→【三宮君の地雷話をきいた。】→なんで……?


→なんで……?




 あれから、よく話している時にも笑うようになり、たまに芽依も交えて話したりもするようになってしばらく。

 おかしなことが起こった、と素直に混乱する。

 定番状態になった教室での昼休み雑談。『ちょっと最近調子が良くてな』『精神状態に影響されるのかな?』『へー、痛くないならいいんじゃね』などと三人で話していた時の事。


「そんな奴といつまで付き合ってんだよ。そんな奴と遊ぶくらいなら、俺たちと遊んだほうがましだろ?」


 クラスメイトだ。

 この、三宮君に言い放ったのは、クラスメイトなのだ。男女混合、数人グループ。

 戸惑い。これまでクラスメイトに晒したことはないくらい戸惑った。君たち何やってんの? と。


 ここまで愚かとは思わなかったからだ。

 ありえるのだろうか、そう思ったからだ。そんなことがあるだろうかと。

 頭の中をクエスチョンが踊り狂っている。正直、どっきりと今言われたら起こるより先に『あー! あー! なるほどね! はいはい! びっくりしたわー!』と納得してしまいそうだ。


 やっていることは、つまり芽依の時と同じでいいのだろうか。不安になる。

 『気に入らない』やつをはぶって一人にして、それから見下していじめてやろうという魂胆だろう。あってるよな? そこまでいかなくとも、とにかく現状が気に入らなくて仕方ないので潰してやろうというものだろう。

 

 いや、だから、失敗しただろう。こいつらは記憶喪失にでもなったのだろうか……?

 子供ってこういうものだっけ。わからない。


「……」


 大祐……と最近は名前で呼ぶようになった三宮君はといえば、激昂するでもなく、怯えるでもない。状況を見ている? 冷静すぎないか。

 性格から考えれば……割と怒りは激しい人間だと判明している……反論しそうなものなのだが、ただぐるりと見回した後には――なぜか、俺を見た。


 芽依のほうは特に表情も変えず、逆ににやにやしている。余裕なのか、煽っているのか。性格が本当に変わりまくっているというか、ちょっと性格になりすぎているような気がする。俺のせいだと思いたくない。


「ええっと、色々言いたいことはあるんだけどさ……正気か? 病院いく?」


 俺の発言に安心したのか、少し緊張が走っていたような大祐の力が抜けたのがわかる。芽依は変わらない。この流れを当然と思っているように見える。大祐は何だ? 俺が色々翻して『ウンソウダネ!』となるとでも……?


 そして、俺にそう返されたクラスメイトは、といえば、何故だか戸惑っていた。


 ……本当におかしいな。変な病気にでもかかったのか、誰かにそそのかされでもしたのか……? 洗脳とかってそんな簡単にできるんだっけ? いやできたとしてもここは小学校なんだけど。


「お前らってさ、元々傍観……流れを見ているだけのグループだったろ?

ええっと、何でこんな、気に入らないにしてもまた似合わないことを急にしてきてるんだ……? クラスでは活動的な方だった元リーダー格みたいだったやつが俺に似たような事をやろうとしたの覚えている? 大丈夫? 記憶がどこかにいったのか? 頭うったとかなら、病院行った方がいいよ。煽りとかじゃなくて」


「いや、だって、それは」


 もごもごとしている。

 まるで、俺が反論することがおかしいみたいに思えるくらい、うろたえているように見える。それくらい、ありえないものをみた、というのが相応しいような動揺を全員しているのだ。こっちが正しいはずだと信じ込みすぎているというか。そういえば、勧誘みたいなのもされてたし、そいつら関連に言い含められたとかかもしれない。

 子供だもんな、そういうこともあるか?


「俺が話す奴は俺が決めるんだよ。相応しいとか相応しくないとか、楽しいとか楽しくないとか、そういうのは全部俺が決めるんだよ。なんでお前らが俺の感情を決めようとしてるんだ? 数を揃えればなんとかなるって誰かにでも言われたか? 無理だろ? 喧嘩慣れしてない以前の話で、そういうこと出来もしない奴らじゃないか、お前らって」

「いや、暴力とか、そういうつもりじゃなくて……?」


 数を揃えれば強気に出れるタイプというわけでもない、はずなんだけど。

 とはいえ実際やっているから牽制の意味でも言ってみるが、反応は継続して戸惑い。こいつらは一体何をしたいのか。


 ここで本気で全員が復讐だ! とかで連携して俺たちをフクロにしてこようとしたら、さすがに全員回避は難しいだろうというのが現実だ。が、連携とれないだろうし三人いれば誰かは逃げれる。できないのが当たり前なんだけども。人をフクロにするのを慣れている小学生ってスゴク嫌だしな。

