第4話いきなりクライマックス系男子
深紅色のスパークが収まる。
その発生源にいたモノは白煙を体から上げており焦げ臭い匂いが鼻を掠める、怪物は雷で焼き焦がされていて身体中がかなり炭化していた。
それでも焼け爛れているだろう掠れた喉から不気味な唸り声や体がピクリ、ピクリと痙攣して動くあたり、あれほどの電撃を食らっても尚死んでいない化け物に対する恐怖と、どうして死んでいないのだろうという関心が同時にこみあげてくる。
「なんで死んでないのって顔ね。
私も初めて見た時そう思ったわ。」
「…読心術とかじゃないよな?
俺ってそんなに顔に出やすいのか…?」
あまりにも心の内的にドンピシャなので、引き気味に答える。
それともこいつは心理学や目星スキルを俺に使ってんじゃないか?(錯乱)
そういう電波女を見ると額に大汗、呼吸が浅く早くなっていてかなり疲労しているようにみえる。
なんか小っ恥ずかしい詠唱してたし、さっきの技は必殺技っぽかった。
ド派手に雷をたくさんバチバチさせてたし、RPG的に考えてMP的なのをガッツリ消費したんだろ、うん。
電波女が袖の辺りをまさぐり小さなナイフを取り出す、そして手早く俺を縛っているロープを切り落とした。
うっかりで縛られた挙句わりと雑に解放された…
マジで何の意味もなかった感じか…
ようやく拘束がなくなって両手が自由になった。
どうにも邪魔なので、視野を半分ほど奪っている札を強引に引き剥がす。なんかデコにバチバチと静電気みたいな感じの痺れがあってちょっと痛いが、マジでなんなんだこれ。
こんにゃろ、謝罪くらいしてもらいたいものだが、なんか助けてくれたっぽいので怒るに怒れない…
その後、電波女が空中の結界の札に触れると結界らしい膜はまるで硝子が割れていくかのようにヒビ割れて消滅していく、薄緑色の光の破片がヒラヒラと教室の床に吸い込まれ消えていく。
そしてズカズカと化け物の方に近づいて、ってちょ!?
「まだ生きてる…っぽいが!?
危ないんじゃないか!?!」
ど素人の俺の忠告なんてお構い無しに化け物に近づいて再び1枚の札を化け物に投擲、投擲された札は胴体部にしっかりと貼り付けた。
「生け捕りにしたんだから当たり前でしょ!さっき言った通り、こいつは赤紙青紙なんかじゃないわ。
文字通り、コイツの化けの皮をひん剥いてやりましょう!」
電波女が小声で何かを呟くと、札から紙垂が結ばれた数本の金属チェーンがさながら噴水のように飛び出し、化け物の体を縛り上げて拘束する。
拘束を確認した後、また5枚の札を空中に投擲し五芒星を描いた後、今度は赤い色の結界が化け物を中心に展開した。
「わかりやすくて助かったわ、何せ最初に持っていた武器が鎌なんですから。
ねぇ?鎌鼬かまいたちさん?」
すると鎌鼬、という単語に反応するかのように半ば炭の塊と化していたモノがひび割れ始め、中から一回り小さな獣らしきものが見え始める、同時に体積の縮んだ余剰を埋めるようにチェーンが更に食い込んで拘束を強める。
「案外丈夫にテクスチャが張り付いてるわね…でも、もうひと踏ん張りってトコか…。
じゃあもうちょっと私の推理を聞いてなさいな、7不思議において赤紙青紙は赤を選ぶと血塗れ、青を選ぶと血を抜かれ真っ青になって死ぬって話だけど、どうにも辻褄が合わないことが1つあるのよね」
電波女が一呼吸開けた。
……?
