第3話

「っし……こんなもんか?」

「驚いたな、ダックスがここまでやるとは」


 地面へと倒れた衛兵に俺は木剣の切っ先を向けていた。

 朝からチュートリアルがてら衛兵に指南を頼んだのだが、スキルのおかげかどう体を動かせばいいかを直感的に理解し、その通りに動くことが出来ていた。


「それにしても、当たったはずなのに当たっていないとはな……」

「スキルだよ、おじさんのおかげで分かったんだ」


 チュートリアルと踏んで色々と試してみた中で、回避に無敵判定が発生しているのかというものがあった。

 すると、地面を蹴る瞬間に相手の攻撃はどう見ても当たってはいるのだが、俺にダメージが入らないという場合があった。1秒にも満たない時間ではあるが、その間はどうやら無敵になれるらしい。

 そのスキルの名は【絶対回避】というらしく、しれっと俺のスキルウインドウ内に追加されていた。


「一度痛い目に遭わせてやろうかと思ったんだがな……」

「おいおい勘弁してくれって」

「いや、真面目な話、自分のHPを管理する上で大事な部分だからな」


 何度か木剣を貰ったおかげで、体に少しの痛みは感じている。しかし、その痛みのせいで狙ったところに斬撃を繰り出せないのかと言われると、実はそうではない。


「お前は部位損傷については知っているか?」

「部位損傷……?」

「手や足、それぞれに個別にHPがあるんだ。もしもそれらが0になった場合、動かしたくても動かせない状態になる」

「千切れたりとかは――」

「その心配はしなくていい。ただ部位損傷になた部位は通常の回復魔法では回復できないがな」


 厄介な状態異常だ、アテナから毒や麻痺といった定番の状態異常は聞いていたが、部位損傷については聞いていなかったものだ。


「一度体験してみるか? 死にはしないが」

「ちゃんと治せるなら……一回くらい体験しておいた方がいいのかな」

「治せないのに言い出したりはしないさ、それじゃあいくぞ?」


 衛兵の木剣が俺の右腕へと振り下ろされる。


「ッ――!!」


 先ほどまで打ち合いをしていた時とは比べ物にならない鈍痛が走る。悲鳴を上げそうになるも、その悲鳴は声になる事すらないほどのものだ。

 右手に持っていた木剣は地面へと転がり、力を入れようとしても腕がだらんと下がったまま動く気配はない。

 不思議なのは気を失ってもおかしくはない痛みであるのにも関わらず、ひどく冷静に思考を走らせる事ができる事だ。


「下手に戦闘をしかけたり、続ければ実戦でそうなる。時には撤退も立派な作戦になる」


 ブツブツと詠唱をしながら衛兵が魔法を唱える。

 魔法がかかると、先ほどまであった痛みはどこかへと消え、腕もまた問題なく動くようになっていた。


「体が動くからと言って無理に戦闘を続ければ死ぬ。もしも足がやられればその段階で死んでいなくとも死ぬのは時間の問題だろう。HPはしっかりと管理するんだぞ」

「気を付けるとするよ。ありがとう」

「ま、動きに関しては俺から教える必要もないな……ただ、一つ渡しておきたいスキルがある」


 そう言うとほぼ同時に、何かしらのスキルが付与されたのか、彼の大まかな強さが分かるようになった。

 具体的に言えばレベルだ、彼が何が得意なのかまでは分からないが、彼のHPとレベルが本能的に理解できるようになったような感覚だ。


「レベル感知だ。そのスキルは絶対というわけでもないが、あるかないかではかなり違うだろう」

「ありがとう。ところで、スキルって誰にでも渡せたりするものなのか?」

「条件がそろっていればだな、レベル、譲渡スキル、相手が受け入れるかどうか……ま、簡単なもんじゃないのは確かだ」

「なるほど」

「さて……仕事のクチはあるのか?」


 木剣を衛兵へと返すと、彼はそう言葉を続ける。


「いや、村の掲示板に魔物退治の依頼でもないか見に行くところだけど」

「なら丁度いい、腕鳴らしにコボルトを退治してきて欲しいんだ」

「ふむ……報酬は?」

「10匹の討伐で130ノア。悪くはないだろう」


 ウルというのはこの世界での通貨単位だ。コボルトは群れていなければ素人でも狩れる獣人のような魔物だ。

 中には死んだ冒険者の武器を使って武装しているものもいるが、手入れもされておらず、ただただ振り回して使うだけであるせいか、攻撃されてもそれほどダメージを受けないと言う。


「他に仕事のアテもないしな、受けるよ」

「助かる。まあ無理だけはしないようにな」

「分かってるさ」


 俺は装備を確認し、太陽が真上から大地を照らす中、村の外へと踏み出した。

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