→【転校生を観察してみよう。】→転校生とちょっと仲良くなった。
→転校生とちょっと仲良くなった。
またか。
ざざざ、ざざざ、と繰り返す波の音の中、呆れの感情と共にそう思った。
真っ白な砂浜。
対比するように、真っ黒な海。
気持ち悪いほど紫色の空。
「よぉ」
海が語り掛けてくる。
毎度のことだ。
「楽しいかい」
「楽しいよ」
夢だ。
ここに来るたびに思い出す。
けれど、目覚めれば忘れてしまう夢の中。
「ゲームなのにおかしいって思うのかい?」
「忘れることが? いいや、ゲームなら場面切り替えってことでそういうこともあるんじゃねぇの。知らないけど」
「ははっ」
海の中から光る目が笑った。
不気味な奴だ。
「お前だけが変わらずにいられるモノかよ」
「……? 変わってるだろ? 変わらないなんて思ってない」
「哀れだなぁ」
苛立つ奴だ。
俺は、こういう思わせぶりで内容を言わない奴も展開も大嫌いなのだ。
この場所も、状況も、全部全部思わせぶりで気に食わない。
言いたいことがあればいえばいい。気に入らないなら殴りにくればいい。
それだけの話だろう。
「くく、明日のお前はいつ海に飲まれるんだろうなぁ……」
楽しみだ。
あぁ楽しみだ。
そう繰り返す声をただ聞きながら、俺は空に落ちていった。
目が覚めるのだろう。
そして、忘れてまた始めるのだ。
俺を。
あの日から、三宮君と少しずつ話すようになった。
なんというか、話せば良い奴の部類であることがわかる。
なんだか乱暴な口調とか態度をしようとしているのに、こっちに敵意がないとみるやちょっと出来なくなったりしている程度には。
「良い人間ほど食い物にされる世の中」
「君は本当に話がよく飛ぶな……」
「ついてこいよぉ! パラシュートつけてよぉ!」
「それ……落ちるの前提じゃないか……?」
呆れたようにため息を吐く三宮君だが、だからといって会話を打ち切ったりされたことはない。
こういってはなんだが、飢えていたのだろう。
会話というやつに。
蔑まれない、過剰に可哀そうがられもしない、ただの会話というものに。
何か、一瞬弱みに付け込む悪い奴、みたいな想像が湧いてしまった。
そんなことはないはずだ。
俺は三宮君と話して割と楽しい。
三宮君も阿呆な奴と絡まれずに楽しい。
ウィンウィンの関係である。そこまで気を使わなくていい男友達、気楽! このままならいい感じになれるのでは……
「あの……」
「どうした?」
最近の和みである三宮君との昼休み会話タイムをしていると、クラスメイトがおずおずと話しかけてきた。
ボールを持っていることと、ちょっと目を合わせたくなさそうな集団があっちにいることから、一応誘いに来ました、という感じだろう。
「えっと、今日はくる?」
「いや、いい」
「わかった。じゃあ、また」
俺としては珍しくもないクラスメイトコミュニケーションなのだが、三宮君に向き直ると何か『えー……』みたいな雰囲気を醸し出している。
なんといっていいのかわからない、みたいな。
「……君がクラスでどういう立ち位置なのかは未だにわからないんだが……いかなくてよかったのか?」
「気分じゃなくてな」
「最近ずっと俺と話しているが、つまらないだろ。ずっと、屋内にいても」
「それをきめるのは俺だ。俺は俺がいたいからここにいる。ここにいるぞ!」
「三国志のやつか? いきなりやられてもわからないとただ自己主張している奴になるぞそれ」
「普通……なんか似たようなやり取り誰かと前にもやった気がする……」
というか、あっ、じゃあおれもいくぅ! って言われても多分困ったと思う。クラスメイト男子サッカー組の諸君も。
前はたまに混ざってたけども。だから誘っているというの盛るし。やり始めるともう慣れてきというか、サッカーとかをしている分には俺が何かすることもないという事は理解しているので結構平和に遊べるのは事実ではあるが。
「君は」
少し聞きにくい事を聞いています、というのがわかりやすい。
特に邪魔して意地悪する気もないのだ待つ。
「君は、よくわからない」
人間同士なんてわからなないものだぞ。そういうことじゃないのはわかるけど。
「よく言われる」
「だろうな……君は、あまりそうは見えないが……俺に、同情しているのか?」
想像でしかない。
やっぱり想像でしかないのだ。
けれど、初日から観察している時にも思ったように、やはり嫌な目にはあってきたのだろう。
そして、その中には同情も含まれたのだろう。
同情されても平気な奴もいる。
平気なほうが生きやすい人生もあると思う。
逆に許せない奴もいるのだ。
それが、とてもけなされているように感じてしまう奴が。
プライドが高いという事は、生きにくい事だと思う。いい作用をすればいいが、そううまくはいかないのが世の中で人生ってやつだろうけど、何かにつけてプライドを絡めてしまう性格だと生きにくい上に相手も困る。
「してるよ?」
と答えるしかない。
だからはっきりという。隠してしてないといっても影響が出るような、そういう種類の質問だろ。
質問する場所とかタイミング考えても悪いようにしか影響しない類の。どっちを答えても満足しないだろうに。
あれだ、そういう意味ではよく創作とかで見るような『お前、●●を泣かしたらしょうちしないからな!』だとか『しょうしないわよ!』的な奴。何気に現実でもいるのだそういうの。
いや知らねぇよボケ。誰だお前。いきなりでてきてでしゃばりながらイキリちらかすな。
お前、それでその●●とやらとその発言のせいで関係悪化するとか考える頭もねぇの?
