第2話
「――あれ」
ぼーっとしてしまったのだろうか、目の前のモニターは真っ暗になっており、体勢を崩してしまったのか視界がやや低いように感じられる。
「なっ……」
体勢を直そうと椅子に手をかけ、視線がずれた時に違和感を感じる。
見渡してみるとそこはログハウスの部屋のようになっており、天井からはランタンがぶら下がり、壁に貼ってあったはずのポスターは無く、落ち着いた木目が広がっている。
違和感はそれだけではない。
外国でもないのに俺は部屋の中であるというのに靴を履いている。それに着ていた服も着古したジャージからゆったりとした洋服に変わっている。
「何が起きて……」
思わず椅子から立ち上がり、動揺する。
「何がって、転生ってやつだよ。流行ってるでしょ?」
「んなっ!?」
不意に後ろから聞こえる女の子の声。
振り向くとそこにいたのは妙な光の玉だ。まるで人魂のようにふよふよと空中に浮かんでおり、声はそこからしているのが分かった。
「一体何がどうなって……」
「最初の注意書きに同意したでしょ? 前の世界とサヨナラしてこっちの世界の住人になるって」
「んな、アレがマジだったってのか……いや……でも……」
サプライズにしてはクオリティが高すぎる上に、窓の外から見える景色も記憶にある物とは全然違うものが広がっている。
信じがたい事ではあるが、逆にこれがサプライズの類ではないと訴え続ける方が無理のある状況だ。
「そうなると……あんたが神様?」
「そう、君に加護を与えるのは私」
「ちっちゃいんだな……」
「そりゃね、権能のごく一部だけだから。あくまで助言とかしてあげられるだけで、私自身が降臨して無双! とかは出来ないよ」
「無双できるような神様ってなると……武神とかそんな感じの」
「私の名前はアテナ、ミネルヴァとも呼ばれるね」
ギシリャ神話の大御所の1柱だ。それ以外に知っているのはアイギスという盾を持っている事くらいか。
「俺の名前は若林 智明、よろしく」
「ノンノン、こっちで君の名前はダックスだよ。最初にそう決めたでしょ?」
「それはキャラの名前であってだな」
「んー、でも会う人はみんなダックスって呼ぶよ? ゲームでもそうでしょ?」
確かに、ゲーム内キャラがプレイヤーの名前を知っているはずはない。
「一応大雑把にだけど説明するね。まずこの世界なんだけど――」
この世界は神々によって新しく創られた世界なのだそうだ。
ギリシャ神話の神に限らず、タイトルにもあった通り北欧神話、日本神話、様々な神々の案をまとめて出来上がった世界。
地球にあるゲームの影響を受けているらしくレベルの概念があり、様々な魔法や科学が共生しており、魔物や戦争に犯罪といった黒い要素も多くあるのだと言う。
「短くまとめると、RPGの世界に放り込まれたって感じ……なのか」
「まあそうだね、ただ別にいい子ちゃんでいる必要もないし、はたまた普通に生活しても問題はないよ。もちろん主人公らしく動いてもいいしね」
「主人公らしくって言われてもな」
「ダックスは戦闘には興味あるの?」
「あるね、魔物相手に剣を振るってのは……割と憧れではあったし」
敵の攻撃をいなして攻撃するゲームキャラクターはシンプルにカッコいいと思う。
もしも自分がそれになれたら、そう思う人は意外と多いのではないだろうか。
「なら、それをやってみたらいいよ」
「つっても、剣術とかそういうのは習った事無いんだけど」
「大丈夫、スキルウインドウを開いてみて」
「開いてみてっつわれても……出来た」
まるでコンタクトレンズのARのように、俺の視界の中に俺の所持スキルが表示された。
今俺が持っているスキルは【主人公補正】【近接戦闘LV1】【初級魔法】となっているようで、他にも細々としたステータスも表示されているようだ。
「アイテムインベントリの開き方、マップの出し方、その辺りは多分分かるでしょ?」
「あぁ……」
ゲームならどのキーを押してメニュー、といったチュートリアルの段階なのだろうが、そのすべてがまるで既に知っていたように頭の中に浮かんでくる。
「もしも実戦形式で学びたいとかあったら、村の衛兵にでも頼めばいいよ」
「頼むって……初対面だろ」
「あんまりゲームとかしたこと無い? 最初の村のNPCっていうのは都合がいい感じに色々こっちのこと知ってくれてるものだよ」
「ううん……とりあえず、聞きたい事一通り聞いて良いか?」
「構わないよ、分からないところは分からないとしか言えないけどね」
様々なゲームであった事、こういうのがあればいいと思う事というのは多くある。
アテナへと質問を続けていると、気が付けば既に辺りは暗くなっていた。
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