→【三宮さん家。】→三宮君の地雷っぽい話をきいた。


→三宮君の地雷っぽい話をきいた。




 子供らしいといえば子供らしい。

 一度信じれば、踏み込んだこともいっちゃうというのは。

 でも、多分トラウマ持ちっぽいのに何か喋ろうとしているのは予想できなかった。


なったのは、実は少し前でな」

「ん? 少し? ……意外と経ってないのか? それにしては、なんだか慣れてる風に見えたわ」

「まぁ……毎日の事だからな、自分でいう事ではないが、慣れなければほら、発狂ものだろう?」

「それはそうなー」


 どこでそんなに好感度ゲージが溜まったんだろうか、本当に。あの芽依ですらあれが起こる前ちょろちょろ話を積み重ねてたんですが。

 家に来て更に急速に上がっている気がする。なんというか、朗らかになりました?

 自宅ということも影響があるのはもちろんだけど、俺といた時にもずっとあったような緊張が抜けている。


「最初は辛かったよ。落ち込みに落ち込んだ」

「それはそうだろうなぁ」

「でも……家族や友達がいるからと、前向きだったものだ……愚かにもな」


 遊びに来て治療見て、どこにそんな要素があっただろうか。

 ずっと、気にしてないしそんなのは俺にとって重要な要素じゃない事は伝えていたんだが、言葉にするとそこまで違ったのだろうか。

 ぎり、と歯噛みしている三や君を見ながらそう思う。


「今の家にはな、父と兄しかいないんだ――こうなる前まではそうじゃなかった」


 ヘビーなにおいがする。まだするんですか。

 なんか飛んで考えている倍くらいは重い話しようとしてない?

 聞くよ? そこは間違ってないけど、そんなぽんぽんすると普通の小学生は耐えられない奴の方が多いと思うんです。

 だからってわけじゃないが、もう友達に拒否られた、くらいにしといてくれよそこは。兄とは仲良さそうだったけど、それってつまり……って勝手に頭が推測しだすじゃん。


「本当はな、母と妹もいたんだ。家族仲も良かったよ。思い上がりでもなく、随分好かれていたし、慕われていたと思う」

「あー、糞重い展開じゃないですかヤダー」

「せっかくだから聞いていけ」

「やだ……急に強引……」


 茶化さないとやっていられない。重いとわかってて、吐き出しどころがなかったからちょうどいいみたいなのやめてほんと。

 いた。過去系だ。

 もうあれだよな。お察しだよね。こうなる前にはいたし、家族やってとかもうね。


 どこにでもあるんだろう。

 どこにでもあるんだろうけど、嫌な話だよなぁ多分これ。ゲームやってきて、家族を知らない状況だったら『ふーん』で終わってそうだけど、今はな。


「こうなったやつは息子じゃないそうだ。妹からは『気持ち悪い』とはっきり顔をしかめられながら言われたな」

「うっわ糞じゃん」


 慰めるつもり等の気持ちがあって、とかではなく本音でつい感想が口からあふれ出てしまった。妹……未希に言われたところを想像してみるが、かなりショック受けるだろう。自我がない状態の、一方的な付き合いでもそうなのだ。仲良く一緒に育ってきたのだとしたら、それはやってられない気持ちになるだろう。


 三宮君は落ち着いている。最初の歯噛み以外、怒りに支配されたみたいな様子はない。苦笑しているくらいだ。

 思わず糞、といってしまったわけだが。言っては何だが、今の俺がもし家族を他人に『糞』などといわれればぶん殴るだろう。

 そして兄と一緒にいる三宮君は、多分兄をそういわれればそうしそうな気がする。

 これはつまり、そういうことだろう。


「そして『押し付けられるのなんてゴメンよ』とか『捨てましょう』とか、色々父にもいっていたな。妹は妹で、汚物を見て扱うような調子だった。直接触れたわけではなくとも汚らしいといわんばかりだったよ」

