Play『MyLife.』 ing
ほんのり雪達磨
→【スタート】→
『MyLife.』というゲームが出た。
キャッチコピーは”あなたの人生を
なんてことはないはずの、タイトルもキャッチコピーも下手すればなんか滑ったと思われかねないようなもの。
発売前の宣伝もあまりないような、目立たないゲームで終わってなんら不思議はなかったはずのもの。
専用のVRゴーグル必須であったりすることも、それに拍車をかけるはずだったのだ。
なのに。
知っていたものたちの予想に反して、とぶように売れた。いや、売れている。
ただ、その内容はヒットしているのにも関わらず、微妙な感じにしか漏れてこない。
その内容は曰く『信じられない』『恐怖すら覚える』。
細かいところは『話すことには意味がない、プレイしたらわかる』。
『しかし、やめることはできない。できそうにない』。
くだらない。
そう吐き捨てる人も多い。それはそうだろう。とても胡散臭い。
なのに、現実に売れているっぽいのも事実なのだ。
みんなして、騙されているのだろうか?
騙され続けている? それだけのはずがあるんだろうか? そういう思考が詐欺に引っかかるという事なんだろうか。
そもそも内容はどうした。そっちの情報はどうしたんだという話で。
それにしたって、俺にはそれを買える程度の金があった。興味があった。好奇心もある。
興味本位。
ゲームは好きだし、話題にもなっているから。
騙されているのにしたって、こき下ろすためには実際プレイせねばならない。してないゲームをこきおろすのは下劣である派としては、プレイもせずに文句を呟くことはできないのである。いや、プレイしてもネットでこき下ろすなよ、という話ではあるのだが。
元より見て満足する派ではないにしたって、実況等もかけらも見つからない不思議さ。
配信不可ならともかく――今の時代、平然と『知らなかった』と嘯いてやる馬鹿の一人や二人はいそうなものではあるけど――どうにも、制限もされている様子はないらしいのにいないというのは、不思議でしかない。
より正確にいえば、したというか、しかけたものはいたらしい。らしいが、アーカイブすら残っていないから眉唾である。
見たものがいうには、『あ? なんだこれ』とか『いやいやおかしいだろ……』とか、どうにもすぐにかなり戸惑ったような声が聞こえた後に、何もいうことなく焦ったように遮断してしまったらしい。
だから、そう。
自分でやってみるしかないのだ。
そう思ったから買ってしまったのだ。買えてしまった。
爆発的に気持ち悪いくらい売れているらしいのに。
売り切れ等がほとんど発生せずに発注すればほぼ確実に買えてしまえるらしいところがこれまた怪しいが、できないよりましなのでそこはいいとする。
俺は自分に優しいのだ。甘味料ドバドバなのだ。
とダメ人間めいたことを思いながら色々セットをし終わった。
「中途半端だけはやめてくれよ」
呟きながら、ゲームを起動する。
大学最後の夏が、もう終わる。悠々自適の、しかし今現在は呼ぶ彼女も存在しない寂しい独り身の一人暮らしも。
いや、一人暮らしなところはこれからも変わんないんだろうけどさ、実家に戻ってもって話になるし。
どうか、クソゲ―だろうが笑えるくらい極端であってほしかった。話の種にしては高いが、どうかしばらく笑い取れるくらいには芽吹いてほしい。割と高くはあったんだから。
なれない感覚。
正直今までVRにかけらも興味がなかったものだから、少し戸惑う。
そう、VR初体験なのだ。初VRが胡散臭いゲームというチャレンジャーだった。
「割と、すごいな」
思ったよりも臨場感があるというか、現実味というか。そういう
上下左右真っ白い背景に、My Life.とだけ銘打たれている。浮ているといえばいいか。どうせなら、素晴らしい環境映像でもみてからにすればよかったと少し思う。特注品だけど、他のアプリが使えないこともないみたいだったし。VRというものをなんだか低めに見てたせいで、割と感動するという感情をこんな胡散臭いゲームで消費してしまうとは。
とはいえお得意の後悔ばかりをしても進まない。
浮かんだタイトルの下には、多くのゲームにあるような『ボタンを押してください』という文言が点滅しながら浮き沈みしている。
ゲームのタイトル画面としては嫌いではない。
目が痛くなるようなきらびやかなタイトルよりは、個人的な好みにはあっている。
ゲームのタイトルはシンプルでいいんだよシンプルで。
スタートボタンを押下すれば、メニューが現れる。
『あなたの人生をあなたのままもう一度最初から』『記録から読み込む』。
この二つだけだった。
「んー……? 設定は? オプションどこよ? いやタイトルすらないのもそらあるけどさぁ……これは初っ端クソゲ―臭するなぁ……チュートリアルスキップできなかったり、メッセージが飛ばせなかったりするゲームは嫌いなんだよなぁ……チュートリアル終了までオプションいじれないソシャゲとか本当嫌いだわー」
