→【一年くらい普通に過ごしたつもりだった。】→転校生の存在を思い出した。


→【一年くらい普通に過ごしたつもりだった。】→転校生の存在を思い出した。




 依存傾向を拙い感じで増しているのに気付いた俺の精神状態。

 ちょっと削られ気味。


 そんな芽依ちゃんでも、というか、だからかもしれないが、赤ちゃんというのはメンタル的にプラスに作用したらしい。

 家族からも芽依からも猫かわいがりされている妹が産まれてしばらくたつ。


 産まれた、知らない妹。

 名前は未希。


 一瞬、何かぞっとした。

 未知。

 希望。


「あんにゃー!」

「あ、痛……くはないけど地味に衝撃来る」

「ぺちぺしかわいい」

「芽依ちゃん最近全自動未希可愛い全同意連呼装置と化してない?」


 知っているのか。


 そう勘繰りかけた。

 考えれば道以外にも未来などあるし、そっちだろという話なのだが、ゲームでやり直しという事実を気にするほどこの状態を現実のように思ったりのめりこんだりしてしまっているということなのだろうか。


「会話を無視するようにぺしぺしし続ける妹。才能の片鱗、ですかねぇ……」

「んぇーい!」

「お姉ちゃんもやるです。えーい!」

「調子のんなよてめぇ……」

「低めで本気っぽいトーンでたんだよ……」


 結局、そんなそぶりはかけらもなかったし、誰もいない妹と二人きりの時いきなり低い声で喋りかけてくるようなホラー展開もなかったので安心だ。

 下がいるのは初めてだけれども新鮮である。

 まだ自我が俺と違ってあるわけでもないので、滅茶苦茶で鬱陶しかったり煩かったり家族にストレスが結果的に貯まることもあったりしてイラついたりするときもあるはあるが、それが赤ん坊で下ができるということでもあり、基本的には可愛い存在である。


 俺が本当に子供だったらこれでまた感情の流れがあれやこれやあるが、そこはやり直しである利点であった。

 逆にやり直しであるからというか、結構いい子ちゃんやっていた弊害というか、親は予想を超えた苦労をする羽目になっている。

 なんというか、一人目を通過したからある程度自信を持ってしまっていたというか。全てはうまいことはいかない、ということか。


 未希が産まれる前『あなたは大人しかったのよー』みたいに軽く話してくれていた覚えがある。あなたは周りがいうほどじゃないから大人しくて、これまた周りがいうほど苦労もストレスも溜まりはしなかったけど、聞いているから当たり前とは思っていない。みたいな話だ。

 でもやっぱり経験というのはプラスもあるが過剰な自身も生みやすいもので。

 ここまでとは思わなかった、が、経験がある分逆にストレスをためやすくしてしまったり、自信をなくす方向に作用してしまったりしてしまったのだ。

 それで、一時期微妙に家族の雰囲気が暗くなってしまった。もちろん、未希に苛立つのは八つ当たりであるという事はわかっている。わかっているが、イラっとはするのを止められなかった。ぶつけてはいない。それも当たり前だけど。


「ぶーぶー!」

「お兄ちゃんは車じゃないぞ」

「未希ちゃん覚えた言葉全部啓くんだと思っているのかな?」

「世の全てとは俺でできていた……? 案外、下に見られててモノを教えているつもり説」

「それは大物過ぎるんだよ」


 気分を切り替える意味でも、俺は率先的に面倒を見た。

 芽依もそれにならってというか、家に来るときはよく見た。

 そんな芽依に事情を微妙にでも知っているからというのがあっても、ストレスが溜まろうが迂遠にでも『邪魔』をほとんどださなかったのは親として尊敬できるところだろう。出しても仕方ないというか、ある種当然なところなのに。なにせ、自分の家、自分の家族が大変なのに気を使わないといけない子供がいるというのは端的に負担なのだから。