『お前の知り合いか友達か知らねぇけど、クソうぜぇこといちいち言ってきたんだが、あれなに? どういうつもり?』とかなってもおかしくないのもわからんか。
そもそも第三者でしかねぇ奴が、未来のことを釘刺しながらでしゃばる権利あるとなんで勘違いしてんの?
いったからこそ起こるアレコレとか、起こりそうなら起こりそうでその対処最悪にしかならないのわかんねぇの?
良い奴、思いが深いムーブして相手を不快にするだけ不快しながら気持ちよくなってんなよ。
それ言われて『いってくれたぁ、思われてるなぁ!』って●●が表情に出してたら最悪切り捨て案件の火種だぞマジで。
漫画だけにしとけ現実でやるな。
よしんばいっていいのは親くらいだ。
と言いたくなるそれに似ていると思う。というか言われた。俺が。愚痴で。
現実でそういう愚痴を●●じゃない言われたほうの付き合い浅井からこそなのか遠慮なく吐き出していった友人から聞かされた思い出がよみがえったぞ。
いってる側は気持ちいんだろうがねぇ。そら言われた側の友人は不快にしかならんわな。『じゃあ逆にその●●が迷惑かけたらお前ぶっ殺すね!』といわれて気持ちいんか? 納得できる?っていう話だよ。『連れがさぁ、こんなん言われてよぉ。糞腹立ったわぁマジ』みたいなことを合計数人に愚痴られた俺の身にもなれ。どれだけそのムーブが付近で流行ってたんだ?
いや、うん。改めて思い出すと、そっちよりはマシか。マシだな。さすがに失礼だった。
これはあれだもんな、『仲よくしてくれるような気がするけど、全部同情でやってるだけなのかな』な不安と心配から発生してついやっちゃったやつだろう。
例え話の方は『それ聞いて何か仲いい奴にいい作用が起こると思った? 馬鹿ちゃう?』という種類としては同じというだけだ。
三宮君はまだ純心さが残っているという事なのだろう。うん。
利害関係だろうが同情だろうが気が合えばそこから生まれる友情もあろうに。
「……はっきりいうんだな。そういうところ、逆にすっきりするよ」
「一応言っとくけど、逆にしてなーい! っていったらどうしてたん? どっち聞いても納得しないと自分で理解している質問するのは馬鹿だと思うよ」
「……きついこというなぁ」
ぐ、と詰まったような顔をするが、苛立ったという様子はない。
「というかだね」
「うん?」
「逆にその姿で一かけらも心配しない! って本人にいう奴の倫理観というか良心、やばくない――?
お前あれ? 階段から落ちてる人みて『は! ざまぁ! クソ笑えるぎゃはは!』とか一切同情しないどころか肴にしちゃう系の奴と友達になりたいの?」
「そんなわけがあるか!」
「じゃあ何よ、可哀そうがられるのがヤだったって話なんだろうけどさぁ……
何か弱点を見れば叩きたくて仕方ない馬鹿以外はな、そもそも適当な『可哀そう』『痛そう』で止まるもんだろ。
いっちゃなんだが、そこまで初対面でもちょっと付き合いがあっても他人に興味持たないよ。どいつもこいつも。三宮君だってそうだろ?」
ちなみにこの話を始めた時点で何かを察したか教室に残っていたクラスメイトは芽依も含めて退出している。
なんかクラスメイトの諸君最近シックスセンスとかに目覚めてきてない? 違う?
