第6話

 この世界に来てから一週間程経っていた。

 狩場と呼べるような敵の密集地は見つけられてはいないが、森の中を歩き回ったおかげで、狩りのための巡回ルートを作る事は出来ていた。


 コボルト、スライム、ゴブリン、ウルフ。この辺りに生息する魔物達を片っ端から切り伏せて行く。

 レベルが上がってもHPは全回復せず、攻撃力や防御力も目に見えて上がるわけではないが、それでも着実に力がついているのは実感できるものであった。


「よっと!」


 剣を振り下ろす瞬間に剣技を発動させる。

 この辺りの雑魚には正直剣技を使うだけのHPは無いが、感覚を掴むという意味でもMPに余裕がある時には発動させるようにしている。


 基本的に特定の動作をしなければならないとか、技名を叫ばなければいけないといった事もなく、発動させようと思った時に瞬時に発動してくれるのは非常に楽だ。

 しかし、一部の剣技には"構え"が存在しており、魔法にもそれが必要となるものがあるために、慣れた相手に大技を決めるのはやはり難しいだろう。


「絶好調だねえ、もうレベル10じゃん!」

「まあな、衛兵のおっさんも1日1つリピート系の依頼をくれるみたいだしな。結構助かってるよ」


 ロングソードを手に、最後に一匹だけ残ったゴブリンへと切っ先を向ける。


「さて……敵さん相手に使ってみますか」


 腰を大きくひねって切っ先を自分の斜め後ろへと向け、腰を落とす。ゴブリンとの距離は8メートルほど離れており、普通に攻撃すればまず届かない間合いだ。


「一閃!」


 強い踏み込みと、腰を戻す勢いで一気に相手へと距離を詰め、すれ違いざまに高速の斬撃を一発叩き込む。

 俺はゴブリンを一瞬で追い抜き、腰を戻す勢いそのままにゴブリンの方を向く形になる。しかし、ゴブリンは俺の姿を捉え切れなかったのか、背中を向けたまま光となって消えて行った。


「いやあ、すごいね!」

「いろんな意味ですごいな……」


 構えの存在する剣技"一閃"。これは10メートルの距離を一瞬で移動しつつ、その範囲内の相手に斬撃を加える技だ。

 一見、かなり強い技で弱点も無いように思えるのだが、使用中は周囲の風景が見えず、状況が見えなくなってしまうという欠点を持ち合わせている。

 剣技としての効果のおかげか、敵の位置は感覚で理解できるし、壁に激突して大ダメージを受けると言った事は無いようだが、あまり乱用はしない方が良さそうな剣技だ。


「最終的に移動技になったりするやつ、だろうなあ」

「そんな悲しい事言わないでよ!?」


 技も発動してしまえば目にも止まらぬ速さで移動できるものの、動く瞬間はそうではない。この手の技は逆に回避されやすかったり、弾かれやすいというのが相場というものだ。


「ま、状況次第では無双に役立つ剣技なのは確かだろうさ」


 森の中を歩き回り、敵を見つけては攻撃を仕掛ける。


「ところでダックス、魔法は使わないの?」

「使っても弱いんだよな……」


 俺のステータスが低いのか、魔法で攻撃するよりも圧倒的に剣で攻撃した方が楽だ。

 魔法による攻撃方法は光の矢のようなものを撃ち出すくらいで、隙が少なく使い道がないわけではないが、少し相手を怯ませるために使う程度のものだ。


「っと……」


 ぼーっと戦っていたせいか、いつの間にかゴブリンの群れに囲まれていた。


「あんまし油断しすぎるのも考えものか」


 剣を構え、相手の動きに集中する。

 2匹が前から同時に飛びかかり、刃こぼれをした得物を手に俺を仕留めんとばかりに武器を振り下ろす。


「良い連携だな」


 片方の攻撃へと突っ込むようにして回避行動を取り、片方はスキルの絶対回避で、もう片方は普通に攻撃部分から体を外すようにして対処する。

 回避の勢いに乗せて体を回転させて片方のゴブリンへと向かって刃を振り下ろす。まだ体勢を立て直せていないもう1匹のゴブリンへと向かって返す勢いそのままに刃を振るう。


「っぶねえな!」


 俺の攻撃の隙を狙ったのか、後ろから飛びかかるゴブリンへと向かって手を向ける。

 手のひらから光弾が発射され、その光弾はゴブリンへと命中。飛び込んだせいで踏ん張れなかった事もあってか、ゴブリンは後ろへと吹っ飛ばされる。


「数は……残り5ってところか」


 一度距離を取り、全ての相手が視界内に入るように位置を変える。

 動きもかなり慣れてきて乱戦でも勝つ自信はあるが、今そういった戦いをするメリットはない。


「結構セーフに動くよね」

「別に魅せプレイをする必要もないしな、アテナは魅せる方が好きか?」

「どっちでも、まあ知的なのは好きだよ」


 ゴブリンは猪突猛進といった様子で俺へと攻撃を開始する。

 彼らは数は有利だったが、やはり連携を狙ってするという知能は持ち合わせていないようで、それぞれの攻撃をいなして各個撃破する。


「これでレベルが上がるんだもんな……今日はそろそろ帰るか」


 楽に強くなれるという理想と、それ故に刺激のない戦いに複雑な思いを抱きつつ俺は剣を鞘へと納めた。

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