第26話 それぞれの反省会
ふぅっとソファの上から女性2人が消えて、部屋にいた男達は思わず息をついた。
「いきなりお還しするとは思いませんでした。もっとお話したかったのですが」
「すまない。怖かったから、つい」
名残惜しむソルにサンクトスが謝っていると、意外そうにアロールが言った。
「いつものお前とそっくりだったがな」
「え?」
エストも続ける。
「よくエリカが言ってた、ホラ『黒天使』だっけ? そう呼ばれてる時のサンクトスも毎回あんな表情だけど?」
「は?」
「あれを可愛いとか、エリカの感覚は俺には理解できなかったが、やっとわかったぞ」
うんうん頷くムトゥに、サンクトス以外の皆が同意する。
「チヒロとサンクトスは似ている」と。
「本当に? さきほどのアレと私が?」
「顔や形ではなく雰囲気がだがな。エリカがサンクトスに懐いたのはそのせいもあるのだろう」
「私はあんな表情をしていたのか……」
「まぁ今回はかなり怒っていたみたいだけどね」
「怒るのも当然でしょう。幼い頃から大事にしてきた愛し子が、こちらで大変な目にあい、あまつさえ大事な時に疲れて眠っているのですから」
言われてみれば、自分の大事な家族が牢に入れられ指名手配され、犯罪に巻き込まれたあげくに裏家業につけと言われたら、確かに怒りを覚えるだろう。そのせいで自分の一生に一度のセレモニーに参加できても疲れ切っているとなったら。
「……今回のことも含めて、これからは誠心誠意努めよう」
サンクトスは神妙に頷いた。
なにしろ相手は神の贈り物を消す異能者。破壊神と言ってもいいくらいの存在だ。
「そうだね。次回の召喚にはチヒロも喚ぶ事になるだろうしね」
「ぜひ喚んで欲しい。仕事の効率が明らかに良くなる」
「さっきの感じだと、エリカに会えるとなれば喜んで来てくれるだろうよ」
「またお会いするのが楽しみですね」
「……そうだね」
確かに、能力を発動していないとわからない『判別』よりも、見るだけで持っている能力がわかるのならば、はるかに効率が良い。
チヒロとムトゥで組んでもらえれば抜けもないだろう。
良いことのはずなのに、サンクトスはなぜか身震いした。
※
早崎千尋は怒っていた。
楽しみにしていたえりかとの久しぶりの夜が、異世界の話で埋まったのは、精神的にそこまで追い込まれたのかと心配したけど実際に異世界に来ていたとわかったから、まぁいい。
その話に出てきた自分は見ていない服を、どうしてカメラかなにかにおさめてくれなかったのかと思ったのも、まぁ我慢できる(絶対に再現してみせる! と決心はしたが)。
腕の中で安らかな寝息をたてるえりかに、そっと囁く。
「私はこの機会に、えりかに告白してフラれる予定だったんだよ」
ずっと気づかずに抱えてきた想いを、思わぬ事で気づかされて以来、苦しいままだった。
手放したいのに自らはとても動けなくて困っている時に、先程、式を挙げたばかりの夫と出会ったのだ。
会社の飲み会の飲み直しに二人で抜けた時(今思えばすでにこの時から、お互いピンとくるものがあったのかもしれない)、結婚話を両親に反対されていると聞いた。そこで千尋も、具体的な内容は明かさないまま「片想いが辛いので物理的に離れたい」と語ったら、「ちょうどいい。取引しないか」と返ってきた。
夫はすでに男性のパートナーがいて、家族や世間体のために理解ある女性パートナーを探していた。
千尋が求められたのは、結婚相手のふりをして海外で暮らすこと。
もちろん手を出されることはないし、部屋も、なんなら家も別だ。
酔っていた千尋には、それはとてもいい考えに思えた。
もし自分が結婚すると話せば、えりかに変化があるかもしれない。
変化がなくとも、この想いにケリをつけるために、自分から告白すればいい。
万が一にもないだろうが、えりかも同じ気持ちなら、えりかも夫のパートナーと偽装結婚して海外で二人で暮らせるのだ。
十中八九フラれて会わせる顔がなくなるだろうが、千尋はもう海外で生活するのだから問題ない。
そばにいなければ、ゆっくりと忘れられるかもしれない。
このしんどい現状維持を続けるよりも、全然ラクじゃないか。
でも、最後くらい昔のようにゆっくり話をしたかったので、早めに呼んだ。
二日間はえりかの家で過ごしていた時のようにまったりして、結婚式前日に告白しよう。
うまくいってもいかなくてもいい。ここで踏ん切りをつけようと思っていたのに。
「まさか異世界にとられるとは思わなかったよ」
ほんと油断も隙もない。
会社の男どもには今まで牽制してきたので、えりかがその気にならないだろうと安心していただけに、世界を超えた横やりには驚いた。
えりかの話によると、検証の結果、一度『召喚』された人物は召喚者にマーキングされるので、狙って同一人物を召喚できるらしい。
自分がもらえた『異能消し』はどうやら貴重な異能のようなので、おそらく次からは千尋もえりかと一緒に喚ばれるだろう。
「ふふふ」
自分はまだ諦めなくていいようだ。
神様にチャンスをもらったようなものだ。
それならこちらも遠慮はしない。
「私の邪魔をして、勝手にプロポーズした報いは受けてもらうからね?」
世界を超えて寒気を感じたサンクトスだった。
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