→【嘘やん。】→深度ましていくやん……


→深度ましていくやん……




 一息ついた後は、文句を言わず続きを聞く。


「実家にはこっそり入った。手は入っておらず、埃だらけだったよ。

色々見たが――特に珍しいものはなかったんだ。

だが、母の部屋と思われる場所に、ノートがあった。

それは、この地に伝わる話を手当たり次第に集めたようなノートだった。執念を感じたよ」


 確かに、この辺には噂だとか都市伝説めいたものだとかいろいろある。俺もいくつか知っている。興味がなく、特に調べてもない俺が知っているレベルであるのだ――いや多くない? この町に伝わる話多くない? 今気付いたけど、それはちょっと多すぎないだろうか。


「色々な話があったよ。今も伝わっているのから、そうでないものまで。

数が多すぎるくらいに。くだらないものも多く話されていた。今もそうだろ?」

「あ、うん」

「でも不思議には思えない。そもそも、その地に住んでいればそれが当たり前だから――何か隠すみたいに大量にあって、その後にそれを疑問に思っても『なんか多かった』程度のものになるだろう」

「隠す……」

「山の話があったんじゃないか? そして、近寄るなといわれている。強めに、許さないように。それでも従わない子供がいてもおかしくないのに、みんながいれば怖くないみたいな、そういう集団ではいこうともしない不思議な場所が」


 山。

 記憶の俺はどうにもあまり知らなかったようだが、単純に近寄るなだとか、獣がいるとか、社の話だとかがあるらしい。俺も子供が興味覚えても不思議じゃないな、悪戯とか考えるやついそうだなとは考えていたが――確かに、やんちゃしそうなやつが手下を引き連れていった、みたいな話は聞いたことがない。

 怒られるのが怖い、というだけでそれはない。大人でもそういう馬鹿がいるのだ。子供なら、なおさら『禁止されているからこそいっちゃう自分』アピールするためにもいくことはなんらおかしな話ではない。秘密基地とか作りがち。

 でも、行ってみたいよな、みたいな話は聞いても、行った、行く、という現実の段階になると聞かなくなるのだ。


 俺が知らないだけではなく、本当に誰もそうしたことがないが、ダメと言われているという話だけ残っている、というのは異常だ。

 厳重に入れないようにされているわけでもないのに。


 改めて、少し考えただけでこんな異常がポンとでてくるの? お腹いっぱいになってきた。

 藪をつついて蛇とかを予想していたら宇宙人でてきたみたいな気分だ。

 え? 本気でオカルトなの?


 このゲームやってますの時点でオカルトなのに、更にオカルト重ねてくるのか。

 いや、どうなんだ? やっぱりゲームだからなのか? 現実であったのか? 混乱する。


 下を向いて黙りこくってしまった俺を心配したか、気付けば大祐が心配そうにこちらを見てきていた。


「大丈夫か? これ以上はやめておくか?」

「あ、あぁ、さえぎって悪い。大丈夫、大丈夫だ」


 落ち着こう。

 とにかく、自分から聞いたんだから全部聞くべきだ。気持ち悪くはあるが聞かない選択はない。

 促すと、心配そうだが続きを話だしてくれる。


「隠していたものは何か。

ノートには、一つの話に丸が書かれていた。

苦労したよ、確かめるために町の人にも聞いてみたが、ほとんどが部分部分でしか聞くことができなかったんだから。

だが、それが逆に疑いを深め、この馬鹿げた発想があっているのではないかという確信を深めてしまったんだ」


 そうして、それらをまとめたが間違っているかもしれない、というような一つの話を大祐は始めた。






 昔、この地は二人の兄弟神が治めていた。

 兄は美しく、頭もよく、力も強い。そして人にも慕われていた。

 かたや弟は、醜く、頭もよくなく、力も大したことがない。神の身故か、人にも表立っては罵倒等されたことはないが、兄と扱いに差があるのは確かなことだった。

 他の神話や御伽噺などでもありがちな話である。


 それでも兄は弟のことを気にしていたらしく、よく話などしている様が見られたらしい。

 ある時兄神が弟神へ言った。


『卑屈になっても仕方あるまい。意志を前に向けることが大事なのだ。やり続ける姿さえ見せることができたなら、人もやがて尊さに気付くであろう』


 と。それが全ての始まりだった。

 いつもは妬み、嫉妬、憎悪していようと兄神のいうことだからと黙って聞いていた弟神は激怒した。


『それはできているものの理屈であろうが! 貴様がそう言えるのは、貴様がうまくいっているからで、そうできるからにすぎぬ! 元から持っているものがどうして持っていないものにそのようなことがいえたものだな!』


 驚いて言葉のない様子の兄神に、続けて言った。


『そも、最初から優れていればそれは上手くやれて当たり前だ。お前は俺がやれてた分まで奪っているのだ! 後に私が持つべき才等全ても強欲に奪っていったのだ貴様は!

