが人一人、どうしようもなかったかもしれない。だが、話の通りというわけでもない。
調べるのは大変だったが――一人のご老人を運よく見つけることができてな、少しだけ知っていることを話してもらう事が出来たんだ。ゴミのような話でもあるが」
誰も話したがらないか、何を聞かれているのかわからない反応ばかり。
その中で、一人の老人だけは、『もう、今更死期が早まったところで』と知っていることを話してくれたらしい。
話しただけで死期早まるの? やばくない? 比喩的な表現だとは思うのだが……というか、忌避している様子で話したがらない、っていうのはあきらかに多少なり知っているっぽいのが怖いんだが。
「弟神の慈悲の加護を利用した、生贄システム」
「なんか物騒な単語でたな」
生贄。
呪い。生贄。優れた。美しい。醜い。
ちょっと、想像がついてくるのが逆にいやである。
「大体想像がついてきただろうが、この地の人間はことごとく自己保身にはたけていたということだろうな――どこでも同じかもしれないがな」
やったことはといえば。
本来は全てが醜く腐り落ち、努力することさえできない無能であることを強制される、みたいなものになる予定だった。全滅させる気満々だったわけだな。それを弟神が緩くして、滅びない、満遍なく負荷をかけることで理性を強く持ちさえすれば、影響の全ては消せないがなるべく影響も少なくはしてくれたそうだ。一日千人殺すなら産屋千五百作っちゃえみたいな感じだろうか。無くなりはしないけど、みたいな。
だが、この地の人間はそれで満足しなかった。
むしろ、不満。
だから、都合よく捻じ曲げたようとしたのだ。
人という生き物も、荒ぶる堕ちた神という超常存在に負けないくらい自分勝手で怖い存在なのだということがよくわかる。
生贄。
それを差し出すことで、分散された呪いの影響をあえて集める事とした。
その地の人間は、必要なものはわかっていた。
兄神という存在は、つまり『持っているもの』と『それを賞賛する』ものが気に入らないのだから、それを潰すというものを儀式的にすることで治めてしまえば、封じる力を強くしてしまえばいい、と。
『うへへ、恨みははらすのお手伝いするんで、集中的にそっちやってもらうってことで。いやいや、呪いを避けようってんじゃないんでうしょ! 我々も仲間差し出して潰さないとなんで! 我々も辛いなー! 辛い役割だわー!』みたいな。
「俺を見ろ。自分でいうのもなんだが、君も言う通り容姿は優れている。身体能力他も、悪くないと思う。こうなっていなければ、だが。
――森崎さんを見ろ。同じく、容姿が優れている。他の事は知らないけれど、恐らくそれ以外の才能も眠っていたはずだ。
学校で、調べたよ。
ほとんどのいじめられているような状況に陥っているものが、少なくとも八割が一定の容姿以上だった。これだけいること自体が異様といえばそうだがけどな。
つまり、加護の方向性を定めることで、定期的に
それが、脈々と受け継がれている。
そう、大祐は言っている。
悍ましい事だ。それは、とても悍ましい。そういうのは、一般的な人間が思うような事じゃないし、ともすれば創作でしか見ない事だと感じていたが――流れる血が汚いもののような、そんな感覚が確かにあった。
「血で受け継がれるというより、地域で、だろうな。
その地で生まれた一定以上のものは、生まれた瞬間影響するんだ。
そしてそれは、その地から逃げたくらいではいつまでも誤魔化されないということなんだろう」
聞いたことが全て真であり、大祐と芽依が同じような生贄のような存在だとして。
おかしなことはまだあるだろう。それは大祐の病気のような症状もそう、芽依はなっていないのだから。そして、生贄といってもそれは昔の儀式であり、いつからあるのだかは知らないが、その時代の人間がそれに必ずしも従うとは限らないということ――いや。
「この町で産まれて、この町にいるってだけで影響するのか……? 違うな、お前の地域では関係ない人間もそうしていたっぽいし、呪われていればある程度効果は出て、この地の人間なら、更に?」
「よくわかったな。そうだよ――きて、調べるまで眉唾だったがな。
明らかにそうだ。俺は少し捻じ曲がっている。それでも、油断すれば影響がでてくるんだ。ただの子供なら、こんなもの避けようがない。
そう、生贄が定められるように、生贄に決定したものを生贄として差し出すものも逃れられないんだ。
そうあるように、生まれた時から呪われているのは変わらない。そして、呪われた本人はある程度、無関係の人間も影響させてしまう」
それは。
この前のクラスメイトに感じた違和感というのは、つまり。
「なら、どうして」
「正気に戻ったようなのか?
