→【後悔の種をなるべく枯らしていくような毎日。】→ 一年くらい普通に過ごしたつもりだった。


→一年くらい普通に過ごしたつもりだった。




 性格がアグレッシブになっていく芽依を見て、そもそも子供だからまぁ周りの影響で割とどんどこ変わっていくよな。

 と納得する。しかない。

 もう、あの日の彼女はいないのだ。

 戻ってきたりしない――またはじめからやったら戻ってくるのでは、とは別の問題だ。


「にゃ! にやー!」

「啓くんは猫になったのだ……赤ちゃんの兄、その兄猫に……」

「あにやー!」

「兄やで。兄です。猫はいません」

「いにゃーん……にゃ」


 ネタのようにいったりするも、理由はなんとなくわかる。

 うぬぼれでも何でもなく俺の影響がでかいということだ。

 とはいえ、それは『俺だから』ではなく、その時他の誰かが芽依の近くにいればその誰かの影響を強く受けていただろうとは思う。


 彼女は本来、支柱がなかった。

 現実の彼女を考えれば、それは明らかだ。

 彼女の味方はいなかった。

 彼女は味方がいなかった。


「私はシスコンになりたい」

「私は貝になりたい、みたいなテンションでいうのやめてくれる?」

「未希ちゃんがわる……いはずはないから……これは……啓くんが悪いんだよ!」

「凄い強引な責任転嫁を見た」


 だから、そうなっていって、そうなった。

 認めてくれる人間も、近くで温かさを与えてくれる誰かもいない。

 それを教えてくれる人もいなかったのだろう。


 聞いた式の様子などから考えても、間違っていないだろうと思う。


 父親も母親も友達も教えてくれる人がいない子供というのは、どれだけの寒さを抱えるのだろうか。

 初めからそうなら、あるいは耐えることができたのだろうか。最初からそうでなく、幾度も期待できる状況があったからこそだろうか。


「大体啓くんが悪い、責任とってもらわないと」

「おいおい芽依ちゃん、最近脳筋思考多いぞ!」

「近くになんでも強引目に解決しようとする人がいるから……」

「誰だろうなぁ……」

「うやん!」

「貴方の妹が――それを、教えてくれてるんだよ」

「偶然とはいえなんというタイミングで指を差すんだ」


 暗くなるのも、無理はない。なっていくことに、違和感もない。

 考えてみれば、そのイメージでどうにも固まっているところがあったが、そんな押し込められて追い詰められたようなものが本来の性格などということがありうるわけがない。というか、ついつい考えてしまうものの、本来の性格なんてものを俺が定義すること自体が間違っている。

 自我が固まっていく途中の生き物なんだから凝り固まった大人よりもちょっとしたことで変わっていくし、空白部分に俺という友達を突っ込んだんだからそら埋め立てた素材に強く影響もされる。