 逃げればその誰かが誰か呼んで終了だ。問題は隠蔽しても、発見すればさすがに大ごとにしたくはないというような大人だからな、ここにいるのは。


「そんな奴ってのは、まぁ見た目でいってんだろうけどさぁ」

「……そうだよ、バケモンじゃん。ちらっと見えたけど、どろどろだろ。うつったりしそうじゃん」


 見た? どこで見たんだろう。

 そんな油断をしそうにないが……あ、嫌、手か? 手は手袋たまに外していたし、顔ほどガードが固くない。目の周りも調子が悪いとなっている時があったし、それを見た可能性もあるか。


「うつったりするならこれないだろ、そもそも。それくらいわかれよ。バケモンっていうなら、定番だけどそんなことわざわざ言ってくるやつのほうがよっぽどだと思うんだけど、その辺どう?

どっちかといわなくても、そんな奴って俺が怪我した時とかも同じようなこというよな。わざわざ今楽しく話している奴と離れて、そんなやつらと付き合いを深めるメリットって何?」

「…………………………」


 沈黙が走り回った。

 誰も激高しない。怒りもない。ただ俺も事実を喋って『頭冷やせ、考え直せ』と言ってるだけだ。脳筋するのも躊躇うほど馬鹿な行動だ。ちょっと男友達作るという目的も達成できた感があって最近余裕があったのもあって寛容なのだ。殴り倒すまでもない。反撃されたら数だけはそこそこいるから痛そうだし。

 言われた側も、言われたことをかみ砕きでもしているのか黙っている。

 ちょっと不気味だ。文句を言いに来た奴がいきなり鎮火して黙って話を聞いて怒りも興奮もしないのだから。

 芽依はともかく、大祐が引き続き黙っているのは不思議だ。ちらりと見ると、虫を見るような目で黙っている連中を観察しているようだった。


 記憶が少し、刺激された気がした。

 どこかで見たような?


 そう、記憶の中にある。その目は、子供のころの記憶の俺が見た目に極めて近いのではないだろうか……? 被害妄想ではなかったのかもしれない。そうか、こういう連中と同じように見られていたのか?

 そういえば、芽依がどうこうと聞いてきていたな。


 現実の大祐も、もしかしたら芽依の事を知ったのかもしれない。

 ただし、現実の記憶の俺は芽依を助けていないし、家族も事故を起こしたから積極的に友達をつくろうなんて思っていないし、もしかしたら同じように誰かに何か言われたかもしれない大祐の事をしりもしないし関わろうともしていない。

 芽依の時点で、知って、軽蔑されたのだろうか。

 そう考えると、記憶の中にある目がしっくりくるような気がした。


 あまりに下の人間だと判断すると、喋るのも無駄だと思うタイプだったのかもしれない。


「……確かに、そう、だね?

ごめん、周りの奴らが文句言ってきてて、頭が、なんか、かーっとして……そうだなって、思って……」


 振り返って馬鹿なことをしていると辿り着いたからなのかなんなのか、主導して喋っていたクラスメイト男子が顔を青くして謝る。

 最近、遊びに混ざったりもしていたから俺が大人しくなったと思った、というのもあったのかもしれない。だからってこういうのはどうかという話だけど、納得がいかないなどうにも。

 俺だけでなく、大祐に……ついでに芽依にも……頭を下げているから、完全にもうつっかかる気はないとみていいだろう。

 顔だけ向けて二人に『どう?』と聞いてみる。


「いいさ、どうでも」

「はーい」


 そんなクラスメイトに、ただ興味無さそうに一言だけいって捨てる大祐。関係ないけどとりあえずいいも悪いも言わずただ返事だけする底意地の悪いことをする芽依。

 青い顔のクラスメイト達と、不思議と変な対比に見えた。

 さすがに教室にいるのは気まずいか、ぞろぞろと具合すら悪そうに教室を出ていく。


「おい、具合悪いなら保健室行くとか早退するとかしろよ!」


 さすがに様子がおかしすぎたからか、おせっかいな事を出ていく背中にかければ、反抗するでもなく素直に頷いて出ていった。


「いや……なにあれ?」


 思わず、呟いた。


「どうだろうな」

「どうだろうねぇ」


 二人が、口裏でも合わせたように同じような返事を返してきたのが、少しおかしかった。

 ゲームバグってない? 大丈夫? それとも現実って変なこと起こりがちファンタジー?

 なんで俺一人で戸惑ってるんだ。お前らたびたび怪しいけど、やっぱ何か知ってたりする? 意味深ムーブなだけ?

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