時代によって弱くなっているらしい、というのもあるだろう。それが、良いのか悪いのかという事はおいておいても……この地で産まれたこの地の民、という点は重要だが、それでも血が混ざって判定が緩くなっているのではないか? と兄は予想していたな。
その上に、理性と自我の強さ……そんなもの、普通の子供がどう持つっていうんだという話だよ。その前から影響されているのに」
「無理、だな」
「そう。無理だ。普通なら……だから君が異常にも見えた」
びくりとしそうになる。
いや、俺に影響がなかったか、というと……あった、と思う。しかし、完全にそうか? と聞かれると、はいとはいえない。違和感はずっとあった。こいつらはどうして、とは度たび感じていた。でもそれは、子供故の愚かさなのだ、としか考えてはいなかった。考えてるほうがおかしいんだけども。
理性と自我の強さ。
外に出た場合少しは影響が薄くなるとも考えられる。
それからすれば、確かに、俺に影響が強く出ないのは当然だ。
何せゲームだし。
現実の俺は別の場所にいるし。
中の人が小学生じゃないのだから。
大祐の言う通りの話なら、このゲームの中の世界では、知らぬままに産まれた時から自我あるとかいうある意味呪いに大して
「俺は特別製だからな」
おどけてしのぐ。大祐は苦笑する。
「あぁ、本当にな。
あと、俺のコレは多分だけけど……母のせいだろうな」
「あぁ、そういや、つまり逃げたのって」
「俺の事もあったのだろうが、呪いだろう……そもそも、それから逃れるためにここを出たんだ。再発するかもしないのだとわかってしまって、怖くなったんだろうな。だから急いだ」
多分、もう大祐の母の中では終わった話だったのではないだろうか。
そんな気がする。だから、ぼろぼろと情報を落としたし、なりふり構わず、後先考えずに逃げ出した。
「男女比を調べてな。理由は不明だが、生贄は女子のほうが多かったんだ。
――俺は、母が近くにいると正常に戻ることが多かったといったな?
つまり、ある意味母は正解だったんだよ。その時きっと、呪いは母側に引かれていたんだ。正気に戻る感覚は、それだけ呪いが流れていたという事」
先ほども言っていた、それに気づいたから逃げたという話と繋がる。
子供が呪われても、自分には来ないだろうとある程度安心して経過を見ていた。だが、聞くところによると呪いはよって、その分思考が解放されたという事は、つまりそれで自分が解放されているわけじゃない事を知ってしまったんだな。
むしろそのままでは、大祐の代わりになるかもしれないと。
よく、家族が不幸になる、などと言えたものだと思う。
恐らく、そもそも逃げたから、こうしてこの地のとは少し歪な呪いの発動の仕方をしたんだろうに。
「わからなくもないけど、ド反吐だわ」
「怖くなるのもわかるが、俺も当人だから反吐だな」
そこにもここまでの話と混ぜることで、ヒントにできたという。
「だがつまり、母は逃げることができた。
呪いをおいていけたんだ」
そう、大祐の母は逃げることに成功している。
そして、大祐母の実家は全員死亡しているという事をふと思い出して背筋に氷柱が刺さった。
嫌な方法である予感しかしない。
「つまり、すり替えでもしたのかな?」
「恐らくはそうだ――軽蔑、するか?」
それは、その方法も考えているという証拠で。
だから、言いたくないという事も含まれていたのだろうという事で。
ある種、罪の告白めいてもいた。
「すり替えについては呪いを調べ始めた時点でなんとなく思いついて、気付いていたからな。
人じゃなくて、依り代めいたものも一応準備しているし――なにより本命は、散らすことだ。それにしたって押しつけには違いないし、俺の行動が裁定であることも疑いようはないけどな」
つまり。
その依り代とやらに呪いを移せればよし。
本命は、当初の話の弟神がしたような形で自分の呪いを溶け込ませ、分散させてしまうこと。
「呪いが強まって、醜くとけているからこそ、今ならできる気がするんだ。俺は生贄であることと同時にそうする側でもあるという状態にもっていける、と思う。
結局押し付けてしまう事は確かだが、俺は――」
「いや……違うこと考えてない?」
なんとなく。
そう、なんとなく違う気がして。
つい聞けば、大祐の目が挙動不審に動いた。
闇があふれる気がする。深くは突っ込まずスルーすべきだろうか。
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