→【転校生とちょっと仲良くなった。】→質問をされたから答えた。


→質問をされたから答えた。




 最近定番と化した昼休みの雑談タイム。

 仲良くなれてきている気がする。

 とはいえ、学校にいる間だけの関係であって、終わって遊びに行く等というレベルではない。


 まだ小学生、ということもあるし、すぐ帰りたいといっていたからということもある。

 包帯の下がどうなっているのか未だしれないが、調子の悪い時は何か染み出すほどで、終わったならばすぐに帰って取り替えたいらしい。


 基本的に、もう俺と話している時には最初よりは気にはならなくなってきたのか気楽に話せるようになってきた。

 と思っていたら。


「また何か余計なことでも聞きたいの?」

「……呆れたように言われたら傷つくな」


 困ったように笑っているが、困った顔をしたいのはこっちのほうだ。

 広く浅い関係ばかりだったからか知らないが、こう、わざわざ息が苦しくなるような関係が悪化しそうなというか踏み込んだような質問をしたがるというのは困惑する。これもうちょい年齢が進んでやられてたら考え直してたかもしれないな。一か月くらいでつっこまれまくってるからなぁ。肌に合わないってなってそう。


 相談しても軽い調子で、いつでも流せるように。

 漏らされる前提で、リスクは最小限。


 そういうものばかりだった。そういう関係しか作ってこなかった。

 悪いわけじゃない。今でもそれが悪いとは思わない。それが一番楽だと知っているもの同士だから、それはそれで素晴らしく気楽なものだったのだ。

 関係とは、必ずしも深くあらねば醜いという訳ではないだろう。


 自己犠牲が尊くとも、じゃあそれ以外がゴミカスか? というとそうじゃないのと同じだ。

 断金がいつでも素晴らしいか? と聞かれれば首をひねるしかないだろう。メリットデメリットは余程じゃない限りあるものだ。


 それは他人から見れば美しいものに見えても、当たり前にデメリットはある。

 それが鬱陶しく、作り上げろと言われること自体がどうしようもなくストレスであるものだっているだろう。

 そして、それを醜い、ありえないというものこそ身勝手だと思うのだ。


 べたべたするのが好きなやつが、ドライな関係で満足している奴に『えー! もったいないよぉ!』とか言い出す鬱陶しさとかと似た感じ。納豆嫌いな奴に『うまいから食ってみろ』は殴ってもいいと思うのだ。逆に『そんなもん食ってんの信じらんねぇうげー』とわざわざ言いに来る奴も殴っていい。

 お前の嗜好だろそれは。という。


 思考がずれたが、ともかく俺は広く浅い関係を自己卑下しているわけではないのだ。

 それ以外も悪くはないかも、と最近思っているだけで。実際、クラスメイト諸君はすぱっと完全にきったわけじゃなくて結局浅く関係維持しているわけで。


 とはいえ、ちょっとここまで短期間に踏み込んでくるとはと、戸惑いはまだあるという話。

 やっぱり、子供故なのだろうか。

 でも、問題があったと考えると、やはり関係に飢えていたからこそということなのだろうか。サンプルがないからわからない。


 芽依といい、三宮君といい。

 俺が関係を結果深めたり深めようと思うのは、こういうのばっかりなのはどういうことなんだろうか。

 類が友を呼んでいるだけなのだろうか。


 めんどくさくなりそうなやつを選んでいる俺が悪い、といえばそうなのだけども。マゾになったつもりはないんだけどなぁ。


「で、今度は何だい三宮君。だれかにいじめられたのかい?」

「どこぞのお助けロボの声真似が無駄に上手いな……」

「多機能なもんで」


 未だ脳筋進化した芽依ほどアグレッシブに感情をあらわしているわけではない三宮君は、少し躊躇いながらも促せば話し出す。

 そら元から話したいところに背中おしてやったんだからそれはそうなるというものだが。


「……森崎さんさ」


 芽依の話か?

 接点はそうなかったはずだが、と首をひねる。なんというか質問しそうにない角度から来たというか。

 惚れた腫れたの話だったりしたら、それはそれでままごとでも面倒になりそうなのだが。


「一応聞くけど、そういう?」

「――そういう意味で好き嫌いという話をしたいんじゃない」


 強い声だった。

 珍しく、突き放すような声だった。

 面倒くさそうに俺が言ったからというよりは、何やら地雷が埋まっていたかもしれない。今つつく必要はないだろう。軽く流すに限る。


「そりゃごめん。それで、芽依がどうしたって?」


 俺が軽く流すと、三宮君も整えるように咳払いをした。


「……森崎さん自体が、というか……その、クラスの話が聞こえてきたり、少し聞いてみたりして」


 あぁ。

 それは、芽依がいじめられかけていたとか、そういうまわりのことを知った、ということだろう。それは聞きにくかろうな。

 俺の事もついでに知って引いている――という風ではないな。

 それだけで、ここまで聞きにくそうにはしない気がする。そこまで性格を把握できているわけではないが、俺がやったこと自体には『君はもう少し考えて行動しないのか? 急にやるのはリスクが高いだろう』みたいなことを呆れ顔でいうくらいですましそう。


