第6話:裏切り
「ぐっはっ」
私は大量の吐血をしてしまいました。
それも猛毒によって真っ黒に変色してしまった自分の血です。
「キャアアアアアアアア」
「お嬢様、ルイーセお嬢様」
「治癒術師と薬師を呼べ、毒見役、何をやっていたのだ、愚か者が」
愚か者は貴男ですよ、城代家老ガンビーノ。
私が人の心を読めることを知らないとはいえ、腹立たしい演技をしてくれますね。
それでもエドムンド公爵家の一門衆筆頭ですか。
教会の命だから仕方がないと自分に言い訳しながら、本心は教会の力で独立した貴族になる欲望に憑りつかれた不忠者が。
教会から渡された特殊な猛毒。
無味無臭なのは当たり前で、真銀にも反応しない貴族殺しの秘毒。
しかも五つの毒を一緒に服用しなければ毒化しない、一般に知られていない毒。
その五つの毒を私が使うカトラリー、ナイフやフォークの一つ一つに塗って毒見役の目と舌を逃れられたのは、城代家老の権力があったからこそ。
「だ、だれも、誰も処罰してはいけません。
城代家老、処罰したら隠蔽工作だと判断します。
みなも、皆もよく覚えておきなさい。
誰かが処罰されたら、処罰した者が犯人だと思いなさい。
そしてその事を父上と母上に報告しなさい」
実際にはこんなにスラスラと話したわけではありません。
猛毒に犯されて死にかけている演技をしているのですから。
つっかえながら、かすれる声で、休みながら話しました、とても臭い演技で。
そして話しながら、毒から生き残ることができた理由付けもしています。
慌てふためいたり硬直したりしている家臣使用人を無視して、水をがぶ飲みしては、真っ黒な血や固まりかけた血を吐きだす姿を見せつけます。
まあ、全部演技です。
生き残るために見たくも感じたくもない家臣使用人達の心を読んで、その醜悪さに辟易したり、秘密を知ってしまった申し訳なさに胸を痛めたり羞恥心を刺激されたりして、ようやく手に入れた裏切りの心情に対処していたのです。
自分の血をあらかじめ蓄えて、隔離した状況で毒と反応させて吐いただけです。
これで私が寝たきりになっても誰も疑わないでしょう。
さて、私に疑っていると言い切られた城代家老はどう動くでしょうか。
私を確実に殺せなかった教会はどう動くでしょうか。
面目を潰されたグスタフ国王は教会との開戦を決断するのでしょうか。
オスカル王子が私のために怒って下さったら嬉しいですね。
愛する娘を殺されかけた父上と母上が暴走しなければいいのですが……
父上と母上が暴走されて死傷されるような事になっては大変ですね。
密かに真実をお知らせするか、いっそ天罰を偽って教会を滅ぼしてしまいますか。
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