「……仮にも可愛がってた息子? に、そこまでいうかね……」


 糞にクソを追加していくみたいなスタイルやめてほしい。それ字が違うだけで一緒の物体だから。

 ドン引きするわ。

 ドン引きさせる戦士である俺がドン引きしてしまったわ。


「まぁ――兄を見れば想像はついているだろうが、どうやら俺は顔も良かったらしくてな……こんなことになるまで、気にもして無かったんだが」

「お兄さん超イケメンだったもんな」

「あぁ、兄さんはかっこいいんだ。なにせ性格がいい。

――性格なんて、みんないいものだと思っていたんだ。少し前までの俺は、悪い奴なんていないと馬鹿みたいに信じていた。

なにせ、俺の周りでは皆笑っていたからな。容姿がそこまで影響するとは考えもしなかったわけだ。顔の善し悪しがそこまで重要と俺は思っていなかった。

顔だけで近寄ってくるやつの……なんとも、くだらないことだと感じたよ。それを見抜けず、本心から好かれているなどと勘違いしていた俺も同じくな」


 吐き捨てるようにいうが、落ち着いた様子で話している。

 話しているが、整理なんてついてないだろうに。納得するなんてできないだろう。

 そうでなければ、話の過程でちらりと触れた時に声を荒げたりしない。

 家族だけでなく、友達の方は予想通りだがお察しだったと。

 『性格重視ですぅ』ってきくけどじゃあプラスがなくなるの? って話で。現実問題、そんなことあるわけないから色々顔がよければ男女ともに得するわけで。最初から好感度プラス点されているのが現実ですよ。で、子供はそれが顕著に出るやつははっきりでるよな。感情的な分、なおさらに。

 そんなやつしかいないとしたなら、そうしたら、まぁ、悲惨だよな。


「昨日好きだといってくれた口でクスクス笑って見下されるのは新鮮だったよ」

「いらないフレッシュさだなぁ」

「男子も離れていったが……特に女子は酷くてね」


 男女ともに見下し優越感タイプとかお世話タイプでワンチャンス無いかと思ったけど、それもなかったか。


「芽依ちゃんタイプはいなかったか」

「森崎さんタイプというのがどういうのかわからないが……あの子はあの子で怖いんだが……」


 そして芽依みたいなタイプは多分、俺が顔を自分でずたずたにしても全く『気にしてないよ』とすら言わないと思う。

 そういう意味では信頼があって、そしてだから怖い。最近は何考えてるか一層わからなくなってきて倍率ドン。


「話し方も、性格も、ずっと歪んだ気がしたよ……元がおかしかったんだろうがな」

「いやぁ、それはそれで違うでしょ。思うのはともかく、大人だろうがガキだろうがわざわざそれを本人に聞こえるように言う口と性格が悪い奴が問題なんだし? 警戒心がないってのは、問題にしちゃえばそりゃ問題だったんだろうけどさぁ……予測しろってのが無理でしょ」


