第13話 ②お屋敷に潜入します
脱ぐのは円盤で一瞬なんだよね。
着るのも一瞬でできたらいいのにって思って試したけどできなかったので、早着替えといえば重ね着ですよ!
イチゴチョコ甘ロリの下に見えないように折り重ねて着ていたメイド服のしわを円盤で伸ばす。さすがにゴワつくので下に垂らしていたエプロンの上半身側を持ち上げて身に着けて後ろ手に蝶結びし直す。はいていた編み上げブーツを円盤でシークレットブーツのように底上げする。ツインテールにつけていたイチゴチョコリボンは服と一緒に外れたけど花束はそのままなので、花束を外す。ツインテールをまとめてメイドキャップの中に隠すと、私はすっかり160㎝付近のメイドさんになっていた。
イチゴチョコ少女には似合っていなかったキツい化粧も、この姿ならちょうどいい。もともとこの
メイク道具を持ち込んで化粧を直しても良かったんだけど、ただでさえ二重に服を着ているから、道具はもう隠し持てないし、メイクを直す時間が惜しいのでこうなった。
勝ち気なメイドさん、いっちょ上がり~。
高さが変わった靴で転ばないように気をつけながら、きびきびお屋敷の裏口へとまわる。
「シェヴィルナイエ家からお手伝いで来ました、エリーです」
エプロンのポケットからアロール様直筆のお手紙を出す。
最初はお屋敷のメイドになりすまそうと思っていたんだけど、花祭りでは人手がいるため信頼できる家からメイドのお手伝いが呼ばれると聞き、お手伝い枠に入ることになった。
お手伝いだと、どこの家の者かわかった方がいいからか、本来の家で使用しているメイド服のままで良かったので、私が着ているのはすっかり見慣れた葡萄茶色のメイド服だ。
メイド姿の私は、アロール様に推薦されてホルシャホル猊下のお屋敷にお手伝いに来たメイド、エリーということになっている。
お屋敷のメイド長が手紙を確認すると、身分証明の小さな円盤をピンバッチのようにメイドキャップに付けてくれた。
「助かります。すぐにこの子と一緒に入って」
「かしこまりました。若輩者ですが、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくね。リリアンよ。さぁ行きましょう」
リリアンちゃんは15~17歳くらいかな? 口元にあるほくろが
花園の給仕希望者は多いから足りてるらしいんだけど、お屋敷の方は人手不足なのだとか。
高位貴族の方は花園に直接行かずお屋敷から花園を眺めるので、お世話するメイドは大量に必要なんだけど、信頼できる家からのお手伝いしか入れられないからだ。
そんなわけで花祭り当日は、本来のアパータジョ家のメイドと派遣メイドの2人組で仕事に当たる。
お茶を出して片付けて、休憩室のセッティングと片付け、呼ばれたら行って用事を聞いて、って、なんかこれ、旅館の仲居さんのお仕事みたい。
座る暇もないけれど、これでお仕事をしながら堂々とお屋敷の地図を埋められるって寸法ですよ!
このために散々メイドさんたちの仕事に密着してきたんだから、バリバリ働きますよー!
「シェヴィルナイエ家の服って可愛い。でも、脇にあるってことは実用ボタン? 着るの大変じゃない?」
実用ボタンというのは、飾りボタンじゃないボタンのこと。
この異世界には万能円盤があるから、ファスナーが開発されていなくとも似た止め方ができる。だからボタンも飾りに使うだけで、実際は円盤で止めていることが多い。本来のボタンとしてボタンを使用している方が珍しいということに、服飾師さんから聞いて私もびっくりしました。
あと、このお屋敷で仕事していて初めて気づいたんだけど、この世界のメイド服はバラエティに富んでいた。共通するのはロングスカートと白いメイドキャップ、白いエプロンなだけで、すれ違う派遣組のメイド服はそれぞれ色も形も全然違う。
後から天然天使ソルさんに確認するけど、おそらく白黒服はソール神の御使いを思わせるから、少女に着せるのはNGらしく、白黒メイド服だけは皆無。だから色は汚れが目立たないように黒に準ずる色になる。各家で色や形が違うのは、有名校の制服的な感じかと思われ。「見て、あのメイド服は○○家よ」みたいな。それで各家で特徴的なデザインを極めていったんじゃないかな。
ちまちましたボタン多めの白ブラウスと、さらにあちこちにくるみボタンのある葡萄茶色の変則ジャンパースカート、白フリルメイドキャップに、白フリルエプロンがアロール様のいるシェヴィルナイエ家。
メイド服にブラウスも珍しいけど、なんでこんなにやたらとボタンを多用しているのか、エニィちゃんに扮した時にメイドさんたちに聞いてみた。子ども相手だからと濁していたけど、察するに、ボタンの多さにアロール様が萎えるっぽい。あー、うん。引きちぎらない理性があるだけマシかもね。
「着るのに時間がかかるので大変ですけど自衛のためですから。アパータジョ家の服は素敵ですね」
「えー、そう? なんか地味じゃない?」
「とんでもない。とても上品で素敵です。猊下のお屋敷にふさわしいと思います」
メイドが着ているからメイド服なんだけど、ホルシャホル猊下のいるアパータジョ家のメイド服は、ソール教の女性祭服の色違いらしい。私には昔のナース服みたいに思える。
フリルやレースがないシンプルで上品な濃紺のワンピースは、正面に一列飾りボタンが並んでいる。白い付けエリと付けカフス、その上に飾り気のない直線的なエプロン。ナースキャップのようにカッチリとしたメイドキャップと、すごく堅実そうだ。オーソドックスな本来のメイド服っぽい。
ただ、リリアンちゃんみたいな妖艶さで着こなされると微妙な気持ちになるのは、私が煩悩まみれだからだよね。ごめんねリリアンちゃん。
「あははー。だったらいいんだけどね」
「?」
「エリーはあの将軍様のところにいるんだから、大丈夫かな」
「猊下は厳しいということですか? 私は猊下をお見かけしたこともないのですが、どんな方なのでしょう?」
「……自分のことをカミサマだと勘違いしてる人、かな」
え? それはかなりヤバいのでは?
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