鎌鼬ってあれだろ?凄い風が吹いて、痛くないのに気付いたら切られてるって妖怪だったと思うが。
全くもって赤紙青紙との関連性が分からないし、正直何言ってるかわけわかめである。
てか鎌鼬って大して恐ろしい妖怪って感じしないのに、さっき襲われた時十分にめちゃくちゃ怖かったんだけど。
「そこで頭捻って考えてる男も知りたがってるし、答え合わせといきましょうか。」
うん、微塵もわからんから是非とも頼む。
「簡単よ、どんなに上手く鎌を使っても、血塗れには出来ても血だけを抜きとって真っ青になんて出来るわけないじゃない」
「…確かにそうだわ。」
色々と分からないけどなんとなく納得はした、確かに鎌で注射器みたいに血を抜くのは無理だわ。
その言葉に呼応したかのようにひび割れていた炭の塊はボロボロと完全に崩壊し、一回り小さい鎌のような前足を持つ獣が中から姿を表す。
サイズが変わったことで一瞬緩みかけたが、それと同時に注連縄を模したようなチェーンは自動で再び強固に拘束し直した。
鎌鼬は金属チェーンでがんじがらめに縛られても尚、殺気を滾らせた蒼い縦割れの瞳孔で俺たちを睨みつけている。
「ご明察、私は鎌鼬さね。
あ〜、なんでこうも見え透いた罠なんかに引っかかっちまったかねェ。
年の功ってのも、案外当てにならんわな。
で、私をどうするんだい?弟みたく惨たらしく殺すのかい?
ならさっさとやりな、こちとらとっくに覚悟は出来てるよっ!」
老人地味た嗄れた声で大きな鼬が叫んだ、ってかさっきは片言だったりキャラが安定してねえなこいつ!?
「ぇ!?そんなスラスラ喋れんのかよ!?」
予想外すぎて声に出てしまった、やびっ。
化け物改め鎌鼬とそれよりもっと恐ろしい巫女の視線が同時にこちらを捉える。
思ったことがついつい口から零れてたわ、だから巫女さん?そんなイライラした雰囲気を醸さないで頂けますでしょうか?
いやだってさ、さっき襲ってきた時めちゃくちゃ片言で喋ってたじゃん!?
オレワルクナイ。ワルイノ、アイツ。でもとりあえず平謝りである、世知辛れえ…
割と必死に頭を下げていたのが功を奏して、巫女の理不尽かつ不当な暴力案件には発展はしなかった。
いいわよもう、と巫女がこちらに若干煩わしそうに手を払い、浅いため息の後先ほどの鎌鼬の質問に対して返答する。
「殺しはしないわ。 隣の馬鹿どもとは違って、こっちの組織は統率も取れている。 封印した後、組織下で身柄を管理させてもらうわ。」
「そりゃ穏やかで安心さね。
ところでお嬢ちゃん?何か勘違いしちゃいないかね?」
封印、という言葉に対して皮肉を返した鎌鼬がクツクツと癖のある笑いをこぼした。
…なんだろう、悪寒がする。
俺を襲ったやつは化け物はスラスラと喋っていた。でもこいつは今はスラスラと喋るが、化け物形態の時は片言で喋っていた。
どうしても違和感が拭いきれない、鎌鼬、封印…違う、隣町がなんとかって、確か弟…弟……!!!??
鎌鼬が発した弟というワードで完全に思い出した、そうだ、そうだった…っ!!
隣に突っ立ってドヤ顔かましてる(っぽい)電波女にまくし立てるように叫ぶ。
「おい電波女!さっさと封印しろ!!!」
マズイマズイマズイマズイッッ!!
俺が昔読んだ本に書いてあったこと、あれが覚え間違えでなければッッ!!!!