音量とかの設定すら許さないとばかりに、そこには何をいじることもできない現実があった。メニューがあるだけましだと言わんばかり。
他のゲームの不満事思わず口からはみでる。関係ない愚痴ごと出る。
「やっぱ内容が漏れてないのは『お前も犠牲になるんだよぉ!』ってことだったかなー。同じゲーマー同士は仲よくしようやぁ……そういう仲良くの仕方じゃなくてさぁ……」
溜息。
確かに、おもしろくないならいっそネタになるくらいのほうがいいと思っているとはいえ、面白いに越したことがないも事実。
それはそれでいいと思うしかないな、と言い訳で自分を説得しながらニューゲームに該当するのだろう『あなたの人生をあなたのままもう一度始める』を選ぶ。長いよなこれ。タイトルシンプルだからこそなんかちょっと嫌。
「普通にニューゲームでいいと思うんだよな。こういうの。はぁぁぁ。
あなたの人生を読み込んでいますって、ロード画面にしても糞寒いなぁ。長いし」
始まる前から不満があふれ出てくる。温泉を掘り当てた如くだ。
黒背景に、それだけの文字が表示された簡素なロード画面。もうなんかシンプルっていうより手抜きにしか思えなくなってきた。
「……いや本当に長くね? 長すぎなのでは? はーつっかえ」
そして本当に長い。
人によっては、フリーズを疑ってやめたり、嫌になって止めてもおかしくないくらいには。
あとこういうのは『ロード中』か『読み込み中』でいいんだよ、と個人的に思う。奇をてらうと、内容が拍子抜けなほど滑るのだから。
ゲームにしたって他の創作にしたって、そりゃあ雰囲気というのは大事な部分だけど。
でも、ゲームというのはどうしたってゲームの部分だって重要なのだ。
特にロード関連はそれだけで不満を持たれやすいというのに。いちいちいいところでロードを挟まれてみろ、それだけで色々台無しになる。
「ロードを楽しむみたいなロードゲーはマジで勘弁しろよ……」
近くにあるエナジードリンクを手探りでうまくつかんでどうにかこうにそのまま飲む。
難しい。
かぶってるものを外せばいい話なのだが、なんだか悔しいのと面倒くさいのと。
「おぼ?……お?」
最中に画面が変わるものだから、変な声が漏れた。缶に空気とちょっと中身が戻る。汚いが俺しか飲まないのだ、問題ない。
『あなたが生まれました』
ようやっと読み込んだ画面にそう表示されて映し出されたのは――しっかり表示される文字に反比例するようにぼやけた風景。
視力を落としていけばこうなるんだろうか? といったような。
そんなもの、見づらいだけでゲームでいきなりそんなものを見せられればイラッと来てもおかしくないはずのものだが――どうしてか、泣きたくなるような懐かしい気分が沸き上がる。
覚えていないはずなのに、知っているような不思議な感覚。
VRゲームのはずなのに、まるで本当にそこにいるかのような錯覚に包まれる。
空気感すら。
臭いすら。
触覚も。
そして、それを不思議だと思いながら――異常だとは思えない。
「……赤ん坊視点ってことなのかな? にしたって、ゲームなんだから融通利かせろよって思うけど……ってこれ、喋るのが鳴き声と連動してるのか?」
残った理性か、それとも恐怖か。
呟くと、『俺』が泣いた。連動しているからなのか、自分が泣いているような不思議な気分。
「そいや、名前も決められないのかな……? 俺の本名に自動的になっているのか? 自分の人生だけに?」
購入する前に、ネットで注文する際に名前とか住所とか、そのほかもろもろメンドクサイアンケートの類を答える必要があったのは確かだ。
そこが胡散臭さに拍車をかけていたわけだけど、それは今はどうでもいい。
ひとまずは様子見だと、ぼんやりした視界を動かして眺めてみることにした。
そうしていると、変な気分になっていく。
ちょっとはなれてきたVR。それでも不思議。
VR技術は視点によるものであって、それだってまだ完全というものでもない、はずだ。
漫画とかアニメとか、映画等でみるような全身の感覚事没入できるという技術ではないのだ。
ないのだけど。
やはり――何か、温かさのようなものを確かに自分は感じていた。ありえないことだと、そう思いながらも、完全に否定できはしない感覚に包み込まれている。
「あー。うん」
まるで、本当に――赤ん坊になって。小さくなって、揺られている気持ち。
何度否定したって、感情は湧くし、どうしてか奇妙に落ち着いてしまう。
ゲームとしては、とてもつまらない状況のはずなのに、止める気にならない。
そこに、愚痴は口から洩れようが、大きな不満が湧きだしてくるという事はないようだった。
「確かに。これが全員感じられるものだとしたらこれだけで凄いなぁ……というかなんだこの技術……技術? 技術でいいのかなこれ。そういう範囲で収めていいやつ? なんか、オカルトくせぇよな……」