何が兄か。最初から持っているものを誇っているようで、できぬ全てを見下しているだけではないか!』


 沈黙のち、兄神は返した。


『……そうか、ならばやってみるがいい。どちらが間違っているのか、我らが治める人に委ねようではないか』


 兄弟神が選んだやり方は、人の双子を使ったやりかたである。

 その年生まれた双子に、それぞれが宿るのだ。


 そして、優れたる兄に弟神が。

 劣った弟に兄神が宿ることとした。


 兄神は人々に告げる。


『我々の分身たる人間を遣わす。これはある試しの為だ。何をしても祝福はこれからもかわらぬから、よろしくするように』






「いや、よろしくするようにて」

「うん、気持ちはわかるが、まぁ、色々聞いた話を合体させているということもあるから……」


 思わずつっこみをいれてしまった。

 ここまで聞いたかぎり人は巻き込まれたという感じなのだが。どうだろう。


 神話等の神々なんて勝手なものだから、おかしなことでもないけれど。この話が続いて、呪いというものに関連していくという事は――これは失敗譚なのだろうか。なんか、話の流れから見れば弟神が結局失敗して、『ほうら言った通りだろう、努力努力ぅ!』とマウントとって終わるみたいな、ありがち説教譚みたいな風でも不思議はないと思った。


 というか、呪いが本当であった場合――神様かそれに類するものがいるってことなるのでは?


 さすがに、それはちょっと……神と思わなければいいという話になるだろうか。

 神話という形に押し込めたが、色々災害云々だった話もあるし、そういう話か? となるとそれはそれでおかしいし、それならどうにかできるって話だしな……とまた考え込んでしまっていた。でもこれはちょっとさすがに。


「何回もごめん」

「俺も初めて聞いてから今も信じ切れてないからな……」






 続きの話は簡単だ。

 人は、神が考えるよりも愚かであったというだけの話に収束する。


 人は兄に兄神が、弟に弟神がいると思い込んでいたのだ。


 そうして、うっぷんが溜まっていたし、その地の民の大事な神である兄神に保証されていたものだから調子に乗ってしまった。


 虐げに虐げたのだ。

 兄神は何もしなかったわけではない。

 言った通り、努力をした。

 その様を、人々は見ていたはずなのだ。だが、何もしていない兄のほうばかりを美しい素晴らしいと讃え、できぬ努力はゴミ同然、醜い貴様はゴミに等しいと執拗に貶めた。


 兄神は激怒した。


 もはや、弟神とのあれこれなど、弟神に諭した言葉など、人と交わした約束など、その頭に存在は欠片もなかった。

 兄神は堕ちた。ただ恨みを放つ存在となったのだ。

 そうして呪いをかけた。


『そのように他者を貶めて居たいのであれば、持っているものこそ引きずりおろすがいい。

そうすることで、己らの浅ましさを知るのだ。そうすることで、いつまでも貴様等自身が醜くあれ。

そして一切腐り落ちろ、これより先、良きものは生まれず。貴様たちは、ただただ醜くなっていくばかりである』


 と。

 弟神は、経験によって『これは調子に乗っても多少仕方ない部分はある』と逆に落ち着きを得ていたものだから驚いた。

 そして、愚かであろうが呪うまではやりすぎだと兄神に反抗した。


 期せずして、立場が逆転してしまったのである。

 しかし、元は強力だった兄神には叶わず。

 少しだけ呪いを弱めることしかできなかった。


 この地の民はいかれる神に恐れおののき、今まで馬鹿にしていたのに慈悲を与えてくれた神を讃えるために、社をつくった。


 そして、その社は今も残っている。

 その山にあるのがそれである。

 つまり、呪いも残っているかもしれない。

 再びいかれる神を呼び出さぬように、心して生きよ――






「みたいな話さ」

「みんな手の平返せるときには返しまくるよね、みたいな話?」

「では、ないと思うが……」

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