「何よ急に焦りだして。 まあ、言われなくても今するわよ。 封印術式符、紅種、蠅捕草ッ!?」
見慣れ始めた赤色のスパークと共に突風、室内では絶対に吹き付けることがないような強烈な風でバランスが崩れ、2人揃って尻もちをついてしまう。
風と赤色の稲光りが止んだ正面を見る。
すぐそこで拘束された鎌鼬は姿を消し、それと入れ替わるように大型犬より一回り程大きく、そして先ほどの鎌鼬とは違って尾が半ばから先端に向かって鎌のように変形している鼬が姿を現していた。
やっぱり、いない訳が無い。
「2匹目…ッ!」
「ッチ、馬鹿な弟がよ、儂が来るまで待てといったろうに、まあいいわ、そこな巫女をバラバラにする前に術を解いてもらえば万事問題ないからのぅ」
淡々と、しかし悲しそうな声色で現れた2匹目が言葉を漏らす。
しわがれた声は先ほどまでそこにいた1匹目と区別がつかないほど似ている、やっぱり兄弟がもう1匹いたのか!
そうだ、昔どこかで読んだことがある。
鎌鼬は3匹で行動する妖怪であり1匹目が人を転ばし、2匹目が鎌で切り裂く、そして3匹目がその傷に薬を塗る三位一体の妖怪だと。
そして鎌鼬が起こした裂傷が痛くなかったという伝承はこの3匹目が去り際に塗っていく薬によるものだという。
「っ!?アイツの報告では弟の鎌鼬は討伐したって聞いたのにッ!!?」
電波女は明らかに動揺している。
口走ってた事から推測するに、敵の数を誤報されていたんだろうか。
…もしも、マジでさすがにそんなことはないと思うが…1匹分の装備しか整えていなかった場合、この状況はかなり恐ろしいのでは…?
「…一応聞いておきたいんですけど、予備の札ってあるの?」
「………」
「…あー、うん、OK、分かった。」
小声で目下一番の心配事を尋ねると無言の返答が帰ってきた、なんか冷や汗かいてないですか?
…うげえ、明らかにピンチだ。
逃げようにもドアと俺らとの間には鎌鼬がギラギラと目を光らせて居座ってらっしゃる。
…この教室は1階東校舎、正門からは遠いが裏門がある。
つまり逃げようと思えば逃げられるかもしれないってことだ。さっきの話を推測するに、今の所鎌鼬は学校から出ることはないということだと思う。
とりあえずの状況整理完了、これは逃げる以外の選択肢はないな。
逃走の下準備のために素早く横目で窓を確認する。
…窓の鍵は掛かってない、田舎特有の無警戒さに助けられてばっかりだよ畜生。
逃走の旨を電波女に知らせるべく、巫女服の裾を軽く引っ張る。
此方をチラリを見るがすぐに正面の鎌鼬に注意を戻す。一瞬交わった視線には、先ほどまでの軽くお気楽な雰囲気はひとかけらほども感じられなかった。
なるべく鎌鼬を刺激しないようにゆっくりと腰を上げ、電波女の後ろ側、守られているように見えるような位置、そして鎌鼬から見て若干死角となる位置に移動する。
「後方、窓、俺がやる。」
ギリギリ聞こえるような小声で耳元で囁く。
明確な返答はなし。しかし反対されなかったということはここで逃げの一手を選択するのは間違いではないってことなんだろう。
すると電波女はもう一度此方に目を向け、目が合うと視線が鎌鼬から通らない位置にある自らの左手に下げ、俺の視線を自身の手へと誘導する。
電波女の手が3を示していた。
…なるほど、スリーカウントでGOと。
少しづつ体を後退させ、すぐに窓を開けられるよう窓側に近づいていく。
後方を確認する、窓までは1メートルと少し程度で、やはりさっき確認した様に窓の鍵は奇跡的に開いていた。田舎の不用心さに今日ほど感謝した日はないだろう。
「それで?そちら様の目的は復讐?
聞いた話だとところ構わず人を襲ってたんでしょ?
