開き直れるルート-2

→【うまく加減できた。】→変わった日常を過ごした。

→【うまく加減できた。】→変わった日常を過ごした。




 事なかれ主義しかいなかったのだから、やらかそうが基本的に何か問題が起きるわけもなくすんだ。

 予想通りではあるが、ゲームといってやはりリアルすぎて気持ち悪くはある。


「どんぐりこって、やっぱり首領ドングリコっていうボスの世代交代をあらわしているのかな。どう思うかね?」

「違うんじゃないかなぁ……」

「なんだ、芽依ちゃん。君は首領ドングリ=コロコロが首領ドングリコに首領ドンを譲ろうとしたんじゃないっていうのかね? んん?」

「お池にはまってさぁ大変してる首領ドンはなんかやだな……あと喋り方が鬱陶しい……」

「お嬢がでてきてこんにちは」

「もうやめよ?」

「はい」


 変わった日常はといえば、もちろん楽しい。

 何せ俺の記憶といえば、このころから薄暗い雲がかかりだしているのだから。


 始まりがここで、次で土砂降りといった感じだろうか。


 仮想とは言え、現実と思ってしまいそうなリアルな世界。

 そんな中、心はほぼほぼ快晴である。


 この頃は記憶でも特別わだかまりはないようだが、それでもうまくやって記憶以上に仲良くやってる家族。

 そして今回、最初の大きな躓きポイントだったろう後悔の回避。

 厳密には回避しきったとはいえないし、回避したからこそ生まれる問題も出て気はするだろう。


 それでも心が晴れやかで、やったこと自体に後悔も先の事にたいする不安もあまりないのは、やはりやってやったという興奮と、変えられたという実感と、俺という意思が結果を出したからだということ。成功体験万歳である。

 あぁ、鬱陶しい記憶が上書きされていく光景とは、なんと愉快なモノだろうか。


 記憶にヘドロのようにこびりつく後悔なんてものは、ないにこしたことはないのだ。それが自分と強く実感できないものならなおさら。

 現実もそうであったら、なんて感情がないとはいえない。が、ホラーみたいなオカルトでゲームでしかなくとも、これだけリアルで実感できる納得のようなものを与えてくれるのなら問題はない。満足感がある。これもこのゲームの狙った効果だったりするのだろうか。


「なんか悪い顔してる……悪役なんだ……」

「そういう君は三流ヒロインの風格」

「むー! いけないんだよ! ダメなんだよ! そんなの他の子にいったら泣いちゃうんだからね」

「自分は良いけど人はダメ! ダブルスタンダードなんだよなぁ……」

「だぶ……? すた……?」

「疑問なんだろうけど略称として合ってる奇跡を見た」


 少なくとも、現実の俺だってここで行動してさえいれば、このころよりほとんど深入りするような友人が一人もいない、広く浅くなんていう人生を大学まで過ごす未来にならずに済んだ可能性のほうが高かったのではないか。