「未希ちゃん……やはり天才」

「なんで兄の俺じゃなくて君がシスコンみたくなってんの? もう一年位はたつのにむしろ度合いが増してるし……」

「まず、未希ちゃんという存在が可愛い。そして赤ちゃんというだけで可愛さがプラスされる。懐いてくれてるところが更に倍率ドンで」

「ゴメンそれ長くなる?」

「――聞けぇい!」

「雑にキャラ崩壊するのやめてくれる?」


 それはいいのだが、ちょっと失敗したという点もある。

 その、依存傾向が高めということが判明したのだ。

 変わった理由と関りがあるかもしれない。


 誰も認めてくれないような環境だった。

 そも、ちゃんと初めて友達としてできたのが俺である。それも残念ながら間違いない。信用できて、そう思い続けられるという意味ではそうなのだ。

 そして、家族といえば、はっきり興味を持たれてないことを自覚をしてしまう環境だ。


 つまり、あれだ。俺はちょっと距離感というものを計らな過ぎたというべきなのか。


 あまり誰にも仲良くしてもらえない感じの時に積極的に関わり友達になった。

 見捨てられる、と思っていた場面で見捨てられなかったどころか、強引であるが救済に思える行為を行った。

 それだけではなく、家族関係とか深いところまで気にするようなそぶりとか見せたうえ、サポートするように家族に巻き込んだりするではないか。


 いや、うん。

 考えずにやりすぎたといえばその通り。


 明らかに支柱になってしまったらしいのだ、俺という存在が。あまりよくない意味でも。

 強引に解決しようとするのは、それで解決するところを見せてしまった俺の影響。

 成功体験がそれで、精神的支柱にした人間がそれだから。


 慕われるという事だけ抜き出せば、確かに気分は悪くない。

 でも、ただそう、というにはあまりにも粘着質めいたものになっていた。

 気付いたときにはそうなっていた。


「最近冷たいと思うんだよ。もっと優しくしてもいいと思うんだよ?」

「にゃー」

「あまりの要求に妹も引いてるだろ。というか十分対応してると思うんですがそれは。正直褒められていいレベル」

「にょー?」

「捨てるんだ」

「うつろな目をやめろ教育に悪すぎる」


 本人に自覚があったのかどうなのか。

 うまく隠していたようなところがある。

 独占欲。

 恐怖。

 怒り。

 寂しさとか嬉しさとか。

 そういうものが全て向けられている。


 くるみちゃん他とも関わったりしているから、家族関係はともかくそっち関係は大丈夫だろうと思って油断していた。

 子供だから、と。

 ぶっちゃけ顔などが好みな部分はあったが、楽しくこの世界でやっていくのが目的で会って、そうなればいい程度だった。俺にとって、芽依は友達ではあるが、そのくらいの存在だったのだ。


 だって、学生くらいの友達なんて、離れることがあっても不思議じゃない。

 なんやかんや新しい環境になれば、それを薄情というのは酷という部分があることも知っている。

 そう、知っている。俺は、記憶でも、一応体験でも知っている。特に広く浅く付き合っていた俺だから知っていたのだ。


「未希が産まれて全くくるみちゃんらとは外でも遊ばなくなったよなぁ。ただでさえ少なかったのにもう消滅してるよな? そっちはいいの?」

「1000くるみでも未希ちゃんに届かないから優先順位低い」

「くるみちゃん怒りの名誉棄損裁判」

「いじめの過去ドーン!」

「くるみちゃんのこうげき! 『わたしがいじめたってしょうこだせよ!』」

「うるせぇぱーんち!」

「最近の芽依ちゃんはゴリラに近づいていると思うんだよなぁ……やめろぽこぽこ殴ってくんな反撃するぞ教育に悪い」


 でも芽依は知らないし、知りようがない、という点が抜けていた。

 子供の世界は、狭いという事を失念していたのだ。

 そもそも、世界が狭いからこそ、そこから色々な意味で抜け出せないからこそ大人からは理解できない理由で自死しようという発想にもなるし、それが突拍子がなく見えたりもするのだ。

 森崎芽依の世界も狭かったのだ。


 子供の把握できる世界なんてものは、家族と学校だけなんてことも珍しくはなくて。

 ネットができようが、現実感がなければそこまで。


「もう! あなたったら最近二言目には教育教育って! 教育と私、どっちが大事なの! 答えは未希ちゃん!」

「一人で完結してんじゃねぇ。でっかい独り言じゃん」

「もー、おはなちしてほしかったのかなぁ啓くんたらー、さ、び、し、が、り、屋、さん!」

「外でろお前」

「本気無感情低音声はちょっと怖い。本気でイラッとさせて申し訳なく思っています……」


 俺という存在は、そんなことを把握しないで馬鹿すかやったものだから、大きくなりすぎてしまったのだ。

 『そんなつもりはなかった』とは、きっと芽依にはなんとも寒々しく聞こえるものとなるだろう。


 とはいえ、まだまだこれからの子供だ。

 生きていくうちに色々経験するし、そこから範囲も増えていくだろう。

 修正できる範囲内だ。範囲内だと思う。そのはずだ。


 最近そんな感じでちょっと危機感強くなっているのは理由がある。


 薄々隠しているとは思っていたし、察していたが、予想以上っぽかったのが最近判明してしまったのだ。


 クラス替えがあったことも影響しているのかしていないのか、あまり興味があることではなかったが、俺は一部からモテている。いいモテかたではないが。

 特に学生の頃は悪そうなやつとかが性格があれでも奇妙にモテる現象がある。運動が出来ればある程度格好良くみられがちな時期でもあるので倍率ドン。勉強もできてさらにドン。