「何がどうなってるから知らないから、色々言うと傷つけるんだろうけどさ。
ほとんどの良心がちょっとだけでもある人間は、お前を見てほぼ確実に初手『可哀そう』と思うよ。
それ以外の奴は『うわぁ』とかだよ。だってそういう見た目だもん。包帯ぐるぐるの奴見たらお前だって心配するってか、そういう気持ち湧くんじゃないの? それを同情というのならそうだろ。
でも、それでも、それってその中の更にほとんどが話しても『こういうやつがいてさぁ』って話して終わる程度のもんなんだよ。関わんなきゃ、人の興味なんてそんなもんだよ。
で、同情されるのは嫌だって話はわからなくもないんだけどさ。言われたって、聞かれたって、『はい』と答えるしかないし俺はこうして全くの他人より関わってんだから同情しないってのはなおさら無理だよ」
だらだらと話す声は遮られない。
ただ、じっと、三宮君は聞いていた。これは友情終わったか、と思うも、これをスルーすると鬱陶しい予感があったので言わない選択肢はなかった。俺はすっきりした友達付き合いがしたいのだ。男女どっちも関係深め居ようとしてメンヘラ化させました、みたいなオチだけは嫌なのだ。
「可哀そうと思うのが当然、か」
しばらくの沈黙ののち、そうぽつりと三宮君は呟いた。
「まぁ、俺が言ってる同情とはちょっと違うが」
「知ってる」
「だろうな」
わかっていてあえて言った。
そうじゃない部分もあったが、それ自体についても思っていたから消沈しているのだろうが。
「三宮君が危惧している類の同情はしてないよ。
『可哀そうだから何かしてあげるよ! あ、これは危ないからダメだ、これも危ないからダメだよ! あ、ボクがしてあげるよ! だって三宮君は可哀そうなんだからぁ!』
みたいなのだろ」
「……君は煽るの好きだよな」
「好き、だよ……」
「頬を染めながらいうなやめろ気持ち悪い」
ネタを挟むと少し調子を取り戻したらしい。
落ち込み具合がやりとりのうちで少しはましになったようだ。
「そもそも、その類の同情をしてそうに見えたんならお前の目は節穴すぎるぞ。
俺がそんな変な気を回しそうな人物に見えたか? クラスメイトの俺への態度見りゃ、そういうの無さそう! ってことくらいわかるだろうに」
「それはそうなんだが……というか何すればあんな遠巻きだけど無視は……みたいな態度になるんだ……」
「人徳、ですかね……」
「それはないだろう」
「はは、いいおる」
少しずつ調子が戻ってきたようだが、それでもちょっと気まずいのかきょろきょろとしている。
話初めてまだまだ日は浅いが、それでもこれで関係を切りたくはない程度の愛着があったという証左だろう。俺の独りよがりでなくて安心である。
気まずそうだから、きっかけを更にやることにした。
『いいか』と前置きをする。
「心配しなくとも、お前が急にサッカーやろうぜ! とか言い出しても一応大丈夫か聞いた後『大丈夫だ問題ない』っていったら思う存分サッカーボールぶつけてタックルもかますわボケが」
「それはこんな有様じゃなくてもやめてくれ」
「俺はそういう、気を使っても気軽な関係になれるんじゃねーか、みたいな感じで話しかけてんのよ。それが同情混じりで始まって、今もまだあるからって悪いことがあるのか? 少しも含まれると駄目ってんならしゃーないから近づかないけど?」
どう? と首をかしげて聞くと、答えやすいように誘導したのを理解したか苦笑したのがわかる。
そういう察する力は高いのだ。いつもはテンポよく会話できて楽しいのだ。
「いや、変なこと聞いて悪かったよ。ごめん」
そういった声はちょっと吹っ切れたように聞こえた。
ちょっと間違うと変ないさかいとかまたぞろ変な依存とか生まれるじゃないかと強めに返答したが、悪くなかったようだ。
関係が浅いのに慰めるのも違うと思ったのもある。
俺はまた新しい友達候補を探さなくてすむようで安心した。
しかし俺も成長したものだ。
子供相手に強くあたって成長もくそもないと言われそうだが、やり始めの俺ならめんどくさくてぶった切ってた自信があるからな。
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