→【気になるしイラつくから藪をドーンした。】→嘘やん。


→嘘やん。



 ほら見ろ、と大祐が苦笑する。


「色々と、おかしな事はあったんだ。最初から」


 ぽつぽつと語りだす。

 大祐の体の症状は、ある日突然出始めたらしい。しかし、思い返せば――


「母が、そわそわとしていた――その時まではそわそわする、ですんでいた」


 トラウマを配置してどこかへ消えた大祐の母が、関係あるかどうかわからないがそわそわしていたという。

 そして。


「思い返せばおかしすぎてな――俺だって、呪いだなんてむちゃくちゃなモノ最初から思ってたわけじゃないし、狂っている……わけじゃない、と思う。こればっかりは、自己申告じゃどうしようもない」


 それはそうだろう。

 自分の正気を自分で保証できるやつなどいない。


「とにかく、おかしいんだよ。まず、病院がそうだった。こうなったんだ、病院に連れていくだろ?

そうする医者が見るわけだ、俺を」


 その時はまだ、混乱とショックで何も感じなかったらしいが、医者の反応はおかしなものだったという。

 大祐の症状を調べて、『原因不明です』とはいうものの、それ以上の接触をしようとしない。

 原因不明で無造作にただ投げだすのか? 医者が?

 おかしいだろう。ただ『うつらないとは思います』とだけ添えてだ。


「どんな医者だといいたくなるだろう?

調べたといって、一日もないくらいだぞ?

冷静に考えれば、藪医者どころの話じゃない」


 ただ、そのことに誰も疑問を――いや。


「母だけは、確かに顔色が変わっていたはずなんだ。記憶が正しいなら、だけど。

その時は、まだ信じていたからな。俺がこうなって、原因もわからないからだろうと不思議には思わなかった」


 自嘲するように言うが、責められるような事ではない。

 誰が今まで仲の悪くなかった母親の事を穿ってみるというのだ。父親の方は本当に心配していたらしいから、なおさらだろう。


「あぁ――そう。妹も、最初の最初は、心配していたな、確か。そう、思い出したよ。すっかり忘れていた」


 母親と同じで、気持ち悪がる妹など思い出したくもないだろう。


「それで」


 顔も見たくないみたいな罵倒が始まり。

 気持ち悪いと言われはじめた。


「それだって、おかしい。

いや、誰しもが善人だなんていうつもりはない。それでも、それでもだ。

上っ面だけでも整わせず、なおかつそれを当たり前と全員が全員思うものだろうか?」


 人間は基本的に悪性だと俺は思っている。

 そんな俺でも、全員がそうだとは思わないし、そうじゃなくとも上っ面だけでも整えるやつは、性格が悪いからこそ確かにいると確信する。いなきゃおかしい。そんなことをしていれば周りがどう見るか、というのを気にするのが一般的だ。

 そう考えると――ふと、芽依の事を思い出した。


 記憶の方の、だ。

 誰も手を差し伸べず――それを当然としている様を。

 芽依だけではなく、それは、複数人居たはずなのに。

 記憶の俺は芽依しか知り合いはいなかったけれど、恐らく、誰もかれもが――


「母の俺への嫌悪が加速したのはそれが酷くなってきたあたりだった。

思い返したくはないものを思い返していけば、そこには変な言葉や行動がたくさんあったわけだ。

『そんな馬鹿なことが』『押し付けたはず』『私は悪くない』『私のせいじゃない』『また戻るのは嫌だ』覚えている限り、そんな言葉をいっていた」


 そして、思い返していくうちに、自らへの嫌悪に隠れてわからなかったが、恐怖の色もあったことも発見したと。

 その恐怖は、見た目がとか、そういうことではない。移るとか、原因不明の病であるとか、そういうことでもないように見えたと。

 とにかく、近づきたくなくて、離れたくてたまらないようだったと。

 とにかく離れるべきで、子供は捨てるべきだと父に訴えていたと。を近くに置いていれば、確実に自分たちを不幸にすると。


「これがどういうことか、全く知らないわけじゃなく。

それは、思い当たることがあると言っているようなものだろう」


 それを気付けたのも、皮肉にも母のおかげだったという。


「俺も、そうされるのが当然だという、思考が卑屈化していくというか……負のサイクルに囚われていた。

けれど――母が近くにいると、それが弱まるんだよ。わかるか? 俺はそれを、家族がいるから安心していると勘違いしていたんだ。

そんなわけはなかったのにな。きっと、母もその現象に気付いて、だから、俺事他の家族は見捨てて逃げていったんだ」


 自らに従う、妹だけを連れて。

 そうして、大祐の母はいなくなったわけだが、一度気付くことができたからなのか、ちゃんと精神を保とうとすれば自縄自縛のような負のサイクルから離れられることに気が付いたのだという。