 この時期からステータスで男見る勢、アクセサリーと思ってる勢等々……からモテているようなのだ。


 それ自体は、全く嬉しくない事だった。


 子供だからということもあるが、いい歳までいっても後腐れなくヤることも不可能なタイプばかりにしか見えない。ネットとかに裏垢とか掲示板とかで容赦なく晒してくるタイプの地雷原、地雷候補生たちといっていい。


 だから、俺としては本気で鬱陶しく思う部分のほうが多かったのだが、それに芽依が過剰に反応したのだ。

 所謂告白行為――とはいえ年齢からしてまだまだ子供の遊び感バリバリなのだが――をされたときの目。


『――捨てるの?』


 一言言われたそれに怖気が走った。

 正直、子供からの感情でここまでぞっとするとは思わなかった。

 暗い暗い目をしていた。

 記憶にある裏切られた後に芽依ちゃんとはまた違ったような暗い目だ。


 付き合ってもないし、そういう関係になったような覚えもない。

 でも、なんか将来そんな関係を別人として、対応ミスったら死ぬか刺すかしそうな雰囲気がそこにはあった。そう、つまり、あれだった。



 なんか、メンヘラ化してる。



 一言でそういってしまうにはちょっときつかった。

 他人事とかちょっとした関係とか、すぐ切ってもいいような状況ならともかく。

 現在の状況で、関わってしまって、深く俺の楽しくやり直しプラン実行中の今はちょっときつかった。


 そら、学年上がるなり学校変わるなりすれば関係が切れても不思議じゃない、と最初関わる時から割り切っていたような部分があった。だもんで、自分に都合のいいヒロイン等にできる、とか思っていたわけじゃない。付き合いが深くなるうちに、まぁ劇的に悪そな奴とかにずぶずぶはまっていかない限りは長く友達付き合いは続きそうかな、くらいには考えが変わってきてはいた。

 でもこれは予想外。いや予想出来たらおかしいでしょ、とは本音。


 実際、めんどうくさくて鬱陶しい、と思う部分もある。いいや、結構大きい。

 こういう人間と付き合いがあるやつなら、オブラートをのぞけば、そんな風に思っている奴も多いんじゃないだろうか。

 全てがプラスに思えないのはただでさえ当たり前なのだから。


 関わっていれば綺麗ごといってられない部分はでてくるのが当然だ。他人事ならなんとでもいえる。

 まだ浅いだろう地点にいる俺でもそうなのだ。深いとなおさらそうなんじゃないか。知らないけど。


 何か芽依のことばかり考えている気がするが、まぁ、なんというか、うん。

 友達が一年以上たとうというのにできないから……仕方がないのだ。いや、作ろうとしていない――なんか言い訳臭いけど一応本音で本当――から当たり前といえば当たり前。


 あと、こんなんで、っていうのも失礼な話ではある。あるが――あえて言おう、こんなんで死んでバッドエンドみたいなのだけは避けたい。そこまで加速はしないかもしれないが、そうなる可能性が見える事態イヤだ。本当に。


 いやマジで。


 人生やり直すゲームで楽しくやってて、後悔していたからいじめられかけてた友達助けて、家庭環境とかで弱ってたからちょっと強めにかまったら――メンヘラ化しててもうちょっと進んだあたりで彼女とか作ったら『貴方を殺して私も死ぬされて死んでしまいましたEND』を迎えました。

 っていうのはあまりにあまりだ。


 そんなん、他人がなってたら、知らぬ身であれば爆笑した後同情するような事態だ。

 なりうる現在から言えば笑ってんじゃねぇよぶっ殺すぞ、お互い頑張りましょうねって仲良くなるだろう。


 本当に。どうしてこうなったんだろうか。


 これはもう、なんとかゆっくり依存をはがしていくためにも、俺か芽依か、そのどっちもかに友達とか増やさなきゃと最近は考えている。

 考えているけど、俺基準で仲良くなりたくない奴ばっかりという点にぶつかって焦り気味でもある。

 間に合うよな? 本当に。これ、色々と。


「わんわん!」

「お兄ちゃんはわんわんじゃないぞ」


 産まれた妹は、可愛い。

 家族になるという事は可愛いだけじゃすまないけど、少なくとも余裕がある時は。

 特にこういうささくれが痛いときにはありがたいなぁと思った。

 現実に逆輸入できないかな、とかふと思う。したらしたで面倒見れないとかで困るんだろうけどさ。

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