じゃあ、どうなるかなんて簡単にわかるじゃない。」
鎌鼬の気を逸らすためか電波女が話しかける、同時にカウントが進む。
「ま、そうだわなあ。
でもよォ?こちとらそうでもしねえとそろそろ体がもたんよ。
科学の進歩のせいで儂らの正体はたまたま発生した真空のせいになっちまった。
姿も見せんでじぃ〜っとしてたら儂らはすぐにでも消て無くなっちまうよお。」
「往生際が悪くないかしらね?消えるものは消える、それが世の常だと思うのだけど?」
「言ってくれるじゃねえの、まあその通りなんだけどよォ。
そう、別に消えるのもやぶさかじゃなかったんだけどよ、今はちいとばかり状況が違うってワケだ。
ーーー今までは儂らは3匹で協力して生き延びてきた、でもお前らの仲間が儂らの大切な弟を焼き殺した。」
間延びしている語尾からは想像もできないほどぎらついた瞳が俺たちに突き刺さる。
短期間に3度も味わった明確な敵意、それに少し慣れてきたのか今度は少し程度の足の震えで済んだ。
「だから隣町のあのクソ坊主は殺す、何としてでも殺す。そのためなら往生際が悪くたって構いやしねえっての。
ーーーそれによォ?お前さんは儂を頭数に入れとらんかったようじゃのぉ…好都合じゃい。」
弟と同じクツクツと独特な笑い方で語りかけてくるがその目は一切笑ってない様に見えた。
てかバレテーラ、あれ?ほぼ積み…?
顔から脂汗が滲み出てくるのがわかる、しかしなんでもないように電波女の左手のカウントは進む。
最後のカウント、カウント1。
さっきの沈黙、実は秘策的な何かがあったんだろうか?
「別にアンタ程度の低級妖怪の1匹や2匹、物理で殴って封印する程度のことを出来ないとでも思ってんのかし、らッ!!!」
突如電波女が右手にいつの間にか握っていた何かを床に向かって全力投球、ブン投げる。
鎌鼬の足元で何かが硬いナニカが砕けちる音、同時に部屋一体を五里霧中にするほどの大量の灰煙が巻上がった。
日はほぼ沈み、残り僅かな陽の光が刺す暗がりの教室、ただでさえ視界の悪い教室が更に輪郭を無くす…!
煙から漂っているのだろうか、鼻を擽る甘い香りと同時に辛うじて見えるカウント0…!
素早く振り向き全力で窓に向かって疾走、その勢いで窓を横に強引に押し開けて窓枠に足をかける。
あとがつっかえるとまずいから急いで飛ばないと…ッ!!
「ぬゥっ!!柊の灰煙かッ!?
だが甘いわっッ!!」
「ッッ!!!?!」
体を宙に放った直後、先程教室で巻き上がったのと同じ突風に煽られて空中でバランスを崩し世界がひっくり返る。
体が風に煽られてバランスを崩し、空中で半回転したと気付くか気付かないかというところで激痛。
ッアっ…?!頭っっ…
追い風を受けた体。格闘技なんてやったことないど素人の俺が受け身なんて当然取れず、自由落下したそばからそのまま地面を勢い良く転がる。
景色が二転三転し、背中に重い衝撃が走る。
固い何かに衝突したのか回転が止まった、でも痛くない、痛覚がトんだ…?
全身くまなく打ち付けただろう体に水に沈んでいくかのような感覚で力が抜けていく、同時に世界が輪郭を失いまるでトリックアートみたいに見える景色が歪み始めた。
もう指一本動かない。
ひっくり返ってそのまま地面にぶつかったのか…?っ…意識が…
(……ァ)
意識が遠くなっていく感覚。このまま気絶したら拙いなんて明確だが、しかし意識はどんどん暗い水底に落ちる。
(電波女…どうなった)
意識を手放す直前、最後の底力か走馬灯か、数瞬前の出来事がはっきりとフラッシュバックした。
気絶する直前に辛うじて見えていた逆さまの光景では、大量の煙が窓から吹き飛んでいく様子と頬に生暖かいナニカが降りかかった事。
そして最後に見えたのは窓枠に一歩届かなかった電波女が風で大きくバランスを崩したのか、そのまま背を鎌鼬に切り裂かれるという惨事だった。
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