藪をつついた先ルート

→【なんで……?】→気になるしイラつくから藪をドーンした。


→気になるしイラつくから藪をドーンした。




 今日は二人で帰っていた。芽依はいない日だ。

 ぽくぽく歩いていたわけだが、ふいに沈黙の時間が訪れた。よくあることだ。一秒も無駄なく喋ろうとか思っていないわけで。

 そこで、ふとした疑問と苛立ちが湧いてきてしまったのだ。


 見逃してよかったかもしれない。何せ、そうしても実害は今のところないのだから。

 ただ、異様というか、異常だった。それは確かだと思うのだ。

 なんだか不安になってしまったといえばそう。積み重ねというのもある。正直、大祐も芽依も意味深ムーブしていると思うし。


 まさか、ゲームがバグったんじゃないか、とか。

 だって、先日のクラスメイトの異常さはまるでバグったNPCにも似ていた。それか、そうあれかしと決められているイベントにでも動かされてしまったような。

 そういう、自ら以外の意思が見えるような、違和感。


「……なぁ」

「ん?」

「この前ののさ、クラスメイト。やっぱおかしかったよな……?」


 大祐がぴたり立ち止まる。

 俺も自動的に足を止めた。

 そういう所も苛立つようになってきている。何か知ってますといっているようなものだ。何のアピールだというのだ。やっていられないと思う。

 それで、話が少しでも理解できるように進むなら俺の苛立ちは収まってくれるだろう。


「別に、解決したからいいんじゃないか?」

「そうかなぁと思ってたんだけどさぁ、なんか……」


 しかし、まるで流すようだった。

 違和感。

 違和感。

 違和感しかない。

 違和感を持たれたくないなら少しは隠せ、そう目の前の子供に叩きつけたくなるのだ。こっちがどれだけ気を使ってやってると。


 それは大祐についても、芽依についてもそうなのだ。

 ただ、クラスメイトの件のように、触れなくていいと、触れない方がいいと思っていたというだけで。特に芽依はその辺に触れるのが妙に嫌な予感がするから、苛立ちが増してもそうしていた。

 ずっと、違和感のようなものはあったのだ。

 気付かないわけもない。

 俺が気付いていることにだって気付いているだろう。

 だというのに、それだけわかりやすく気付いてくださいと言わんばかりの癖に。余計なことは聞かせてくる癖、話そうとしなかった。馬鹿にしているのかと言いたくもなる。

 何が友達か。


「……」

「……」


 沈黙。

 それは、仲良くなってきてから訪れる者とは別種の。いいや、誤魔化していただけなんだから、それも幻想かもしれない。俺が、一方的に思わされていただけの。

 とても、イライラしてしまうような。あまり、喜ばしいものではない。心地悪さだけ増すような、そんな。


「あのさぁ」

「家で」


 少し、感情的になりそうになった時、それを遮るように大祐が喋った。

 もういいという気持ちになりかけていたから。

 別に、友達をいきなりやめるとかどうとかまで極端になるつもりはなかった。

 そんな風にして意味深なことをしながらも何も話さないのなら、それはそれでいい。けれど、もう今後はそういう付き合い方にしようという決別を込めようと。


「家で、話そう。道端で話すのは、きっとよくない」


 言われて、そうかもしれないとも思う。

 確かに、道端でする話ではない。


「……わかった」


 だから、そう望むならそうしよう。

 それが喧嘩や疎遠のきっかけになるとしても、話してもらおうじゃないか。

 もう聞くと俺は選んだんだから。もう、聞かずに済ませた時間に戻ることはできない。

 ゲームだろうが、時間は進んでいることに間違いないのだ。






 いつもはありがたく頂いていた出されたお茶や茶菓子を今日は食べる気にならない。

 大祐が少し考えている。

 それは、誤魔化そうとかいうよりは、何を話そうかと選んでいるように見えた。


「もう少ししたら」


 そうして、ため息をついて話し出した。

 少し、それは開放さるようにも感じられる。こいつはこればっかりだな。一人だけしたり顔ですっきりしている気がしてきた。聞いて解決したいのは俺の方なのに。

 明らかに、何かを知っている。


「聞いてみたいことはあったんだ」

「正直、イラついてんぞ俺は」

「そうだろうな。見ればわかるさ」

「挑発してんのかそれは? 包帯巻いてりゃ殴られねぇとでも?」


 友達という関係だから。無暗に、傷つくとわかっているところをつつくつもりはなかったんだ。

 なるべくそういうことは言わないようにしてきた。けれど、一度噴出すれば駄目だ。

 先ほどの口調で、思っていた通りに、というかやはり何かしらを知っていて黙っていたのは確定なのだ。それで落ち着いている風なのが、頭に来るのだ。


 何もかも言えとは、今だって思っちゃいない。

 しかし、都合のいい事だけ聞いてほしい、でもこっちが気になるようなそぶりだけしといて、気になってることは放置ですってのはどうなんだ?

