第5話

 問題なくコボルト狩りを終え、俺は村へと戻ってきていた。


「ちゃんと倒したらしいな。ほら、報酬だ」

「どうも」


 倒した証拠は持っていないが、内部データか何かでカウントでもしていたのだろう。衛兵は俺の達成報告を聞くとすんなりと報酬を渡してくれた。


「苦労はしなかったか?」

「全然、むしろ足りないくらいかな」


 こちらは相手の攻撃に合わせて回避、もしくは弾きパリィでもしてやれば相手の攻撃を受ける事はまずない。試しに数発わざと殴られてみたものの、敵陣のど真ん中で眠りこけない限りは死ぬ。という事は無さそうに思える程度の威力の攻撃しか無かったのも確認済みだ。


「それならよかった。ちゃんとポーションや薬草を買いそろえておくと良い」

「分かってるさ。というかそういうのは依頼を受けた時に言ってくれた方が助かるな」

「はは、悪い悪い」


 本当に悪いと思っているのか怪しいが、衛兵は豪快に笑い飛ばして見せる。


「そういえば……気になったんだけど」

「どうした?」


 何気ない事ではあるものの、ふとした疑問が頭をよぎる。


「俺以外にこの村で魔物討伐で食っていこうってヤツ、いない?」

「いや、いないな」

「そっか、ありがとう」


 ゲームには協力プレイがあるものが多い。それにこの世界が俺にとってだけ特別なのか、他にも転生者がいるのかはハッキリさせておいた方がいいだろう。

 衛兵のもとを離れ、適当な買い物を済ませながら自宅へと向かう。


 この世界だが、基本的にはゲームの都合のいいところが現実となっているのだが、どうにも空腹だけは解消できなかったようで、何気に食費の出費がある。

 魔物の討伐以外にも皿洗いや、店番など普通のアルバイトのような仕事もあるが、こういった世界でそれをするのはどうにも惜しい。


 買ってきたパンにジャムを塗りながら、アテナへと語りかける。


「アテナ、この主人公補正ってスキルって……具体的にはどんな効果なんだ?」

「そうだね、全体的なステータスの大幅補正に加えて、そのスキルを持っていない人が比較的都合がいいように動いてくれるようになるかな」

「他にその……プレイヤーみたいなスキルを持ってるやつって」

「いるよ、新しい世界に君しか招待しないって事も無いからね」


 アテナの発言に不安を感じてしまう。


「プレイヤー同士でやり合った場合って、主人公補正は?」

「どっちも働くよ、もっとも、HPが0になれば死んじゃうけれども」

「って事は、対人もあるか……」


 アテナの言葉によって不安であった要素が確定で存在すると発覚してしまった。


「もしも不安ならレベルを上げておくといいよ、1レベル上がっただけじゃあ誤差だけど塵も積もればって言うからね」

「レベルで殴るか……なるほど」


 衛兵も言っていたが、レベルに大きな差があれば余程のことが無い限りは技量だけでねじ伏せられるという事もないだろう。人によってこれは欠点と言えるものにもなるが、レベル制を採用する上でどうしても発生してしまうものであり、極端な例を除いてむしろこれが出来なければレベル制である必要もないだろう。


 となれば、今俺が調査するべき事は程よい狩場を見つけるか、効率の良いリピート可能な依頼を探す事だろう。


「もしも人を殺した場合ってどうなるんだ?」

「どうなるって……相手が死ぬだけだけど」

「そうじゃなくて、デスボックスが出たりするもんなのか?」

「その人の所持品はフリーになるはずだよ、まあ追いはぎは可能だね」


 そういった事をするヤツが主人公補正と言うスキルを持つのはどうなのだろう。


「もっとも、それでそいつが勝つならそいつの物語ってわけさ。悪役が主人公っていうのもそう珍しい話でもないでしょ?」


 アテナが俺の表情を読んだのか、それとも偶然なのかは分からないが言葉を続ける。


「そもそも人生なんてのは本来、それぞれが主人公なわけだしね。あんまりそのスキルの名前に固執しすぎない方がいいよ」

「分かってる。気を付けるようにするさ」


 部屋の明かりを消し、俺は眠りへと落ちて行った。

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