「いじめられそうになってたのを、俺が脳筋解決した話で何か?」

「言葉にするとパワーワードというか、威力が増すな……」

「暴力は全てではないけど結構なことを制するんだ!」

「また極端な意見を」

「ただ当たり前だけど反撃はかえってきやすいから注意だな!」

「そういう問題か……?」


 三宮君ともできるようになった冗談のやりとりをしながら考えてみるも、詳しく内容を聞きたいという風でもなく、何が聞きたいのかが思い当たらない。


「それで? 三宮君は何が聞きたいんだい。問題提起したいってわけでもないんだろ?」

「そんな無駄なことはしない。ただ、気になったことがあっただけだ」


 無駄とは。それはそれで失礼。


「何が気になったんだ?」

「どうして、そこから引っ張り上げようとというか、わかりやすくいえば、その――助けようと思ったんだ?」


 その質問は、少し変だと思った。

 三宮大祐という少年は、察しが悪くはない。

 俺がどういう人間なのか、ということはある程度ならもうわかっているはずだ。


 そのある程度の中には『気に入らなければ脳筋対応してきそう』も含まれるはずだ。

 確かに、三宮君は聞きたがりなところがあるとは思うけど……


「三宮君から見て、俺がそうするのはそんなにおかしなこと?」

「それが普段通りで、今俺が知っている君ならそうかもな……それにしたって、知ったような事を言わせてもらえば君は時にすっぱり切り捨てそうなところもあるだろ?」

「それはそう」


 よくおわかりで。

 よく見ているなと思う。すっぱり切りそう、と思っておいてよく聞くな、とも。いや、だから聞き辛そうにしているんだろうか。

 それだけ彼の中では聞いておかなければならない事だったのだろうか。同情の時の話とは似ているようで違うのかな?


「そうだな……少し、わかりにく言い方しかできないけど……そういう空気で、雰囲気だっただろう? という話だ。そうしない方が当たり前という場ができていたように思う。そうしないのが間違いだと信じてしまうほどに」

「同調圧力、みたいなことが言いたいのかな?」

「そうともいえる」


 改めて考えると、あったと思う。

 過去の俺とて、切りたくて切ったわけではなく空気とか恐怖とかはあったはずだ。俺と同じではなくとも似たような状況であるなら。

 整えられたように一直線に場が整えられていた、といえば、今考えると奇妙だがそうだ。

 でもまぁ、そんなのどういう場面でもあるもんじゃないだろうか。後で思い返せば、みたいな事っていうのは。


「うーん。まぁ、なんというか」


 だからできた理由はって言われても。

 ゲームで焼きまわしなんで、というわけにもいかないし。

 そうすることが当然の雰囲気があるにはあったが、流されると後悔するようなことになるとわかっていているし、中身も年齢が違うからそらできるよって話をするわけにも。


「後悔しそうだったから……? なんか、押し付けるみたいでアレじゃん。友達だから、払いのけたら後々やーな気持ちになることくらい想像できるわけで」

「……」


 一瞬、固まった気がする。

 どの言葉に対してなったかはわからないし、どうしてか、どういう感情からかもわからない。


「そうか、教えてくれて、ありがとう」


 話しかけるのも無粋か、としばらく待った。

 言われた言葉はこちらへの礼だったが、どこかそれには自嘲のようなものがわかりやすく含まれていた。






 更に仲良くなったという事か。冗談の交わし合いで開ける心の扉があったということなのか。それとも面倒くさい質問に答えていた結果なのか。

 放課後、芽依と話していると。


「家で遊ばないか」


 と何かまた決心! みたいな表情で誘われた。正直、驚きである。

 三宮君は、大人しめの方だが当たり前だが子供で、人間なわけである。地雷周りについては、その付近を歩くだけでも感情が荒ぶる事があるみたい。

 人間関係、家族、同情心、憐れみ、男が平気というわけでもないが、女については特に。

 馬鹿にされたり揶揄されたり、というのは慣れているようで、身体的に害がなければ放置一択する理性はある。クラスは静かだが、学校の全てがそうではない。

 だから、家というテリトリーにおよび頂けるというまで親密度が高まっていたというのは意外といえば意外である。決心顔から、またぞろめんどうなことでもしたいのか、ただ呼ぶという事自体に彼にとって意味があるのか何かあるのだろうけど。


「……」

「おい、今にも舌打ちしそうなわかりやすく機嫌悪いです、みたいな顔をするのはやめてさしあげろ」

「お昼休みは我慢してあげてるんだよ……」

「うつろな目で幽鬼のような声やめろや。なにそれ厄介芸増えてるやん……」


 ただタイミングが。

 丁度、芽依と遊ぼうかと言っていた日なのだ。依存心どうこうは置いといても、知らずだろうとは言え予定に割り込まれようとしたのだから多少イラついてもこれは仕方がない部分もある。これを責めはできない。どっちかっていうと割り込んだ方が悪いし。一緒にいたから想像できただろうし。

 そうでなくとも、普段は一応なり俺や三宮君に芽依なりに気を使ってるのだから。


「えーと、タイミング悪かったか……これは……」


 ぐるりとそのままハイライトオフの目を向けられた三宮君がびくっとなり、耐えられなかったか目をそらした。

 わかるよ。俺は慣れたけど、夜中におばけ見た、みたいな怖さあるよね。真に迫っているというか。


「……はー。仕方ないかな、これも」


 ぼそっと小さく芽依が呟いた。


「わかった。ゆうじょーの邪魔はしないんだよ。一人寂しく引くんだよ」

「先約は芽依なんだから、明日とかでもよくない?」

「あ、あぁ。俺も今日じゃなければだめだというわけでも……」

「いいんだよ。覚えておくがいいんだよ」

「こいつ……心広く譲ったとみせかけて一瞬で恨み節に……!」


 芽依は最近こっちに都合がよくなったと同時に変な芸が増えていると思う。

 そのまま三宮君が口を開く前に『くっくっく』と笑いながら通り道にいたくるみちゃん他がびくっとしてる中、離れてそのまま帰っていったようだ。


「……うん。一緒に話している時点で予測してしかるべきだった。明日の昼に言えばよかったか……」

「ドンマイ。あと、声震えてますよ」

「……あぁ……うん……その、実際、失礼だが……怖かった……思いのほか迫力がありすぎて……」

「わかる」

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