 実際、俺もよんだり遊んだりを控えるか外でなるべく遊ぼう等とは考えたが、実行する前に止められた形である。

 最終的に皆で甘やかし気味にはなっているが、赤ん坊だから直ちに問題はない。


「猫とか獲物持ってくるのは餌取れないと思われてるから、みたいなの聞いたことがある」

「にゃんー?」

「あれってとれたよ! っていってるんじゃないんだ……」

「ご主人サマ気取りでざまぁねぇよなぁ! 本当にそうなのかは知らないけどぉ!」

「うわぁ、性格悪いんだよ。知ってたけど」

「ストレートなディス」


 芽依は琴線に触れたか、とにかく可愛がった。邪魔だと思う方にふれなくて良かったといえばそうだ。何気に少しその辺は家族全員気にしてい所であるだろう、口にして相談したわけではないけど大体あってるはず。

 芽依が異常にかまうのは、兄妹が欲しかったというより家族に飢えてる埋め合わせの延長だろうか。

 それとも、逆に家族でないからなのか。


 普段は俺の家族から微量にでも供給されているわけだが、妹は受け身だ。

 自分から都合のいいように積極的にいける、というのはやはり本人的にちょっと違うのかもしれない。

 何を思ってそうしているのかは、俺には想像ができなかった。


 いや、まぁ、その。

 妹にまで、というか家族単位での依存が加速しているような気がするが、生まれたての頃はここまでメンタルがこうなるとは思わなかったというか気付いてなかったから仕方がないのだ。


 どうしようもない。


 なにせ、俺はカウンセラーでもないわけで。

 本当は疎んじていて隠している、とかでも気付ける自信がない。親ではないが俺は俺で気付いた瞬間芽依への自信を失っている最中であったりする。


 さすがにあまり見ないような、というより見せたくはないだろうなというような顔で戯れているのまで嘘とは思いたくない。

 思いたくないというか、あの顔が演技でできる現実があると信じたくない。

 見せるためにしているということになってしまう。それはちょっと俺がドン引きする側になってしまう。


 感情が近くなりすぎてしまったか、脳筋で解決できない事態だから困っている。アレな思考で方法だけど、暴力で解決できるような事ならもうちょっと悩んでなかっただろう。いやほとんど悩んでなかっただろう。

 大人になると……いや、一部では大人になろうがそうみたいだけど……高校生くらいまでは結構な表でやってもある程度ならなぁなぁで許されてしまう不思議な解決方法、理不尽だけど結局総数的にはやったもん勝ちに結構なってるよな? というある意味マジカルな力が暴力なのだ。

 これで解決できる事態というのがやってしまえるのならまぁ多い事多い事、というほどのもののはずなのだ。が、実際、その中でも単純な暴力で解決できる系の自体でないのだから困っている。


 例えば、子供のころの友達関係で、しかも異性同士なら暴力によって一瞬で壊れてしまう事もある。

 でも、例えば力づくで喧嘩をするとすれば一方的になるというのに、離れるところが想像できないのが問題で。

 『俺から離れられないんだよ結局!』みたいな俺様系うぬぼれではないはず。

 悦に入っているというよりは、理解できない恐怖みたいなもののほうが強い。

 むしろ、暴力的解決を行おうとすると、より変な方向になりそうなのが怖いというか。


 創作における、病んでるヒロイン。ヤンデレ。そういったものは、創作で、現実で近くにいないから好きでいられる人間が多いことだろう。

 そういう趣味でもない限り、それは理解から遠く、地雷であり、やっかいであり、時に危険でもありうる。

 恐らく、『好かれてるからいいじゃん』とか『羨ましいわ』とかいいだす馬鹿はこれは関わって厄介さを知らない限り一生理解できないのだろう。安易に相談もできない。そもそも安易に話せる友達もいない。


 友達つくろう。

 つくらなきゃ。


 結局は、最近は自分のストレスも鑑みてそういう結論になって袋小路。

 気付いたら共依存のDV彼氏状態とかごめんすぎるのだ。そして関わったからかそこまでポンと非情になれないのも事実で。じわじわ離れるというか独占欲とか依存心を下げれればベストで。それには人が必要で。

 とぐるぐるする。あまり開き直れない、もやもやする堂々巡りを体験している。


「あ! そうだ。あのね、なんか、転校生くるって聞いた」


 転校生。

 転校生?

 急に言われた話題に、何か引っかかるような、そうでもないような。いたっけそんなもの、という感想が浮かぶ。

 頭では検索を続けつつ、ぺちぺちし続けていた未希の手を握って上下にふる。こんなのでけらけら笑えるのは今のうちだけだろう。お手軽妹。ただし期限がよろしい時に限る。


「転校生かー。知らなかったけどさ、そんな話題どっから拾ってきたん?」

「くるみちゃんが先生から聞いたっていってたん……可愛い子がいい?」


 ハイライト芸うまくなったね! わぁーい鬱陶しい!