言葉を喋れないからか同時に『おうおうあうあうあ』意味不明言語を話している自分にしては幼すぎる声を耳にしつつ、誤魔化すように独り言をつぶやき続ける。
もしかすると、自分は今とんでもないものにふれているかもしれない。
などと思うのは思春期の妄想っぽい。
なんだか少し笑えてきて、はははと笑うと、『俺』もまた、きゃらきゃらと笑い声をあげた。
ゲームをしていると時間感覚が無くなる時がある。
それをもちろんゲームを何作もしていれば俺も体験しているわけで。
しかし――ゲームの中で時間がすっとばされれば、それがわからない、なんてことはありえないわけで。
「頭おかしいわ」
ぽつり、と落とされた言葉は誰にも回収されず風に溶ける。
おにゃし、と言葉にならないような言葉に変換されて画面の『俺』の声が聞こえる。
ゲーム内時間にして、1年近くは経過しているのではなかろうか。
もちろんというか、1年間プレイしていたわけではない。リアルタイムっぽく進んでいるように見えるのに。
――なのに、飛ばされた気がしないのだ。
なんというか――現実で、一日があっという間にすぎた、みたいな感覚でしかないというか。
あっという間に過ぎたなぁという感想を抱きつつ、確かにそれが現実だったのはわかっているような感覚というか。
ゲームで体験するにはありえない感覚。
そして。
『お腹空いたのかな? ご飯食べますかー?』
今だよくわからない言語にならぬ言語を放つ『俺』――息子を抱える母親。
それは、現実と多分造形的には同じ顔をしていた。
とはいえ、もちろん『今』とは違うし、より若い。
――直接見たこともないし、見ることはでき無いはずの親の姿。でも確かに違う人間ではないとわかる面影がある姿。映像でみたものと合致する。
「ゲームなのに? ありえるかよ、こんなこと」
『げーにゃこん』
『げにゃこん……? こんにゃくたべたいのかな……?』
おっとりとした調子で喋る母親。
ホームビデオをVRで見ているわけではないのだ。
これは、ゲームだ。
ゲームというもののシナリオというのは決まっている。
各個人に合わせるなんて、そんな。
「赤字がどうとか、そういうレベルじゃない。どうやってるってんだよ……やれても犯罪だし、やれないだろ。ほんと、オカルトとしか言いようがない」
『あかにゃい』
『あかない……? あか? お絵描きしたいのかな?』
曰く、『信じられない』『恐怖すら覚える』。
曰く、『話すことには意味がない、プレイしたらわかる』。
いくつも見た、胡散臭いとしか思えなかったそんな前評判は、嘘ではなかった。
進めることにためらいすら覚える。
アンケートで答えたことからデータをつくった?
調べて?
一人ずつ?
そんなことがありえるか?
コストに見合わない。
人生。
人生をもう一度。
比喩だと思っていた。
実際はキャラがいて、そのやり直しを体験するみたいな。
他のものになる、という意味ではなく。自らの人生?
一人一人を調べたのか?
一人一人、答えてから?
そんなことに何の意味がある。そんなことできるわけがない。
両親だけではない。
場所も、おそらくといった程度の範囲しか確認はできないが、それでも引っ越したもともと住んでいた場所に違いないように思う。
思えば思うほどに、ぞくりとするのは止めることができない。確かに、これは恐怖感が強い。
これをつくったやつらの得体が知れないという意味で。やってて大丈夫なのかという意味でも。
ただ、なんというか、今すぐゲームを止めようとは思わなかった。
都市伝説とかだとこういう好奇心で続ける奴は死亡フラグたちそうなものだが、抑えきれるものではなかった。
あらさがしをしてやろうとか、そういう底意地の悪さのようなものもある。
限界があるだろと。
文句を言ってやるのは、それからでも遅くはないのだとか。作られた後なんだからやめたって同じだとか。言い訳のように次々思った。
人生はロードもセーブもない、難易度も選択できないクソゲ―、みたいな意見がある。
このゲームもロードはできても、どうやら自動セーブしかないようで、セーブロードでやりなおしとはいかないようではある。いや、やり直しげーでその中ではやり直しができませんってどういうことだ、とは思うけど。ニューゲームすれば上書きできるタイプ? 説明書くらいはつけろよマジで。
それでも、普通はできない人生というゲームの強くてニューゲームを、せっかくなら楽しませてもらおうじゃないか。
最終的に、ゲームとして、もう一度本当に人生を追体験させてくれるっていうのならやってもらおうじゃないか、と誘導されでもされているのかというように、するりと思ってしまったのだ。
*あなたは
→開き直れる人間だ。
開き直れない人間だ。
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