開き直れるルート-1
→【開き直れる人間だ。】→後悔を解消する。
→開き直れる人間だ。
俺は運の悪い人間である。
何度か事故にあったことがある。そして大きく人生に関わるような印象的なものは、といえば二度。
一度目は、まぎれもなく不運といっていいだろうと思う。
しかし、二度目の大きな事故は俺にとって不運とはいいがたい部分もあると考えている。
二度目、大きく頭をうってしまったらしい俺は、それがどうさようしたのか性格が少し変わったらしいのだ。
なんというか、周りから言われるだけでなく、自分でも記憶からそれを判断できた。
思い出にある感情と、今それを見て湧き出る感情の差。
どうやら、前の俺はもっと後ろ向きというか、うじうじする性格だったらしく後悔が山のように記憶にあるわけだ。
俺はそれを他人のように見れてしまう。確か、問題なく治癒できたが、もともと脳に損傷があっただかうんぬんといっていた。きっと、その時俺は一度壊れてしまったんじゃないかと思っている。医者でも精神がどうとかは完全にはわからないものだろうし。そもそも、こういう症状があるとかめんどくさいからいってないし。
前の記憶は、なんというか馬鹿らしいと思うものばかりだ。
後悔するならやったほうが早いと思うのだ。
『俺』ならこうはならなかったのに、とずっと思ってきた。
だからこのゲームは最高だった。
押し込めてきたような俺が、開放された気分だったのだ。
短絡的と思われるだろう。
でも、ゲームだ。
最初は恐怖を覚えた。それは無理もない事だと思う。むしろ怖がらない方が異常だろう。でも、すぐに楽しめるようになった。楽しんだほうがプラスだとすぐに気付けたからだ。
いくらオカルト的で現実としか思えなくてもゲームなのだ。
それでいて、クソほどうさんくさかろうと人生をどうやら本当になぞってもいる。
俺の知ってるが、体験できなかったともいえる人生。
正直、これもそういう洗脳的効果かもしれないが、開き直って楽しもうと思ってからはオカルトだのどうだのは最初の数年でどうでもよくなってしまった。
全てもちろん抜けたわけじゃない。そこまで阿呆になりきれはしない。意識すれば今でもそら怖いっちゃ怖い。どうやって調べたんだとか調べてもこうはできないだろとかはいまだに思いはしている。
しているが、楽しいだとか嬉しいだとか、そういう単純で制御できない感情たちがそれを越えてくるのだ。
だって、俺がやりなおせるのだ。
ゲームとは言え。俺が。
だから結局、そこそこプレイしてからの感想といえばただ一つ。
やったぜ最高じゃん。
であるのもそれは無理のない話なんじゃないだろうか。
でもきっと、俺じゃなかろうが、事故にあわなかろうがそうじゃないかとも思う。
今の俺ならもっと後悔は少なくできた、なんていうのは、少し自分とは意味が異なるかもしれないが誰でも思うような事だろう。
そんなもの、楽しくなっても仕方のないことだ。
そんな俺の記憶に、いくつか起点といえるだろう大きな後悔の印がつけられている出来事というものがある。
今の俺から言わせれば、そんなもの『俺のせいじゃない』としか言えないようなものだ。
事故を起こしてある意味悟りを開いたともいえる今の俺とは違って、前の俺は無駄に自罰的で開き直れない人物だったのだろう。その棘が抜けたからこそ馬鹿らしく思えるが、そうでなければまぁ仕方もないかと納得できることでもある。
全てはありがちといえばありがちだ。
というか人間が持つ後悔なんて人間関係とかそういうのばっかりなんだから、そら後悔の記憶なんてものは箇条書きすればありがちにしかならない。
一つ、家族の事。
二つ、友人の事。
端的にいえばこれだけとも言える。自分の事、というに範囲が広いが、事故のような危険回避という意味で入れれば三つ? いや、自分に関わる事、でまとめると一つという雑なまとめかたもできる。
しかし、事故を起こしたのが高校生も後半になってから、と考えれば一つでも色々捻じ曲がっておかしくないことが二つも三つも高校生くらいになるそれまでにふりかかっていた、と考えればその辺は異常に運が悪いと我がことながら同情する。
そう考えるとやっぱりその事故は怪我した衝撃でよく覚えていないとはいえ……その事故にあって死にかけたらしいことを入れても……堰き止めていたものを取り除かれたように、悪く言えば開き直れるようになったというのは本当に不幸中の幸いだったと言い切っていいのではないだろうか。
その性格も元のように暗くならない状態で、今の俺がゲームとはいえこれだけリアルに見える中でやりなおせる。
もう最初からこうだったらというイフとまではいかないが、楽しい時間になることは間違いない。
→後悔を解消する。
「いってきまーす!」
「車に気を付けてー」
「はーい!」
現実からすれば実現不可能な、元気よくする挨拶に返事をする母の声。
「お、今日は少し早いんだな。日直とかか? 送ってやろうか?」