 そう、思えばそれこそ、呪われていたように『自分が悪い』『そうされて当然』と思い込みすぎていた、と。


「それから、いなくなってから、父に聞いたんだ。

そうしたら、父が思い出したんだ」


 大祐の母は――俺も残っていた写真と映像を見せてもらったが――昔から綺麗な人で、しかし父があったころには陰鬱な雰囲気だった気がすると。異常に、敵だらけのようだったと。

 日本に移住してきた大祐の父と出会い、しばらくしてからある日突然明るくなったこと。

 そうしてからはすぐに、この町を出ていきたいといっていたこと。


 聞いたのは、呪いという単語。呪われている、ということ。大祐の父は精神的に疲れているのだろうと思っていたらしい。

 そしてその地の伝説のようなものも冗談交じりで伝えた後、呪いという言葉に反応しないとみたか、ぱっと態度を変え、とにかくいい思い出がないからここにいたくないと。

 そのころには、どうしてか周りも手のひらを返したように敵ではなくなっていたようだったが、それでもここにいてはいけないと言っていた、と。いじめのような目にあっていたのなら、それは当然だと思ったのだと。


「馬鹿げた話だ。馬鹿げた話だけど――そこに、つまりこの町に、鍵があると確信したんだ。

俺自身も、理性は確かに話だけなら信用もできないメンタルがやられたやつが口八丁手八丁で父を騙したのだと思っているのに。

本能的に――この体の状態が、まるでそうだといわんばかりにきしむんだ」


 だから、大祐は確かめにいきたいんだと馬鹿正直にそんな信じられないような話を父にしたんだ、と。

 そして、じゃあ行こうとすぐに行動してくれたのだと。


「親父さん凄いな」

「あぁ、他はともかく、父の子供で、兄の弟で良かったと俺は心から思っている」


 兄も一も二もなくついていくといってくれたらしい。手伝えることがあれば手伝うと。

 例えば仲のいい親子であろうが、兄弟であろうが、一蹴されても仕方のない戯言だと言われかねない事を。


「そうして、俺はここに来た」


 この家は父が持っていた家だという。だからか、特に気になるものはなかったらしい。


「まずこちらの病院にもいってみたわけだが――俺の考えが間違っていないのだという事を補強してくれているようで笑いたくなったよ。ドッキリか何かなのかと思いたくなるくらい露骨だった」


 症状が酷くなったからということもあり、こちらの病院に顔を出してみたという。

 どうせ同じだろうが、塗らないよりましの薬でももらえればと、もしかしたら何かしら知っているかもともわずかながら思っていたらしいが……本当に反応を示したらしい。


「ぱっとみて、驚いた顔をした。すぐに隠していたようだったが、明らかに他の医者と反応が違ったんだ。

問い詰めてみれば『同じようなものを、確かに見たことがあるし知っている』と。『だが、治し方や原因を知っているわけでもないから言わない方がいいと思った』とな。それ以上はなかったが、それでも」


 やはり何かある。

 母はもう言うまでもないがこの町の出身であったから、実家の方を探ってみたらしい。


「実家の方はな、空き家になっていた。随分寂れていたよ。

近くのご老人に何をしているのかと聞かれて、逆に『この家の人はどこに』と聞いたら驚いたよ――『そこの人は全員死んだよ、あぁ一人出ていったが、それ以外は全て』といわれてな。

追加でぼそりと『そいつのせいだろうな』とも。言い終わると、逃げるように去ってしまったが」


 その時から、『呪い』の存在をただ笑う事が全くできなくなったらしい。

 『まだ長くなるお茶を入れなおそう』と立ち上がって部屋を出た。

 体が冷えた気がした。


「……」


 いや……どこぞの安っぽいホラーゲームみたいな……え?

 これは、このゲームとは。

 リアルに近いモノじゃなかったんだろうか。いきなりなんかファンタジーっていうか……この物語はフィクションですみたいな要素がバンバン出て生きてるんですが。ジャンル違いじゃない? いやいらないのだが。そんな要素。


 え? それともこれ、まさか本当に現実にもあったとかいう話?

 俺の地域って、ファンタジーだったと信じろと?

 いやおかしいじゃないか。やっぱり、これはゲームだから……?


 俺は一体、何を聞いているんだろう。

 どうしろというのだ、どう考えろというのだ? こんなの。

 予想外過ぎて、うまく考えはまとまってくれなかった。


 少なくとも三宮大祐という人間は現実にもいたはずだ。何かしら患っていたことも確か。

 だからって、こんなん予想できないだろう……

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