 この後のあれで駄目になる可能性はあっただろうけど。それでもだ。


 でもまぁ、納得はできないがわからなくはないのだ。


 この芽依への件が、ずっと楔になってしまったのだろう。

 死を知る前にも、ずっと『あいつを助けなかった俺』とか『あいつは助けなかったのに』とかで行動を制限してしまう気持ちは想像はできる。

 『あいつはダメだったからこそ!』と奮起できる未来がこなかった理由も、まぁわからなくはない。そうなるならそもそも後悔の色は多少なりうすくなっているはずであるし。


 ただでさえ重くなっていたものが、この後の後悔で完全にとどめとなって堰き止め切ってしまった。

 そうして、行動という水が全部乾いてしまったのだろう。


 ……そう思えば、俺にとって重要度の高い後悔というのはことごとく少年時代に集中しているのだな。

 なんとも、運も悪く楽しくない人生を過ごしてきたのだろうか。

 そして事故にあって性格まで変わったと表向き字面だけ追えばもう、他人が知れば『こいつなんか間が悪すぎるな』みたいな評価をもらえそうだ。


「……? そういや、この先の山ってなにがあるだっけ」

「えー。知らないの? 言っちゃダメっていわれてるんだよ? ものすごく怒られるから、やんちゃな人もいかないんだって」

「やんちゃさんがやんちゃしてないのか……」

「閃いた! みたいな顔しないで」

「閃いた!」

「口にもしないで」


 記憶が体験として感じられなかったからか、そもそもほの暗い青春を重ねてきた記憶しかないからか、見るもの感じるものすべてが新鮮だ。

 新鮮過ぎて、色々戸惑いもあるにはある。

 今聞いた山の話とかもそう。なんというか、知らないような場所とか話とか噂とかがびっくりするほど転がっているのだ。知っていてもおかしくない、というか普通にこの町で暮らしていれば知っていそうな話も知らないとか、どれだけ俺はふさぎ込んでいたんだろうか。


「いったら、ダメなんだよ……?」

「わーかってまぁぁーす!」

「……あ、目をそらした。わかってない言い方と顔をしている!」

「へへ……冤罪ですよ、刑事さん」

「……きれいきれいになるんだよ?」

「それは洗剤ですよ。芽依ちゃんさん」


 気にはなる。いろいろと。山とか。復活している子供心とか刺激される。

 しかし、今それをする気はない。

 暴力ボンバー! みたいな脳筋で解決したとはいえ、いやしたからこそ、あまり問題を重ねる気はないのだ。


 それだけいったらダメと言われるからには理由もあるはずだし。

 特に山とかは危ない。怪我しそうとか、怪我じゃな済まないとか、そういうことが起こりやすい場所なりがあるという事ではなかろうか。

 廃墟的なモノにもロマンは感じる方だし、そういうものがあるかもしれないと思うと秘密基地欲みたいなものもでてこないとはいわないが、我慢は必要だ。


 せっかくうまくいっているのだから。下手な失敗はアホみたいだ。

 もし気になったら、これをやるところまでやってから、その気になった時にでももう一回最初からやればいい。

 こういう時にセーブができないのが悔やまれる。

 セーブロードが無限にできるならめちゃくちゃしてやるのに。それとも、そんなことを思うやつが多いからなんだろうか。没入感減っちゃう! 的な。没入感もいいけど、便利さも欲しいジレンマというか我儘。