「いーよ、友達と待ち合わせしてるんだー」
「おー、そうか。気をつけてなー」
「お父さんもいってらっしゃーい」
現実からすればこちらもありえない、若々しく均整の取れた体に、慈愛を込めた表情で話しかけ送り出す父親。
非常にリアルだ。
むしろ操作しているという現実を思い出さなければ現実と等しいとっても大げさではない。
随分長々とプレイしている気もするが、全く体の疲れもない。
せっかくだからとずるずるそのまま続けることにして今はもうすぐ――時間は、最初の後悔ポイントに着々と近づいて、もう見えるところまで来ていた。
「……あ! 啓くんおはよ!」
地元の小学校への通学路、電柱にもたれかかるようにしていた女の子がこちらを発見して太陽のように笑う。
なんともまぁその表情は嬉しそうなものである。
その容姿がいいだけになおさら絵になる。ぶっちゃけ可愛い。子供というのは大人になれば信じられないくらい顔が変わってしまうパターンもある。しかしそれを加味しても成長しても多分美人に育つだろうなということがわかるくらいに整っているのだ。
いや、やりなおしている現在の俺はともかく、現実で小さいころの俺はよく仲良くなれたな、と思う。
性格もあるだろうが、話しかけるなどしたタイミングが良かったのだろうか。神がかり的だったか。幸運の女神が近くで観光でもしてたのかもしれない。
とはいえ、その幸運を自分から手放してしまったわけだから笑えない話。
いや……うん。割とクズな思考だとは思いつつ、本気でもったいないしガキの俺というのはそういう意味でも馬鹿で愚かだったなぁと思わざるを得ない。
子供のころの関係なんてものは少々のことで離れがちとはいえど、うまく関係を続けていく可能性だってあっただろうに。楽しい青春になった確率も上がっていたはずだ。
少なくとも自分から手放せばそれはゼロになる。
そんな彼女とのあれこれが、記憶の中に残り続けている最初の後悔であり、後ろ向きな俺を形成したきっかけでもあるだろう。
「おはよー。昨日言ってた本もってきた」
「ほんと! ありがとう!」
「ほんだけに?」
「ほんだけー?」
「ごめんなんでもないです」
「変なの! です!」
ある程度生きてりゃより深く実感するものだが、顔がいいというのは得である。
得であると同時に、やっかみも生む。
うまく立ち回れなかった結果、ともいえたのかもしれない。
「芽依ちゃんも難しいの読むよね」
「啓くんが言う事じゃないと思う。知ってるよ、じがじーさんっていうんだよ」
「二週目でないものにはわかるまい」
「……漫画の台詞?」
「ぶー、はずれー。後じーさんではない。若いので、よろしく」
「えー。じーさんじーさん」
「やめろよジジイとかいうの。口悪い」
「!?」
目の前で納得いかな気な顔をしつつも、やはり楽しそうな雰囲気を隠そうともしてない。
そんな、子供らしいといえる、明るい笑顔の森崎芽依という人間は――現実には、もういない。
死んだからだ。
最初の、引きずり続けていた後悔。その後悔が強く根を張ってしまった理由。
それは、小学生のころの友人だった存在が、死んでしまったという事実。
「二週目っていえば今日の体育はマラソンの練習だって。やだよね。ぐるぐる回るの。おもしろくないの」
「マラソンかー。芽依ちゃん体力ないもんね」
「違うよ。普通だもん。マラソンの練習でマラソンさせるのがおかしいんだよ。だってそれもうマラソンでしょ? 練習の本番を練習にするの? どういうことなの? わかんない。じゃあもう一回で終わって。終わらないとおかしいと思います」
「かーぷかぷかぷかぷ、愚かな言い訳かぷー」
「いきなりクラムボンのニセモノみたいに笑うのやめようよ……わかりにくいし、それだともう朝のテレビの怪人か何かだよ……」
このちょっと体力がないが運動神経が悪いわけでもない、周りより頭が少しだけ回っても天才でもない。
引っ込み思案というほどでもない。
そんな珍しさでいえばそこまででもないはずの少女が、数年たてば己で命を絶つのだといって、今誰が信じるだろうか。
いや、そんなこと言うやつも信じるやつも頭おかしいとしか言えないんだけども。
原因はいじめからの疲弊だった『らしい』。
らしい、というのは直接聞いたことでもなく、深くかかわり合いがその時にはもうなかったからだ。
「はー。啓くんみたいにみんな悪戯とか嫌ないじわるしないでくれたらいいのになー」
一緒に登校したいと言い出したのは彼女だ。
早めに行きたいと言い出したのも。
「ちょっとなー、やりすぎてるよなー」
そんなことをいうのは、我ながらわざとらしいと思う。ちょっと笑えてきてしまう。
後悔の内容といえば、まぁなんてことはない。ありがちといえばこれもありがちでしかない話なのだ。
色々原因はあったんだろう。いじめなんてやるやつはどんな理由でもやるものでもある。
