五つ目の話 体育大会と応援衣装

 九月某日。晴天。グラウンド。

「これがウンドウカイか。おもしろいな」

 客席テントに、足を投げ出して座るキリノ。

「あ!ちょっと遅いけど、おはようキリノちゃん!」

「おはようハナオ。いいはしりだったぞ」

 午前の競技が終わり、体育着姿のハナオが駆け寄ってきた。

「いつもより、にぎやかだな」

「キリノちゃんは体育大会初めてだっけ?」

「ああ。なかなかたのしめる」

 キリノは伸びをして、辺りを見回す。

「いまはきゅうけいじかんか?」

「うん!今なら遊べるよ!」

「あそびたいわけではないが……」

 こぶしを握るハナオは、まだまだ元気が有り余っているようだ。

「われは、オウエンガッセンというものがみてみたい」

「うーん、応援合戦かぁ……」

「むりなのか?」

 キリノの提案に、頭を悩ませるハナオ。

「後半になくはないけど、あたしは出ないんだよねー」

「そうなのか?ハナオがもっともかがやくきょうぎ、ときいたが」

「そうだけど誰から聞いたの?」

「ハナオのおかあさまだ」

 落ち込んだ声色のキリノ。ハナオがしゃがんで、キリノの頬をつまむ。

「いつの間にママと仲良くなったの!挨拶してもらう日を考え中だったのに!」

ふはんすまん……」

 反射的にキリノが謝るが、ハナオは勢いよく立ち上がった。

「キリノちゃんが一人で挨拶しにいけたなんて!あたし感動した!」

「そっちなのか……」

「また今度、キリノちゃんのパパママにも挨拶いかなくちゃ!」

「かおをあわせたくらいだ。そうゆうことは、ケッコンするちょくぜんにしてくれ……」

 意気込むハナオに、キリノが頭を抱える。

「それよりも。ハナオのオウエンガッセンが、どうしてもみたいのだ」

「でもねー、衣装がないと出来ないんだよねー?気分が乗らないとできないの」

「それならしんぱいない。ハナオのおかあさまからわたされた」

「さすがママ、準備いい!…………あー、そっち?」

 キリノが掲げた服、それはチアガールの衣装だった。タンクトップとミニスカートで構成された、アレである。これには、さすがのハナオも躊躇してしまう。

「ちょーっと、難しいかなぁ……」

「(わくわく)」

「えっと……」

 しかし、キリノからの期待の圧がすごく、断ろうにも断れない。

「そういえば、くろいふくももらったぞ。ハナオにはすこし、ちいさいが」

 続けて、キリノが学ランを取り出した。ハナオには小さいが、キリノには少し大きいサイズだ。

 ソレを視界に映した直後、ハナオの思考に稲光いなびかりが走った。

「──オッケー着る!着るからキリノちゃんも一緒にソレ着て!いくよー!」

「わ、われもか?まってくれー!」

 脱兎の如く駆け出すハナオ。キリノも慌てて走り出す。

「ナイスママ!いえーい!」



「──ちょっと肌寒いかも?」

 お決まりのへそだしコーデでトイレから出てきたハナオ。明るい暖色で構成されたチア衣装がハナオの活発さをよく表した、ベターコーデだ。

「さてさてキリノちゃんは、どんな感じかな~♪」

 ボンボンを手に、トイレの前で待つ。少しして、か細い声でキリノが姿を現した。

「これでいいのか……?ズボンのたけが、やけにみじかいのだが……」

 恐る恐るといった様子で出てきたキリノは、オーバーサイズの学ランを纏っていた。裾が長くズボンが短いため、スカートのように見える。腕がそでの長さに負け、袖が途中で折れ下がっていた。

 刹那。ハナオがキリノに飛び付いた。

「か・わ・い・い~♡お人形みたいだねキリノちゃん!」

「わぷ……。そうなのか?おおきすぎて、ださくないか?」

「そ・こ・が!いいんだよ!ヤバい可愛い~!」

「わぷぷっ!ハナオ!おなかあたってる!」

 抱きつかれたキリノの顔に、ハナオの素肌が押し付けられ、キリノの顔は真っ赤になる。

「ハナオはときどき、ろしゅつがはげしいのだ!」

「そんなこと言っても、ホントは見たいと思ってるでしょ~?」

「ほかのおんなにみせたくないのだ!」

「…………へ?」

 キリノによる不意討ちに、ハナオが硬直。体が熱を帯びてくる。

「…………っ!ち、ちがう!どくせんしたいとかではない!どくせんよくだ!あれ?こんがらがってきた!──っ!すきだ!ハナオ!」

「待って待って急にどうしたの!?S・N・C・Q!深呼吸して!」

 目を回すキリノに、ブンブンと腕を振るハナオ。

「すー、はー。……すまない、とりみだした。あと、さっきのデタラメアルファベットはなんだ」

SNCQだけど?」

「Qがごういんすぎる!」

「E・E・N・O!べつにいいの!」

「エエノじゃないか!」

「じゃあキリノちゃんもやってみてよ!」

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かけるノーム へーたん @heytan

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