「さー、今日は家で遊ぼうか。ちょっと曇ってるし」

「賛成です!」

「賛成でありますか」

「賛成であります! ……でも、今日も、啓くんの家がいいな」

「いやしんぼさんめ」

「いやしんぼさんなんて失礼なんだよ! ……いやしんぼさんって何? いちとには?」


 それに、ぶっちゃけ割と仲良くなっているから、下手に山とかに行こうとすると、このままだと芽依もついてくる可能性が高い。

 別に遊ぶのは問題ない。仲良くはしておきたい。いろいろな意味で。


 でも、前より仲良くなったからこそだろうか、なんか家庭環境的なものも見えてきてしまった。

 なんとまぁ、という感想。

 そうでないか、とは思わなくもなかったが、芽依は芽依で本当に順風満帆とは言えない家庭のようだ。


 まったくもって、どこもかしこも悩みの種というものは植え続けられていくものらしい。

 家族がいる限り、それによる問題というものは大なり小なりおこるものなのだろうが……


 正直、こればっかりは俺がどうこうすぐ解決するとかいう事はできないし、できると言い切る慢心は抱けないし、傲慢にもなれない。

 いじめを出鼻でぶっつぶす、みたいなものほど強引にできるものではないのだ。


 家族間あれこれというのは、特に不条理な感情に左右されがちなものでもある、という問題もあるから。

 下手なタイミングで下手なタッチをすると、こちらに敵意を抱かれるだけの失敗で終わるような逆効果だけ出す結果を残しかねない。

 そこまではまだ、詳しくは知らないということもある。前は知りようのない話だし。


 後は、身体的にすぐ死に直結とかしそうな虐待じゃないという事もある。そうならさすがにもっと行動しようとしただろう。

 助けて後悔無くなったとたんに別の側面からでもそうなるというのは、リスクが高くても意味が無くなってしまう。


 難しいところだ。色々と。


「お嬢様は何して遊びたいんですかぁ?」

「どかんカートでぼこぼこにする! 啓くん雑魚だから鍛えてあげるね!」

「はー? 誰が雑魚なんですか別に雑魚じゃないですちょっとゲームがうまいくらいで人を雑魚という心が雑魚なんじゃないですかつまり俺は雑魚じゃないですよむしろ強者です取り消してくださいね今の言葉」

「やーい、ちょー早口! ごめんね、雑魚じゃなかったね、啓くんはちょーアンダードッグですねわんわん!」

「こいつ……! 煽りばかり上手くなる……! ダブスタとかは知らないくせに……!」


 けらけらと笑う顔に影がないように見えるのは、一つ悩みが解決したからか。

 それとも、見ないふりをしているだけなんだろうか。


 それでも今はどうしようもない。ごめんというのこそ思い上がりだろう。なにもかもをすぐ様解決できるわけなどない。

 人の事を気にする前に、自分の事をしなければならない。


「……そーいえば、啓くんのお母さん病院にいったんだっけ……大丈夫?」


 会話の間が空くと、ちょっと聞きづらそうに、しかし顔と声に心配を含ませて聞いてくる。


「ん? あぁいや、大丈夫だよ。別に、病気とか怪我じゃないし。元気だよ」

「あれ? そーなの? じゃあ良かった!」


 病院といえば、怪我や病気というのは確かに連想しがちな話である。

 しかし違う。

 病気や怪我じゃないとわかった時点で、じゃあ何? と聞く風でもなく満足げな芽依は本当にただ心配していただけなのだろう。


 でも、俺にとっては問題だ。

 問題というか、安心はできないというべきか。


 わかっている。

 これは、解決するのは簡単だ。簡単のはずなのに、どうしてもさすがに簡単に考えることができない。


「まぁ、来年の今頃にはもう弟か妹がいるってことだね」

「え! そうなんだ! おめでとうございます」

「これはご丁寧に、ありがとうございます」


 道端でお辞儀し合う。


 弟か妹ができる。

 そう、弟か、妹ができるはずだったのだ。


 それを知ったということは、後悔した出来事がもうすぐそこに来ているという事なのだ。


 現実の俺は、一人っ子である。

 弟も、妹も、いない。


 今回は、ある意味芽依の事よりも簡単に回避できることだ。

 思い返して確認して、何度そう繰り返しても――現実まで尾を引く、身内事というのはさすがの俺も緊張を誤魔化すことはできそうになかった。

 もし他人に知られれば、芽依の時より結構な落差で緊張感が高いっていうのはクズ扱いされそうだ。

 しかし、他人と身内が違うのは当たり前の事だろう。


 家族なんて嫌い同士でも気にするところは発生しやすいのに、今回は特に仲良くしたからなおさらだ。

 いや、むしろ……俺として家族に関わった、俺が培ってきたものが壊れるかもしれないとくれば緊張しない方がおかしい。

 言い方はなんだが、事故って記憶が他人事に見える上、そうなった時には関係がアレだったのだから、一から知って育んでいったのだからある意味現実の家族より数倍異常愛着というものがある。これもリアルすぎる事の弊害だろうか。

 正直、やりなおしたらうんたらさっき思ったが、クリアというものがあるかないか知らないが、ゲームが終わったとしてもこのデータは割と消せる気はしていない。やるならもう一個買うとかする羽目になりそう。


 いやまぁ、でも、正直現実の家族でも緊張はしただろう。今ほどではないかもしれないにしても。

 でもそれは仕方のない事だ。


 最初から全く関わらず興味を持ってないような特殊な状態じゃない限り、関係をどうにもこうにも切り離しがたいのが家族というものだと、今はそう思うから。


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