 進んでそうしてた俺が馬鹿だって? 都合が良かったってか。

 ともすれば、今こうしてつつかれたから話せている風なのだって。


「三つ」


 指を三本突き付けられて、腰が浮いていたことに気が付いた。

 興奮が過ぎていたようだ。あれこれは話を聞いてからでも遅くはないというのに。まるで頭の中身も子供になってしまったようだ。子供の姿だし、元々精神年齢が高いかといわれれば首をひねるがそれはおいておこう。棚上げは得意だ。


「あ?」

「話そうと思わなかった理由だよ」


 ため息をつかれる。その様子にまた苛立ちが増すが、いちいち反応していてはと、少し落ち着こうと、息を深く吸い吐き出した。

 少し俺もいきなり過剰に苛立ちを出し過ぎだ。情緒不安定か。見たまんま情緒不安定だな。

 思ったより、疑問を封殺していることは俺のストレスとなっていたらしい。緩めたキャップを少し閉めようとするのに倍以上苦労する。


「一つ目は、荒唐無稽だからだ。君は聞いてくれるだろうさ。だが、そう簡単に信じてもらえるような話じゃなかった。だから、聞かずに済ませることができて、共に離れることができたら更によかった」


 荒唐無稽ときたか。

 荒唐無稽といえば、俺がゲームで人生のやり直しみたいなことしているのだってそうだけどな。

 そう思えば、更に少し落ち着いた。黙っていて、話してないのは同じだ。俺は、どういわれても話さないと考えれば俺の方がムカつかれるかもしれないな。

 イーブンになったわけでもないのだけれど、なんとなく。


「落ち着いてくれて助かるよ……二つ目は、範囲から脱しようとしているようで、内側にいるみたいだからだ。何を言っているのかわからないだろうが、今は置いておいてくれ」


 言われた通り、意味は全く分からないが、頷きだけ返す。

 範囲。範囲か……洗脳でも受けてたって? クラスメイトがそんな感じだったよな。それなら俺は拒否したのだから受けてないとみられるのが当然だと思う。


「三つめは――森崎さんの存在だ」

「芽依?」


 ここで予想外の名前がでた。荒唐無稽、範囲、芽依。繋がりが見えない。

 確かに、噂の時は気にしているようだったが……それがどう、話せない理由に繋がるのか、全く予想もできない答えだったからつい返すつもりのなかった声が漏れた。


「これら全ては繋がっている、と俺は考えている。そういう意味では一つともいえるかな」


 気にしないように続けられた言葉に、少しひっかかる。


「ん……? 考えている?」

「あぁ……ここまでいって悪いが、四つ目もあったな。

そもそも、俺だって信じたくないし、完全に信じているってわけじゃない。だからそんな話はできないと考えている部分もあったということだ。さすがに、これは言い訳に過ぎると思ったから含めなかった」


 包帯がよく歪むほど、顔をしかめたのが分かった。


 気に入らない。


 はっきりと、そうわかる感情。

 大祐がいったん、置いてあったお茶を口を湿らせるように飲んだ。俺も、丁度いいと飲み干す。味わいなれてきた高いお茶の味が喉を通り抜ける。少しだけ、気持ちが晴れた気がした。

 それは、葛藤というものがあったとわかったからかもしれない。俺も単純なものである。とはいえ全て抜けたわけでもない。続きが本題になるのだろうし。その、荒唐無稽の本題とやらが。


「呪いだよ」


 そして、少し腫れた心はいきなりまた曇った。

 のろい。呪い? はやーい! おそーい! ではないだろう。

 日常で聞かない単語だ。呪い。カース。


「う、ううん?」


 どういっていいのかわからない声もそらでるよ。

 茶化しているわけじゃない。

 そうわかるからこそ、どう受け止めればいいのかわからなかった。なんやかんやよくわからない事が起きているとは思っていたが、実際呪いとか言われると。怒りが座っていた席が無理やり吹っ飛ばされて代わりに困惑が座った。

 前置きがなければ、確かにちょっと冗談と思ったかもしれない。

 自分勝手ながら、そうも思った。

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