最初は小さなからかいから、玩具のようにいじられる、それが集団でやることによって増長していく。
ありがちな話だ。やる側はいじめとか思っていない所から始まるのだ。
特にガキなんてのはそのころそういうのをからかうやつが出てきがちだ。一緒にいるだけで夫婦だなんだ騒ぎ立てる漫画にでてくる頭の悪い馬鹿ガキみたいなのは、そこまであからさまでなくとも現実にもいるものだ。
異性と仲良くしている奴をなんかよくわからん嫉妬なり意地なりで排斥もしがち。
明らかに逆効果でしかない、好意からの意地悪という名の嫌がらせだとか。
思うに、俺を含めて当時後々よりひどいいじめのきっかけとなったことをやりはじめたクラスの人間に、例えば将来大きな犯罪をいかにも起こしそうな悪人、だとか、当時から悪知恵が特に働く悪童らしい悪童がいた、ということはなかったと思うのだ。
俺と同じクラスのころは、そこまででもなかったはずである。
――その流れが、止まらなかったどころか加速してしまったらしいだけで。
「……でも、啓くん大丈夫? 一緒にいて、仲間外れにされてない?」
そこにあったのはただの子供らしい残酷さであり、愚かさであっただけなのだろう。
そして、運がなかったということだろう。
そこに、無駄に正義感を発揮しちゃう類の奴も、頭が回るだろう奴も、お人好しも、勇気をもって行動できる人間もいなかったこと。
そういう自我らしい自我も育ってなかったんだろう。子供だったのだ、そういう意味でも。
当の本人は、助けられたことをありがたがるより心配してしまえる心を持っていたのに。
「大丈夫だよ。なんてこともない」
「……そうなの?」
「そうだよ」
「……そうなんだ?」
「山で迷ったのかな?」
「そうなんじゃない?」
「そうなんか」
当時の俺は、ただただ同じように排斥されることが怖くて馬鹿にもその手を払ってしまった。
握り続けることも、ひっぱりあげることもできなかったししなかった。
その結果疎遠になって――いつの間にか死んでいた。つまり、死んだことさえ後で知る程度。
それが後悔の棘を完全に埋め込んで大きな傷にしてしまったということだ。
「お嬢さん、なんで満足気な顔なんでしょうか?」
「なんか楽しかった! 頭よさそうとーくだったと思います」
「そうでもなかったし、その発言は頭悪そうなんですけどそれは」
まぁ、現在の俺からすれば何をそこまでといいたくなった。
いや、確かに揶揄され、的にされたり外されたりしたら嫌だからと手を離したわけではある。
それで結局当該の人物が自殺しているとくれば、もし他人から聞けば俺だって『クズだなー』とか思わなくもない。
けれど、そこまで批判されなければいけない事だろうかとも思うのだ。
そら助けることができれば一番いいだろうさ。
けど、怖さを覚えることだって間違ってはいないはずなのだ。他人事に無責任に強くあれと押し付けることは楽しい事なんだろうが、誰しもそうあれるならそもそもいじめ自体起きてないのだから。
何より小学生くらいの子供である。
自分の危険を顧みず助けることは尊いといわれることかもしれないが、自分の事を守ろうとすることがイコール愚かというのはちょっと暴論にすぎると思う。
そら、それこそ他人事だからいえることでしかない。
そして、誰が『怖くなったから助けもせず友達もやめちゃいました』で、その人物が死ぬことまで予想できるというのだ。
むしろそんなことまで考えて生きている子供のほうが異常だろう。
それを言い訳とか言い出すのはそれこそ感情論にすぎる。
なによりあほらしいと思ったのは、『死んだのは自分のせいである』という気持ちだった。
一応自分の事ではあるが、感想としては『そんな馬鹿な話があるかボケ』としか言いようがない。
全く影響がなかっただろうとはもちろん言わない。
しかし、それだけで手を振り腹立ったその後の展開まで自分せいなんて思うのはそれこそ傲慢というもの。
ただ、繋がりが切れたと思いたくないだけなんじゃないか。
引きずっている自分に酔っているといえば言い過ぎだろうが、自分の事だからまぁいいだろう。自分の事ながらちょっと他人事のようにも思えるからこその意見でもあるかもしれない。
ともかく。
「……でも、でもね、本当に、私は大丈夫だから。嫌だなと思ったら、助けてくれなくてもいいよ……誰もいない時とか、お話ししてくれたら嬉しいけど」
「えーうぜー」
「え、え、その返事の返事は準備してなかった……」
「だって、そんなこと言いつつヘルプくれよ! って目で見るんだろ。俺は詳しいんだ。そんで助けなかったら味方撃ちするんだ。間違いないんだ」
「うー。我慢するもん」
「ぶりっこか」
「おつけものじゃないもん」
「いぶりがっことはいってな……遠いな? 遠くない?」
オカルトでもなんでも、これが
そのチャンスが確かにここにあるのだから。
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