 悪い奴じゃない事が悪い事であってたまるか。

 俺は性格がいいやつではないが、だからこそ性格がいい奴のほうが好ましい。いい奴のほうが付き合うのが楽なのは当然なのだ。

 いつだって、当たり前に、一方的に騙したり攻撃してきたりするやつが本当は悪いんだ。

 ただ、それが前提になりすぎていて、当たり前になりすぎて、さも被害者が悪いみたいな理論振り回すやつがでてきてしまう。

 それの方こそ本来顔をしかめられるべきのはずなんだ。


 現実は、性格が悪い奴よりの人間のほうが多いからそうはなってくれない。

 信用しすぎるのは馬鹿だと言われる。信用する、してくれる奴をこそ求めるくせに。


「そうかな」

「そうだよ。それで、こっちを気にせずべらべら喋りまくってまぁ……すっきりした?」

「すっきりしたさ」


 したさじゃないが。

 ふぅ、と三宮君が息を吐き出す。一区切りついたといった所だろう。

 多少、緊張していたらしい。それはそうか。傷? 病気? はともかく、家庭環境とか人間関係うんぬんまで聞いて大丈夫かは別だもんな。平気だけど。


「ああ……無理やりみたいに、聞かせて悪かった。でも、知っておいてほしいと思ったんだ。

その、こうなって初めて友達になれそうだと思ったから」

「友達ってそこまで重くなるもんじゃないでしょ。いい加減にしろ」

「あとストレスもあったから止まらなかったのもある」


 そう、友達なんて、人のよって違うものだ。

 クラスでただ話すだけで友達と言ってる奴だっているだろう。多分、俺は思われてないだろうけども。

 そんな重く付き合う必要なんてない。気軽でいいのだ。何でも話せる関係なんて、不可能なんだから。知らないことがあって当然で、友達なんて気が合って遊べる程度で呼んでもいい。


 それでも、不安だったからだろう。

 求めていたからだろう。もっと、ちゃんと信用できると思える人間が。

 話くてくれる人間が。受け入れてくれる人間が。とはいえ、俺は開き直って考えられるだけで、まともでいい奴とは言い難い人間なわけなのだが。

 三宮君はあれか、人を見る目がないやつなのかもしれない。俺は付き合ってて楽だからそれでいいけど。信用もしてくれてるみたいだし、それは別にいいことだ。重い話はしてもあれクラスの粘着力みたいなものは感じないし。

 俺が率先して騙しているわけでもないからな。


「はは、それに、森崎さんがその……重そうだから、慣れてるかと思ってな」

「重かったから新しい友達欲しかったんだよぉ! 俺は!」

「そりゃすまないな、これからもよろしくな。良かったよ、ストレス発散がこれからもできそうで」

「俺はゴミ箱じゃないんですけどそれは。なんか俺の周りの奴、すぐめんどくせぇまんま逞しくなる……」


 重すぎるのはカンベンだが、遠慮がある程度なくなるだけならいいことだ。

 たまに愚痴くらいはめんどくさいが聞いてもいい。それでメンタルがめんどくさい方に行かないならだけど。


「まぁ、君は一線までいけばすぱっと切りそうなところもあるからな。そうならないように気を付けはするさ。気楽にもそうじゃないのも話せる関係はありがたいものだって再確認できたしね」

「あれレベルにならなくて、めんどくさすぎないかぎりはないよ?」

「その……森崎さんて……そこまで、なのか?」

「三宮君がくるちょっと前までヤバかったんだぞ。そのうち何しても結果的に刺されそう! みたいな。友達つくって現実の範囲広げるのが俺の中で急務だったんやぞ」

「そんな真顔で言うほどか。よく付き合っていられたな」

「付き合って要られたもくそも、離れようにもそれはそれでそのうち変な進化とかして、道端で誰かと話しているだけで刺されそうみたいな、そんな感じのねっとり感があったのだ」

「同い年でいうことじゃないけど、それはそれで子供が考えることじゃないよな……」

「ほんとそう」


 思った以上だったか、えぇ、という様子で引いてる。俺も引いたし、お前も重い話したんだから共有しようぜ。

 見た目からわからないから仕方ないかもしれない。特に今からは想像できないし。


「……なんか重いこと言ってすまん」

「今日一番心底申し訳ない雰囲気だすのやめてもらえる?」


 オチはなんだが、ともかく信頼度が勝手に上がった友達ができたらしい。

 目的は達成されてしまったようだ。最初以外特に頑張ってないのだが、これはこれでいいのだろう。

 重めの話をスルー出来るスキルがなければ即死だった気はするが。


「それに、俺と友達やるんだからセットでこれからついてくるんだよなぁ」

「……うっわ」

「お? 聞いたことない声が出ましたねぇ。これは報告案件ですね」

「ごめん、やめてください」

「今までで一番弱弱しい声でてるな」


 わかるけど。

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