 とはいえない。いいたくなる。


「くるみちゃん、先生からの情報吸出し力高すぎない? 吸い込み力ナンバー1なのか? 先生が情報漏れ過ぎてびしょびしょなの?

それはともかく……予言してやろう、転校生は男だぞ。当たったら一億万円な」

「えぇ!? お小遣いなくなる……」

「一億万という単位はないんだよなぁ……騙され申したな」

「さよーか……騙されもーした」


 そう。そうだ。

 転校生は男だ。

 言われて思い出した。いた。確かにいた。この時期かどうかまではおぼろげ過ぎて未だにしっくりこないがどこかのタイミングでいたのは確実。


 でかい後悔はもうクリアしたといえるから気を抜いていたというか、芽依ちゃんの事があるから逆に気を抜けなかったからというか、合わさって感情カオスになってたおいうか、とにかく元からそんな気にしてなかった事だったから忘れてた。


 結構イベントみたいなの連続で起こってたんだなぁ、と思う。

 ともかくいたいた。確かにいた、転校生。


 これについては後悔といえるような後悔はないから薄味だったのだろう。

 そもそも、ほとんど関りがなかったというか……余裕ないし落ちてしぎてどん底してる頃の俺だから……

 当時のネガティブ大爆発中の俺だから、多分被害妄想っぽいが……軽蔑したような目で見られた記憶はあるくらいで……ほとんど話したことすらないはず。

 ただどん底余裕なしの状態で、それでも覚えていたのは、被害妄想の件というよりは姿かたちにインパクトがあったからか。芽依といい、見た目ばっかりか俺は。


「気が向けば、話してみても悪くはないかもなぁ」

「……男友達、いないもんね」


 妙に間を開けるのやめろ。

 同性の友達もアウト判定なのか? さすがに鬱陶しがられると思って止めたか? 未希の方に顔を向けているせいか表情がわからない。


「いないんじゃない、あえてゼロにしているんだよ。カロリーゼロもシュガーフリーもありがたがられるだろ? そういうことよ」

「そっかー」

「その目は優しかった」

「いいふぁがふぁひっふぁらふぁいで」


 目もくそも見えてないけどボケ方向にもっていく。苛立つ。それを誤魔化す意味でも。最近、本当に割とストレス過ぎて爆発しそう。というかこれ以上今言われるとどうでもよくなってキレてしまいそう。


 それはともかく転校生だ。転校生の事を考えよう。


 転校生は、包帯だらけだった。

 何か怪我か病気かしていた、みたいな話を聞いたような気がする。

 そこまでで情報が止まっているのは、俺の状態もあるけれど転校生自体がある程度はいたがすぐにいなくなったからだろう。短い期間だけいた存在だった。いたならさすがにもうちょっと覚えがあるはず。


 短期間でいなくなった、ということ自体が印象的だったから、覚えていたのもあるかもしれない。

 とにかく格好も行動も印象に残るやつだった事は確かだろう。


 事情はわからない。

 わからないが、ここは芽依みたく容姿が良くても酷くいじめに発展するような場所だ。ちなみに、関わっていないが、噂レベルならそういう話がちらほら拾えてしまうレベルで他にも漂っている。

 逆の位置ともいえる珍しい姿をしていて、いい思いをしたはずもないだろう。


 なんだろう。本当に、なんかもう。

 うちの学校にいること自体が不運というか、学校とか環境、悪すぎない?

 学校が悪い! というとなんか責任転嫁ばりばり型の不良の台詞っぽいけれども、真面目に問題があると思う。治安も民度も糞過ぎないだろうか。他のところは知らないが、ロースクールってどこもこんなものなのだろうか。中途半端から結構なゲスだらけみたいな。

 そんなはずはないとさすがに信じたいのだが、それはそれで開き直れないぐらい不運な事実が浮かび上がってしまうな。悲しくなってくるぞ。


 呪われてるんじゃないだろうか。

 こんなゲームオカルトがあるんだから、本気で呪いなんてものがあっても不思議ではないけど、呪いは呪いでとても嫌である。

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